涙だけが本当の気持ち:入院中を思う。
2023/08/09
キリスト先生やメガネ先生を始めとした先生たちや看護師さんたち、優しい職員の皆さん、そしてハセガワさん。
ハセガワさんはストーマ造設の手術のための入院の時同室だった患者さんだ。年は70歳。私のこと孫くらいの年齢の子だと思っていた。いつ私の実際の年に気づくかなって思ってたけど最後まで気づかれなくて私みたいな若い娘さんと一緒で楽しかったって退院していかれたハセガワさん。羊羹が好きで歩くのが趣味で退院したらつくしを探しに行くって言ってたハセガワさん。
私は手術の傷がすごく痛くて、起き上がったり咳したりくしゃみしたり、お腹に力が入る動作のたび痛みが襲ってだからずっと痛い痛い言ってた。トイレもれなく地獄。そんな私が可哀想で、コロナじゃなかったらそばに行ってさすってあげたかったってハセガワさんは後で言ってくれた。やさしい。
要介護5の脳卒中の旦那さんをひと月付きっきりで看病したら全然要介護じゃない普通の人並みにまで回復したって。ハセガワさんは愛を知る人。
そのエピソードを本にしたらって看護師さんに薦められたらしい。確かにすごいエピソードだよね。ハセガワさんはラジオを聴いたり読書して過ごしていて、デイルームでお会いした時何か書いておられた。曽野綾子の本を読んでいて、表紙の曽野氏近影を私に見せつつ自分もこの年になったらかくありたいって励みにしてるとハセガワさん。
いつも言葉や態度が温かいハセガワさん。励ましの言葉や褒め言葉、そういうの沢山言ってもらった。ハセガワさんが退院する日も、良いところいっぱいあるよって。私は個人情報興味本位で聞いたりしなくて、距離感が適切で良いって。私を可愛くて綺麗で良いところいっぱいあるお嬢さんって思ってもらった。ハセガワさんにそう言ってもらえるとほんとうに自分がそういう人になったみたいな気持ちになれた。嬉しかった。
メリーポピンズやサウンドオブミュージックのマリア先生みたいに寂しい子のそばに来て励ましてくれる魔法みたいな人。それが私にとってのハセガワさんだ。私が実際に10代や20代だった頃、こんな人がそばにいてくれたら良いのにと希っていた、そんなような人。キリスト先生と並んで私の中の二大聖人だ。
ハセガワさんが元気にしていれば良いと思う。治療が上手くいってがんが小さくなって、旦那さんや息子さんたちと楽しく暮らしていて欲しい。私のことは忘れてて良いから、もう2度と会えなくていいから、とにかく元気に生きてて欲しい。ハセガワさんはそれに値する人だ。
ハセガワさんの事を考えると涙が出る。入院中のことを考えるとすごく懐かしい。まだ一年も経ってないけど懐かしい。ハセガワさんやメガネ先生、優しかったり頼もしかったりベテランだったり陽気だったりテキパキしてたりものぐさだったり色んな人がいた看護師さんたち、声をかけてお話ししてくださった職員の方、外科のユニークで捉え所ないけどでも優しい先生、ごつくて関西弁で婦人科病棟に夜間来るのを躊躇ってた先生、内分泌科でお世話になってるまだ若くて説明分かりやすくて固い語彙使うところが良くてがんになったらより支えてくれる感じでもっと好きになった先生、検査の方々、私に病棟まで1人で帰れる?って聞くのをおうちまで1人で帰れる?って言い間違えた整形外科のイケメンな先生、緩和ケアの何でも屋看護師さん、年配の方が多くて何かしら聞かれたり頼まれたりしがちだった他の患者さんたち、そしてキリスト先生。
今となっては何もかもが懐かしくて、キャッチャーインザライのホールデンみたいな気持ちで冬の雪が積もってる朝の河原を病棟の窓から見たり、すべてがあの寒くて痛い日々に雪のひとひらのように結晶化していて、綺麗で、あまりにも綺麗で涙が出るのだ。
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