博愛主義

私にはほっとけない友人がいる。その人はどんなにタチの悪い相手でも愛せるという所謂「博愛主義」と呼ばれる人で、この前は理不尽な理由で殴られたというのにへらへらしていた。

私はそんな彼がどうもほっとけなくて一緒にいることが多かった。
私は怖かった。
彼がいつか誰かに殺されてしまうのではないかと。


ある日のことである。私と彼が家に帰る途中である。駅のトイレから出てきた中年の男が突然倒れたのだ。

ごちん。

コンクリートに頭が打ち付けられる音。すぐに男の前には人だかりが生まれる。私は此処にいることが恐ろしくなり、彼の腕を引っ張りながら足早にその場を去った。向かい側にある経由駅のエスカレーターに乗った時、彼は口を開いた。

「人が倒れるとあんな音がするんだね。初めて知ったよ」

彼の方を振り向くと、彼は目を爛々とさせて語りだした。

「ただ硬いものがコンクリートに打ち付けられたとしてもあんな音にはならないよね。あれって頭蓋骨の周りに肉があるからあんな音になるのかな?」

「なにをいっているの?」
「彼に感謝しないといけないね。こんな発見、彼が倒れてくれなければ一生なかったかもしれない」

彼の瞳の中にいる青ざめた顔をした私と目があった。
彼は穏やかな笑みを浮かべていた。


私は怖かったのだ。
彼がいつか誰かを殺してしまうかもしれないから。


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