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『ダンスの時間』サマーフェスティバル2008(8)三好直美/村上和司「迷走☆劇場」

 何らかの物語を感じさせるような作品もあった。三好直美が村上和司と共演した「迷走☆劇場」は、旅行鞄を持ったトレンチコートの女があらわれる、古いフランス映画のようなしっとりしたムード、二人のユーモラスなやり取り、思わせぶりなラストシーンがシリアスなのかコミカルなのかわからないように迎える幕切れの宙ぶらりんさなど、観る者の感情を何度も幾通りにも揺らす、楽しみどころがたくさんある作品だった。
 そのラストシーンだが、三好が古い革の旅行鞄をあけ、中からしわくちゃの紙や写真を取り出すと、覗き込むように見ていた村上が名前を呼ぶ。「私を通り過ぎた男たち」といった感傷的な場面にもなっただろうが、村上が呼ぶ名前のいい加減さ(「スネオ」とか「ノビタ」とか)やタイミングの外し方もあって、妙にコミカルな空気になり、笑いがもれた。それは決して失敗ではなかったようだから、作品を閉じた形で終結させるのではなく、宙ぶらりんで謎な気分のままに放り出すという、勇気のあるエンディングを選んだわけだ。
 率直に言ってそれは完全に成功したとはいえないかもしれないが、それをシリアスに終わらせたときの凡庸さに比べれば、はるかに意義深いものだったと思う。それには、このラストにいたるまでのドラマ性や、二人の社交ダンスのような動きの掛け合いの即妙の面白さ、実際の年齢差を生かして世間的にはちょっとアンバランスな男女関係にしたおかしさなど、作品を流れてきた軽い高揚感のようなものが大いに役立ったといえるだろう。

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