ミジカムジカ6「歌いたくなるのは、どんな時?」プログラム原稿

ミジカムジカ6「歌いたくなるのは、どんな時?~ミュージカルとピアノの名曲から」

歌   小村典子
ピアノ 上田仁美

2019年8月12日
アートスペース萌芽ホール
https://mijimuji.jimdofree.com/past/

 今回は、「ミジカムジカ」シリーズで初めて、ミュージカルの音楽を取り上げます。
 Musical Play、音楽の演劇と言われ、お芝居の音楽ですから、たいへん表情が豊かです。今日は、それぞれ曲調をご理解いただくために、顔文字を付けて、曲の世界を簡単に理解していただこうと工夫してみました。
 ミュージカルの始まりには諸説ありますが、大まかにいえば、黒人または黒人に議したミンストレル・ショーやヴォードヴィル・ショーを源流として、19世紀末にコミック・オペラ(喜歌劇)とジャズの原型であるラグタイムが融合したことで、アメリカ独自のミュージカル・コメディが生まれました。もともとはほとんどストーリー性のない、ギャグを並べた演芸ショーのような舞台がスタートしたのです。
その後ストーリー展開の本格的なものとして、1927年、「ショーボート」(作曲ジェローム・カーン、作詞・脚本オスカー・ハマースタイン2世)が初演されました。これがミュージカルの始まりと言えるでしょう。
ニューヨークの劇場街・ブロードウェイで始まった、音楽と演劇、ストーリー性とエンターテインメント性が融合した舞台芸術として、おおよそ今に続いているといえます。
 ブロードウェイ・ミュージカルにも盛衰があり、単純なストーリーが飽きられたり、ベトナム戦争など社会不安が増大したりという影響で、一時はロンドン発のウェストエンド・ミュージカル(レ・ミゼラブル、キャッツ、オペラ座の怪人…)に中心を奪われた感があり、またクラシック音楽の伝統が厚いウィーンから「エリザベート」「モーツァルト!」、パリから「1789」「ロミオ&ジュリエット」といった素晴らしいミュージカルが生まれ、ミュージカル・プレイは、今や世界中の人が愛する舞台芸術となっています。
 また、ディズニーが1994年に「美女と野獣」で本格的にミュージカル映画に進出したことから、3DやCGなどの様々な効果によって、生の舞台とは異なる魅力を加えることができています。
 日本では劇団四季、宝塚歌劇団が長年ミュージカルを牽引して来ました。近年では、アニメ、マンガ等を原作に、若手男優たちが活躍する「2.5次元ミュージカル」が注目されています。


If you knew my storyわたしの過去を知ったなら (BRIGHT STAR)
 1945年のアメリカ・ノースカロライナ州を舞台に、アメリカの古きよき時代Good Old Daysをカントリーソングでよみがえらせた作品。小説家志望の青年とベテラン女性編集者の物語。コメディ俳優S.マーティンが脚本・音楽を手がけ、2015年末にオフ・ブロードウェイでスタート、翌3月にブロードウェイ進出を果たしている。
 もしあなたが私の物語を知ったら、あなたはつらい思いをすることになるでしょう…という二人の運命的な出会いの曲。

Nothing何も… (A Chorus Line)
 1975年初演のブロードウェイ・ミュージカル。マイケル・ベネットの原案・振付・演出、マーヴィン・ハムリッシュの音楽。ブロードウェイの劇場で、コーラスライン(端役、アンサンブルメンバー)のオーディションに参加するダンサーたちを描く。
 Nothingは、演劇学校での初めての演技の授業の際、ディアナが感じた葛藤を描いた歌。

Color of the wind風の色
 (Pocahontas)
 1995年公開のディズニー映画。17世紀初頭のアメリカで、実在した先住民族ポウハタン族の娘ポカホンタス(本名マトアカ)とイギリス人ジョン・スミスの悲しい恋の物語。
 アカデミー歌曲賞を受賞したこの曲は、自然を破壊する人間に対し、自然の声を聴き、共に歌い、「風の絵具で絵を描く」ようになれば、風の色がわかるようになるのに、と諭している。

Clair de Lune (月の光)
 1890年の作曲。「ベルガマスク組曲」の第3曲で、ディズニーの「ファンタジア」や「オーシャンズ11」などの映画にも使われた。ベルガマスクとは、16~17世紀頃の北イタリア,ベルガモ地方の素朴な舞曲と言われるが、ヴェルレーヌの詩に「あなたの魂は、選りぬきの風景/そこを行く魅惑的なマスクとベルガマスク」という一節があり、仮面劇の一群や舞曲を踊るピエロのような一行を表わす。同時に、月の光の輝く色彩を描写している。そして揺れ動くリズムが月の光と陰を表現している。

Gimme Gimme(Thoroughly Modern Millie)
 1967年に公開された映画を元に2002年に舞台化した作品で、1966年アカデミー作曲賞、2002年トニー賞を受賞している。
 1920年代、カンサスの田舎町から華やかなニューヨークの街にやってきた敏腕タイプライターのミリーが、あっという間にモダン・ガールに変身して…。やさしくて面白いが、平凡なサラリーマン・ジミーへの愛に気づいてミリーが歌う。

Klaviersonate Nr. 3  I. Allegro
 19世紀前半の「ロマン派」を牽引し、代表する存在であったシューマン(1810-56)の代表的なピアノ曲(1835)。後に妻となるクララ(当時16歳)との愛を深め、クララの父の反対に悩んでいた時期の作品で、苦悩が激しく美しく内面化・結晶した作品であると、高く評価されている。
 シューマン自身青年期に手を痛めてピアニストになるのをあきらめたと言われている。そのため、作曲家としてだけでなく、評論家としても活躍。同年生まれのショパンを評価したことでも知られている。

How far I’ll goどこまでも (Moana)
 2016年公開のディズニーによる3Dコンピュータアニメーション映画。美しい海と、その海に選ばれ愛された少女の心の成長を描いたアドヴェンチャー・ファンタジー。
 How far I’ll go~どこまでも~は、「空と海が出会う線はどれほど遠いの? (どんなに遠くても) 追い風を受けて 漕ぎ出していくの」と、不安と決意を歌い上げる。

Gold von den Sternen星から降る金 (Mozart!)
 1999年にウィーンで初演。2002年に日本でも上演。モーツァルトの生涯を少年時代・成年期の対比から簡潔かつドラマティックに描いたもの。
 この曲は、ヴァルトシュテッテン男爵夫人がモーツァルトに、「夜、星空から金が降り注ぐ。あなたならそれを見つけられるわ。」と、才能を信じ、勇気づける一曲。

Let it goありのままで (Frozen)
 2013年公開のディズニーによる3Dコンピュータアニメーション・ミュージカル映画。
 人々に自らの魔法を知られてしまった王女エルサ(アナの姉)が、王国から逃げ出した直後の場面で歌われる。自らの魔力を抑えきれなくなる苦しみから解放され、「ありのままで」生きることの喜びを歌う。

(じょうねんしょうぞう 本シリーズの企画運営。ダンス批評。神戸女学院大学・近畿大学等非常勤講師。西宮市文化振興課アドバイザー。国際演劇評論家協会日本センター関西支部長代行・「Act」編集長。音楽は素人なので、厳密な点については、ご容赦ください)

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