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国内ダンス留学@神戸 3期生ショーイング公演(2015.1)

Art Theater dB KOBE(神戸・新長田)
「under」 振付:上野愛実  出演:新家綾、貫渡千尋、定行夏海、成田果央、藤原美加
「月に置いたら?」 振付:小堀結香 出演:岩間華奈子、武内浩一
「しらない。」 振付:塚田亜美 出演:新家綾、貫渡千尋、武内浩一
「余白に満ちたかはたれどき」 振付:長屋耕太 出演:岩間華奈子、武内浩一、中間アヤカ、長屋耕太

 この「国内ダンス留学」は、文化庁の委託事業「次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」として実施されているもので、振付家、ダンサー、制作者を志す若者を対象に、実践や座学を学び、作品づくり・舞台制作に取り組み、上演するという概ね7月から3月までの一連のプログラム。
 今回20分程度の4作品を上演し、この中から2作品を選出、3月にそれぞれ60分程度の長編作品に発展させて上演する、ということになっている。そのようなショーイング公演であるので、個々の作品について、完成度を問うことは意味がないのかもしれない。それにしても、この3回の「ダンス留学」の中で、相対的に魅力的で、完成度の高い作品が並んだ。
 上野愛実の「under」が選出されたのは、数人のダンサーが一列になり、誰かがはぐれていき、移動するという動きが執拗なほどに繰り返されるある種の固着が、来るべき作品の核となることが期待されたからだろう。単純な動きながら、空間を折り返したり、何かがはぐれたりする変化の様態がスリリングで、意外に飽きない。
 上野は、一昨年の「ダンスの時間」に、今回ゲストダンサーとして出演した成田果央と共に出演し、非常にユニークなコンセプトの生理的イメージを持った作品を出品したが、この作品でも、シンプルでミニマムなモチーフに拘泥して、悪く言えば単調な時間で、観客から生理的な反応を導き出した。この拘泥を「強さ」として積層しうるかどうか、このモチーフ生成にそれだけの「強さ」があるかどうかが、鍵となっていくだろう。
 もう一作は、長屋耕太の「余白に満ちたかはたれどき」が選ばれた。プログラムによると、葛飾応為(北斎の娘)の「夜桜美人図」、「吉原格子先之図」という浮世絵に触発されて、陰翳、空気、輪郭のないもの、といったコンセプトで発想された作品だという。
 鑑賞時はその絵画について何の知識も持っていなかったが、今これらの絵画を目にすると、この画面の中に見られる湿度のような近代的な質感を全く的確に再現できていることがわかる。光が印象的な絵画でありながら、実は影のほうがなまめかしい。それを彼自身「陰翳」という言葉で言い当てている。
 もちろんダンサーたちの禁欲的でエッジの立った動きも相俟ってのことだが、身体を用いて陰/影を描くことに成功し、作品自体に深まりが生まれた。作品に深みがあるという意味ではなく、その作品が持っている世界が、深めよう、深まろうとすればいくらでも奥まり、底に行き着きそうにないという程のニュアンスで言っている。江戸時代の絵画とはいえ、陰翳が内面表現に到達し、時代を越境してこちら側に浸蝕しそうな奇才の作品から出発しているだけに、世界観が明確で、しかもダンサーのあしらい、振付がうまく、完成度は高い。それでも底なしに思える。それがこの作品の、長屋耕太の強みだと思われた。
 小堀結香「月に置いたら?」は、好きな作品だ。2人のダンサー(岩間華奈子、武内浩一)のコンビネーションが面白く、ソファのある一室での日常生活をセンスのよいユーモアを交えて、センスのよい作品に仕上げた。岩間の愛らしさが際立った作品とも言える。
 塚田亜美「しらない。」は、ラジオのニュースを流しながら大量の新聞紙を使って踊る。まさかの暗合か、この日はパリの「シャルリー・エブド」襲撃事件のニュースが流れ、図らずも現実の重みを思い知らされることにもなった。もちろんそれは(ある程度は)織込み済みのことではあって、それに拮抗するだけの激しさや酷薄さを舞台でどれだけ提示できるかが眼目だったと思われる。ダンサーの貫渡千尋の切迫がよかった。

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