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ゲンロンSF創作講座5期第3回梗概感想①

「この記事はなんなん?」

「えーとね」

「うん」

「人様の梗概を読んで感想に似たなにかを書いていこう、という趣旨でね」

「第3回という中途半端なタイミングではあるけどね」

「そうそう、1回と2回の梗概はあまり読めていない」

「なんで対話形式?」

「ええやん。そういうのやってみたかってん」

「ほー」

「あと、これを書いている時点ですでに円城先生が梗概へのコメントを公開されてしまったけど、それは読まずに書こうと思う」

「影響を受けてしまうかもしらんからか?」

「そうそう」

「オッケイ。そろそろ始めよか」

「まずは円城塔先生から出されたお題から見ていくか」

「『自分の得意なものを書きなさい』とあるな」

「これは難しそう。お話を作るためのとっかかり的なテーマじゃないし。とりあえず何個か書いてみて、それらを眺めてなんとなく自分の得意そうなものを見極める、というのが良いのかな」

「提出作を見ていくと、アピール文で得意だと思うものの解説がなされていたりする」

「それはいいのか? という気もするな。読者が梗概を読んでもわかるように、というお題なのでは、という」

「けど自分が書く側なら書くでしょ?」

「それはそう」


今野明広「中国語をよんだだけなのに」

「最初は今野明広さんの『中国語をよんだだけなのに』」

「いきなり何かを言うのが難しい作品が来たな」

「個人的な好みで言うと好き」

「その前置きは少し怖いけど……」

「あいつって誰のことなのかがわからなかった。見落としているだけかもしれないが」

「アピール文を読むと異星人のことにも読める」

「なにか、こう、長恨歌とか異星人とか謝らないとかミラーニューロンとか、それらが繋がっていない感じはする。ただそれが良さになる場合がある」

「今野さんだしな」


六角大輔「逆回し死刑執行人」

「次は六角大輔さんの『逆回し死刑執行人』」

「面白い。好きな雰囲気の作品だわ」

「形式にしか興味がないとアピール文にあるが、そのことと、歴史上の人物をキャラクターに採用することは理にかなっているな。外注してしまえと。やりすぎると怒られるんだろうけど」

「六角さんは第1回でも遡行している。遡行作家かもしれない」

「逆回しの描写がどれだけ面白く書けるかにかかっているという印象だな。あとは当時の風俗をどれくらい書きこむか」

「書きこみすぎるとジャンルが変わるし、書きこまな過ぎると厚みが減るってことか」

「逆回しなのにラストがデュ・バリー夫人のシーンなのはどういう処理なのかな。シンプルに考えれば逆回しのラストは処刑人サンソンの最初の仕事とかになるだろうから、シーンを飛ばすのかな」


無想真「黒い薬罐」

「無想真さんの『黒い薬罐』。薬罐は字が一発で変換されない」

「それはいいでしょ。アピール文を読むと5000字から10000字予定だそうだ」

「梗概で完結している感じはあるな。5000字よりも少なくて良い気もする。梗概の倍くらいの量で、カップラーメン以降の描写に1500字くらい割くとか」

「あるいは薬罐をめっちゃ使いまくるデスノート的な話で長くやるとか……、いや、これはあんまりよくない気がしてきた」

「デス薬罐。どうすれば誰にダメージが行くのかとか、そういうルールを作りこめば行けるか?」

「ギャグになるだろうな」

「確かにな。シューシューとか、カタンカタンとか、そういう音で怖がらせるのは良いと思う。文字でちゃんと怖い。使いまくってほしい」


あいだ「女神の死を待つ女」

「あいださんの『女神の死を待つ女』。プロフィールによると百合とBLが好きな方らしい」

「とするとこの作品は百合になるのかな?」

「かもしれん。まあ、あまりジャンルの話をしてもしょうがないので先に進めるけど、『あたし』をどう処理するかが難しそう」

「見届ける役目なんかな」

「この『あたし』が将来のアーサなのか、カンナなのか。暗示させる終わらせ方をすると余韻が良い具合に残る短編になりそうだよな」

「あとは特殊な世界をどれだけもっともらしく説明するか、かなあ」

「学園の外がどうなってるかは実作では少しくらい書いてほしい」

「それも程度問題だろうけどね。大きくて重いゆえに老化がゆっくりな人間の歯を磨けるのか、とか気になるが、それを気にする作品でもないと思うし」

「少し話が変わって。気の長い、毒を与える話に『竜のグリオールに絵を描いた男』があるので参考になるかもしれない」

「なるかなあ……」

「ならんか」


フジキヒデキ「サフィール踊り子殺人事件」

「フジキヒデキさんの『サフィール踊り子殺人事件』。殺人事件なの、これ」

「それはアピール文にある。まちがいではないだろうということらしい」

「合ってもないと思うが。で、これは中盤の3人の会話が面白く書けるかどうか勝負だと思うので、梗概で特に言うことはない」

「漠然と踊り子を待つおっさん3人は結構面白いけどな」

「あとは梗概ラスト2行の伏線をどうやって貼るか、かな」

「アピール文の、鉄道成分が多いことを鉄分多めというのはフジキさんのオリジナルかな? 楽しい」

「あんたこういう言い回し好きだもんな」

「うん」


葉々「けりのあるとき」

「葉々さんの『けりのあるとき』」

「円城塔読者感がある。課題講評が円城さんのときにやる胆力が凄い」

「『得意なものはなんですか』という問いに『古典文法の品詞分解が好きです』と答えるのも面白い」

「あんたはアピール文にばっか言及するよな」

「ごめん。で、これは2万字書くのかな」

「どうだろう。品詞分解に詳しくないから難しく思えるだけで、書ける人には書けるのかもしれない。ただ、読む側からすればこの梗概の感じが2万字あったら困惑する」

「読むだけで古典文法の大枠を摑める、みたいな話にして教科書に載ってほしい」


原里実「神とわたしの一年間」

「原里実さんの『神とわたしの一年間』」

「安定感のある梗概って感じだな。実作を書ききる意志を感じる」

「三角関係の部分がこの作品の広げどころかなあ。三角関係になってからの綾の振る舞いが梗概では書かれていないので、実作でどうするかで読み味が変わりそう」

「排泄物が肥料になって作物を豊かにする、という辺りに保食神とのつながりを感じるけど、この作中の『神』は宗教的な『神』と同一なのかな?」

「あー、どうだろう。確かに名称が『神』なのは、なんでそうなのかちょっと疑問が出るかも。いや、あんたが気にしすぎなんだろうけど」

「じゃあそれはいいのか。あとは神の行動とか発言とかが梗概には詳しく書かれてないから、ちょっと不気味な雰囲気を感じる。コミュニケーションとれるのか、みたいな」

「とれるでしょ。コミュニケーションとる話でしょ」

「そうね。どんな口調なのか、実作が楽しみ」


長谷川京「量れない〈親|子〉のパラドックス」

「長谷川京さんの『量れない〈親|子〉のパラドックス』」

「タイトルが結構好み。ストーリーも面白そう。『親の言うことを聞け』とか言われたら反抗したくなるよな。そこにひとつ伏線を置いておくってことかな。上手いと思う」

「正直マクロなコヒーレンス状態がどういった状態を指すのか、さっぱり知らないけど、それでも問題なく読めそうな雰囲気はある」

「魔王を倒すのが目的のゲームを今どきやるのか、という疑問はあるけどな」

「いや、そこで何か詳細なゲーム内世界の説明が入っても困るでしょ」

「それもそうか。まあどれくらいRPGのテンプレを使うのかはバランス感覚が試される気はする。テンプレを使いすぎると、現実世界パートで浮くし」


駆乱直之「皆殺しの雪」

「駆乱直之さんの『皆殺しの雪』。絵が強い印象だな」

「好きな雰囲気だ。今敏と押井守の……と言って良いのかわからないけど、漫画『セラフィム』みたいな雰囲気を連想したわ」

「わたしは『ナウシカ』みたいなイメージ」

「そういうタッチな感じはある。恋人を殺した帝国に復讐をしかける姉を止める弟、という話の骨格はシンプルだけど良い」

「うん。この姉の恋人と弟は面識があったのかな?」

「あってほしいな。なくてもお互い一応は知ってるとか。じゃないと恋人が便利に使われてる感が出てしまう」

「そうだな。あとは帝国が出てくる世界観でナノマシンという言葉はありなのか、という」

「造語の方が良いと?」

「うん。それだけで一気に世界観が広がる。レールガンとかもそう」

「レールガンは急に出てくるよね」

「梗概段階ではこう書くしかないと思うけど。実作になったらもう少し伏線的なものが挟まるんじゃないかな」


方野佐保「妖精の舞う海」

「方野佐保さんの『妖精の舞う海』」

「好き。羽化フェチなので。でも2万字で終わるんかな?」

「確かに、連合軍がエレトリアを解放するあたりで1万字を突破しそうな気はする。そうなると文字数足りないんじゃないかな」

「映像装置というワードはこれでいいんかな。それまでに築いてきた世界観を壊しかねないと思う」

「造語?」

「あるいは、実は幻なのだ! 幻が発生する土地柄なのだ! みたいな開き直り方をしてもいいと思う」

「ニンフになったら記憶を失うってことは、テティスの最後に得る結論も忘れちゃうんでしょ? 心はヒトってあるけどニンフに心はあるのか、みたいなことは気になる」

「この結論で良いのかってこと? 忘れるとわかっていても、自分はヒトなのだ、と言うことに盛り上がりがあるんじゃないかな。『これからはすべてが良くなるよ』と言って終わる感じでしょ。そこに穏やかなエモーショナルがあるんだよ」


岸辺路久「サンアイ・イソバ」

「岸辺路久さんの『サンアイ・イソバ』」

「すげえとんでもない話だけど、これはこれで良いと思う。実作が読みたいと思ったわ」

「各キャラクターがどういう生活をしているのかがわからないよな。そういうもんだよね、って感じで穏やかに暮らしてたらそれはそれで怖いという」

「巨性体の子どもが島の子どもの一人として育つ、っていう設定は結構無理がある気がするけど。ある程度分けられてる方が良いんじゃないかな」

「分かたれているその距離感が関係性を育む、みたいな話にしてもアリだな。最後に食べて、その距離がゼロになる、みたいな」

「『もののけ姫』みたいにお互い別の場所に住んでいて、中間地点で会うんだな」

「そうそう」


岸田大「沈黙するので羊たちから饒舌だね」

「岸田大さんの『沈黙するので羊たちから饒舌だね』これは完成形があんま想像できないな笑」

「ストーリーはとてもよくわかるけど、連想置換をどう読者にわかる形で書くのかってことだな」

「すげえ大変そうだ」

「証言を引き出すだけだと2万字持たないと思うから、並行して事件が起こり続けている、みたいなサスペンスが欲しい。早く食い止めなきゃ! みたいな」

「2万字は持たなくても良いんじゃない。長いと作者も読者もしんどくなる気配があるし」

「なんにせよ証言を引き出す以外のラインはあった方がいいと思う」

「そうだな」

「オチは綺麗に落ちそうだよね。救いはないけど」


田場狩「江戸幕府VS米人間」

「田場狩『江戸幕府VS米人間』」

「何と”米人間”だったのだ、じゃないよね笑」

「ネズミは爆発するしな。めちゃめちゃ笑いました」

「呪術バトルよ、呪術バトル。やってることは国家転覆なので嶋守が八戸に帰れるのかとか気になるが、それを横に置いておける”圧”を感じる」

「米人間が現代日本を憂いながら生活してるのも読みたいな。スピンオフとして」

「いや、あまり言えることがない。実作選出おめでとうございます」


近田夏海「ループ・カップル・スパイラル」

「近田夏海さんの『ループ・カップル・スパイラル』」

「アピール文にある、ループものによくある展開の『ほーん』感はすごいよくわかる笑」

「ラストはこれで良いのかな? マサオミはそこにいていいのか、という」

「任務あんだろってこと? それはいいじゃん」

「まあ……。マサオミが残ってること自体が大きな悲劇の伏線なのではと疑ってしまう……」

「それは穿ちすぎ」

「あとはあまりにもナツキとマサオミだけで進むので、ほかのキャラクターも登場させるとお話が転がりやすくなるかなあ」

「驚きのあまり椅子からひっくり返るのは漫画すぎない?」

「まあ……、リアリティラインを高くするのであれば、ひっくり返らない方が良いかも……」

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