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③サイケデリック体験ジャパニーズ ヨガマスター&レイキマスター

街で他人に話しかけられることが多かった。

インドネシアから来た二人の男子学生に、すみませんと声をかけられたことがある。ふたりともまだ日本に来て日が浅く、日本語が怪しかった。

原付バイクのエンジンがかからなくてバイク屋を探しているとのことだった。一番近くのバイク屋には外国人だと理由で断られていた。

『あーあるよ。十五分くらい押していかなきゃいけないけどね』
俺はその時、躁状態でランランとした目つきをしていたと思う。
『ありがとうございます、あなた良い人』『イイヨイイヨー、オール・ライト!』

僕たちは原付きバイクを押しながら駅の広場まで来た。途中、タバコを吸っていこうと提案した。
『ヘイ、This isプレゼント』
僕はタバコを二人に手渡す。
二人は感動しているように、俺には見えたが、躁状態だとなんでも都合よく見えてしまうので確かなところは不明。

『どっから来たの?』
『インドネシアです』
『おおーインドネシア、アイ・アム.ジャパニーズ.ヨギー』
『ヨギー?』
『ヨガマスターだよ、ヨガマスター』
『おおーヨガマスター!』
当時、俺は呼吸法や自己流のヨガにハマっていた。今思えばめちゃくちゃだ。
『さあいこう、もうすぐバイク屋もしまってしまう』
やたらせっかちになるのも、ハイテンションになっているからだ。
『君らは大学どこ?』
僕は、日本の怪しい二人にやたらめったらに質問を投げかける。二人のうち一人はだまり、一人はたじたじしてしまう。
『アイムヨガマスター&レイキマスター』
『?』
当時僕はスピリチュアルが面白いと読み漁っていたが、瞑想と躁状態で完全にスピリチュアル情報を鵜呑みにしてしまった。レイキという怪しい施術のことを信じ、どういうわけか自分はその使い手だと確信していた。

バイク屋に着く。二人のインドネシア人はヘトヘトである。俺はバイク屋の店主に、
『バイクを持ってきたから直してやってほしい』という。
バイク屋の店主が修理をしている間も、俺はどこか落ち着かなかった。飯、飯のことを考えていたのである。
『このあと、居酒屋いこう』
『今日は食べれない日なんです』
『あー宗教上の理由か。分かるよそういうの』
お前は、無神論者だろうと今の俺ならツッコむ。

結局、ふたりとは翌週にガストで食事会の約束を取り付けて、その日は別れた。

駅前でストリート演奏をやっているラッパーに、帰り道、絡んだ。
静岡からやってきた売出し中の三十五歳だった。
俺はその男の演奏が終わると、武将の銅像の前に腰を下ろし、歌詞カードを見せろだの、声が小さいだの、言いたい放題だった。
『街が明るくなるよ、またよろしくYou Tubeにあげてあるの、みとくから!』
そう言い残して、ラッパーと握手をして帰ってきた。ラッパーの人も驚かせてしまった。

これは躁状態の頭の中が天国モードになってる男のエピソードである。

食事会の日二人からは連絡がなかった。

本日の躁鬱メーター 
フラット

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