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「ちょっと思い出しただけ」東京の街と思い出が重なるとき

匠海がフロイニのINI Tunesで紹介したクリープハイフの「ナイトオンザプラネット」という曲を基に作られた映画の話。

クリープハイフの尾崎世界観さんとのラジオ対談で、匠海は「ちょっと思い出しただけ」をyoutubeの広告でたまたま見て気になり、映画館に観に行ったと話していた。今まで好きなジャンルの映画というのは特になかったけれど、この映画を観た時に、「こういうのが好き」と思ったらしく、前に「愛がなんだ」という映画も好きだと話していたので、いかにも邦画って感じの映画が好きらしい。

余談だけど、このラジオ対談とても面白くて、エゴサが趣味の尾崎世界観さんが匠海を見つけて、アリーナツアーの詳細や、匠海のドラマがなかなか発表されないことにMINIと同じようにヤキモキしていていたり、匠海の前髪の調子まで気にしてくれていて最高に愛だった。WANIMAさんだけじゃなくて、30代の男性がINIのことを可愛がってくれるのはとても嬉しい。

2021年の7月26日から始まるこの物語は、1年ずつ同じ日を遡り、別れてしまった男と女の“終わりから始まり”の6年間を描いている。怪我でダンサーの道を諦めた照生と、タクシードライバーの葉。2人が過ごした1日は、特別の日だった時もあれば、そうでない時もあった。なんでもない、だけど二度と戻れない愛しい日々を“ちょっと思い出しただけ”…。

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「花束みたいな恋をした」「明け方の若者たち」「僕たちはみんな大人になれなかった」そしてこの「ちょっと思い出しただけ」は、個人的に同じ系統だと思っている。
今はもう別れてしまった、昔好きだった人との過去の恋愛を思い出して、共感できる恋愛あるあるが散りばめられている。

いくつか似たような作品がある中で、「ちょっと思い出しただけ」は、一番淡々としていて、ストーリーの起承転結がはっきりあるというよりは、2人の空気感から感じとる印象の作品だった。

⚠️⚠️ネタバレ⚠️⚠️

照生と葉が別れた後の世界から物語は始まる。コロナ禍の東京で、それぞれの生活をしている二人。
そして、二人の別れから出会いへと、物語が過去に遡って進んでいく。

出会って、仲良くなって、付き合うのか付き合わないのか、という曖昧な関係の二人。葉は、照生の気持ちが分からなくて、LINE送るタイミングをずっと考えてる状態。照生は「仲良くなりすぎてしまったから告白なんてしたらいいのかな」「すごい仲良くなっちゃったから、伝えたら壊れちゃうんじゃないかと思って」と、告白できないでいる状態だった。二人は付き合い始めるが、きっかけを作るのはいつも葉の方だ。告白のタイミングも、キスも、そして最後のお別れも。

この映画で私が一番印象に残ったのは、夜の誰もいない水族館のシーン。とても美しいシーンだったと思う。葉が「この星に人間は私たち2人だけって気がしない?」と言ったり、「今日で30歳だけど10代みたいな会話だね」って笑ったりして、2人の息遣い、台詞の間、喋らなくても、台詞がなくても伝わる想いを特に感じる場面だった。東京にはこんなにもたくさんの人がいるのに、たった2人きりの世界になる時間と空間が愛おしかった。

どんなに幸せな時間を過ごしたとしても、別れの時は、険悪なムードで、不満が溜まっている。「花束みたいな恋をした」でもそうだったが、男性側はやはり愛を責任だと信じていることが多い気がする。照生も、自分の仕事がどうなるか分からない状況では、葉に連絡するにしても、会うにしても、この先続けるにしても約束ができず、しばらく逃げるような態度をとってしまうのは、これから先の二人に責任が持てなかったからだろう。葉は、照生が怪我をしてダンスが出来なくなり、未来が見えなくても、支えられるし楽しく過ごせる、と伝えるけれど、照生は「待ってほしい」と言って即答はできない。自分が大きな挫折をした後に、すぐに二人の未来を背負い込む自信がなかった。

2人の日々は終わりを迎えて、葉は合コンを抜け出した時にたまたま出会った男と結婚して家庭を築く。
照生と葉の人生は別々の方向へ進んだけれど、その選択に大きな後悔があるようには描かれていないし、今の暮らしをそれなりに満足して生きているのだろう。でも、一緒に見た景色や歩いた道を通った時に、ふとお互いのことを思い出す。
信号が青になったら、この夜が明けたら、
また、過去の恋愛を思い出して浸ることもないような日常に戻るとしても、たまにふとしたタイミングで、思い出す人や場所や思い出が一つでもあるのって、人生の彩だと思う。
きっと多くの人が、心の中でずっと大事にしたい出会いや経験を持ってるはず。例え、それが他人から見れば平凡で、どんなに些細なことでも、遥か昔に思い出に変わってしまったことだとしても。
この映画はそんな人生の一部分を巧みに描き出していると思う。

こういう作品で感情を揺さぶられる自分がいるから、過去の終わった恋愛や、あの時死ぬほど辛かった失恋も悪くなかったな、と今なら思える。
終わった恋愛に意味はあったのか?という疑問に、次の恋愛に活かせるだとか色々答えはあるとは思うけど、年を重ねてきて、ますます思うのは、「振り返れる思い出がある」ってことに一番意味があるなぁ、ということ。

映画館でこの映画を観ていたとき、スクリーンを見つめるここにいる人たちが、みんなそれぞれ誰か思い出してるのかな?と思うと、エモい、という言葉がしっくりきた。
東京にはたくさんの人がいて、沢山の終わった恋愛がある。変わり映えしない繰り返す日常の中で、たまに東京の景色に自分の思い出が重なって、いつもと違う思考をする時間って良いなぁと、この映画が改めて感じさせてくれた気がする。


2022/11/17

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