馴染むのが難しい生き物

「何をしてるんですか?」
「この二匹が周りと馴染めるかを観察しているんだ」
「二匹とも同じ生き物ですよね?」
「育て方をちょっと変えてみたんだ」
「育て方ですか」
「こっちの細長い方は褒めると叱るを両方行ない、そっちのずんぐりむっくりなのは褒めることだけして育てたんだ」
「あ、細長い方が周りの生き物と一緒に行動し始めましたよ」
「思っていたより早かったね、これは嬉しい誤算だ」
「もう一匹の方は動かないですね」
「だろうね。まあそんな気はしていたよ」
「褒めて育てることはいいことだってよくテレビとかで聞きますけど、これはどういうことなんですか?」
「褒めること自体は悪いことじゃないよ。褒めることでしていいことを学ぶからね。でも、『どんなに大好きなおやつでも毎日食べていたら飽きてしまうし、体も壊してしまう』ものなんだ」
「どういうことですか?」
「おやつっていうのはルールを設け、そのルールを守って食べるから特別なんだよ」
「ルールのないおやつなんかに特別感なんてない。同じように、何をしても褒められたらそこに特別感はなくなるんだよ。でも、一番怖いのはそれが彼らにとって当たり前になってしまい、『自分は誰からも褒められ崇められるべき存在』だと勘違いしてしまうことなんだ」
「どうなってしまうのですか?」
「そうなると、気に入らないことがあった時に変なプライドが働いてしまうんだ。『自分は正しくてお前らが間違っている』と思い込み、変わろうとしない。結果、周りから見放されてしまう。でも、彼は間違っていることに気付くことさえ出来ないんだ。僕はこれを『無意味な自信』と呼んでるよ」

「この子はどうなるんですかね」
「一部を除くが孤立してしまうと長生き出来ない種族なんだ。この子は例外に値する子ではないから、おそらく近いうちに死ぬだろうね」
「なんというか可哀想ですね」
「人間という生き物は変わろうともがくモノだけが生き残るように作られているんだ。仕方ないさ」

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