金持ちジュリエット
勤続35年、53歳で私は早期退職した。
子供たちも巣立ち、ふっと力が抜けた時に妻の後押しがあり、趣味の油絵を極めるため藝大を目指すことにした。
美術系大学進学塾の面接に向かいながら、先を思う。
塾で若者と切磋琢磨し、藝大に入学できたら、
とびきり大きな絵で公募展に参加しよう。
雅号は、本名をカタカナで書く「カナジ・ジュリ」。
我ながら好きな響きだが、漢字表記だとイマイチだと思う。
まず姓。私と同音同字の人は稀だ。
そして名。当時の人気歌手・沢田研二の愛称に因んだ「樹里」は、字面で女性に間違えられやすい…。
気づけば塾の前。若い職員に声をかける。
「9時に予約したカナジです。」
職員は手元を見返す。
「カナジさん…えっ?…
カネモチジュリ…えっと、
あ!カナジさんですね。すみません!字面が強烈でフリガナを見落としてました。」
そう、私は「金持」。良くも悪くも苗字を弄られてきた。
第二の人生は「カナジ・ジュリ」として歩めれば本望だ。
以上で(ルビとその記号含め)410文字です。初めて小説?らしき何かを書いてみました。出来はどうあれ、楽しかったので良しとします。
サポートいただけたらとてもとても心強いです。