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南船北馬「わがまま」(2015.3)


作・演出:棚瀬美幸
ドーンセンター1Fパフォーマンススペース(大阪・天満橋)

 0歳から中学3年生までの子供を持つ女性を出演者として公募し、昨秋から週1回「子連れワークショップ」を開催、託児付の稽古を経て本番を迎えたという公演。公募ではあるが、演劇経験者や現役の役者、最近まで劇団に所属していた人が多く、初心者はほとんどいなかったのではないか。公演も「小学生未満のお子様とご一緒に観劇いただけます」「託児サービスがご利用いただけます」という回を設定した。作者の棚瀬自身、1年半ほど前に出産し、ママとして、劇作家として、女優として、女性として、妻として、その他…暮らしている。
 せっかくだから、「小学生未満のお子様とご一緒に観劇」できる回に行った。ベビーカーが3,4台、幼稚園ぐらいのしっかりした子もいた。お父さんが抱っこしてる家族も複数あったし、普段の劇場とはちょっと違った空気が流れていた。
 「わがまま」というタイトルについては、パンフレットに「小さな劇団の『わがまま』にお付き合いくださり、本当にありがとうございます」という一文があって、やや自虐的とも開き直りとも見えるセルフィッシュという意味と、「我がママ」my motherという意味が掛けられているのだろう。
 マンションの自治会の集会室リニューアルプロジェクト(今ぼくが勝手に名づけた)の会議。皆女性。あまり利用率が高くない集会室を、子供のための施設にしようという、結構な提案に基づいて、具体的にどういう提案をしましょうか、ということで役員から指名された母親である女性が7人集まった。専業主婦、育休中、子供の年齢(乳児から中学生)、など属性はいろいろだし、どうもマンションも棟によって賃貸と分譲があったりして、微妙な空気が流れる。仕切り屋さんがいたり、評論家風な人がいたりというのも、お決まりだ。専業主婦といろいろな議論が交わされる。劇団・太陽族「執行の七人」(2014年6月、シアトリカル應典院)もこんな感じだったなと思い出すが、あれほどの「きつさ」がないのは、WSから生まれてきたからかもしれない。一口に子供のための施設といっても、対象年齢をどうするか、ベビーシッターや保育士や管理人などを置けるのか等々、それぞれが直面している困難に根ざして議論はなかなか進まない。決定権のある組織でもないようだし、予算も明確でなく、何だかわが国の多くの会議の縮図のようだ。
 演劇的と思われたのは、その議論のインターミッションのような形で挿入される、ミュージカル風なシーン。ママたちが会議机の周りを踊りながら、子供のエピソードを歌い上げる。おそらく出演者の実話を基にしたもの。棚瀬は高齢者のワークショップを基にした「ワタシのジダイ~昭和生まれ編~」(2013年2月、ウィングフィールド)でも、劇の時間と、出演者が素に戻って独白する時間を作って、出演者の中にコントラストをつけたが、今回もそれに似た手法だったと思う。それをミュージカル風にしたことで、華やかさとテンポが生まれて、最初は多少の唐突感が否めなかったが、エピソードの面白さと意外な(失礼!)うまさで、見せた。これは、ママたちの多重性を華やかな形で見せる、いい演出だったと思う。
 悪い人はいないし、みんな一所懸命すぎるぐらい一所懸命だ。一人は離婚することになり、実家の北海道だったかに戻ることになる。その引越しと、集会室の模様替えが重なるその日がラストシーンになる。大団円には、出演者の子供たちが登場して、出演者も観客も、別の顔になる。終演後のお見送りも子供付。観客も様々なことを思い、思い出し、考え込みながら見終わったことだろうが、子供の笑顔や泣き顔の力は、何にも負けないな。
 なお、チラシの画像(宣伝美術:モリサト)は、写真だと思っていたが、点描のように細密な絵。小鍋でお粥が煮立っている。離乳食だろう。写真のように見えて、ものすごい時間と労力が使われているんだなぁというあたり、なんだか象徴的で、改めて「ひれ伏す」(パンフレットの棚瀬の言葉から)。

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