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謎の卵料理「シングル」の正体はポーチドエッグ?初耳。【東京暗黒街 竹の家】

すべてのカットが見どころっていう映画。観たことありますか。

ヴィスコンティ作品とか、トリアーの初期作なんかで観たかもしれませんね。ウェス・アンダーソン作品とかもそんな印象ですか。「シェルブールの雨傘」もほぼ見どころなんだけど(全篇歌だし)、ママンと宝石商が夕食で二人になっちゃうシーンだけはちょっとテンション下がりました(←失礼)。
最盛期のアルジェント原理主義者(俺)とか、最盛期のデパルマ原理主義者(俺)にも思い当たるタイトルはあるハズです。
いずれも(いろんな意味で)名作といえる作品を思い浮かべますよね。

で、こういうときにまず名前は挙がらないけど、サミュエル・フラーの『東京暗黒街 竹の家』(1955)は凄まじく見どころだらけの1本です。
ていうか、まったく目が離せないカットの連続!

いきなりオープニングから鮮烈です。現代を生きる我々には「これ、どうやって撮った⁉」と目を疑う驚愕の構図が出現。実際、撮影チームとロケ協力者のいろいろなご苦労があって撮影できたそうですが、その甲斐のある迫力のアヴァン・タイトルになっています。

映画の舞台は昭和29年の日本。監督、プロデューサーをはじめ主要キャストもちゃんとロケ撮影のために来日しています。この5年前に製作された『東京ジョー』では当時の渋谷、お堀端あたりの風景を第2班がちゃちゃっと撮影しに来ただけなので、ハリウッドメジャーが戦後日本で本格的にロケしたのは、この作品が最初のようです。
ただ、屋内シーンと一部のオープンセットはFOXのスタジオで撮影されました。かねてより東洋文化に魅せられていた監督は、魅惑の「東洋」テイストをセットにぶち込み、タイトルを自信満々「竹の家(House of Bamboo)」とつけました。

つまり、この映画はシネマスコープ、デラックスカラーで捉えられた当時の日本(東京、神奈川、山梨あたり)の実際の街並みと、隣国と混同された装飾で過剰にエキゾチックな”JAPAN”のセット(もちろん日本語があやしい)が入り乱れる構成なのです。
どうです、これは目が離せないでしょう。

在日米兵が犯罪組織に殺害され、その親友のエディ(ロバート・スタック)は遺された夫人マリコ(李香蘭改め山口淑子改めシャーリー山口)と一緒に住むことになる。
最初の朝、布団で眠っているエディに、湯のみ茶碗に入れたコーヒーの香りで優しく目を覚まさせるマリコ。彼を朝風呂に送り込むと、「銀座で手に入れたフレッシュ・エッグ」で朝食を用意する。
彼の希望通りトーストの上にポーチドエッグと、さらにその上に火鉢で焼いた豚肉を乗せた朝食ふたりぶんと(たぶんコーヒーの入った)急須。
用意できましたよ、と声を掛けるがエディは風呂から出ようとしない。
「タマゴが冷めますよ」
「いまここで食べる」
「‥‥バスタブで?」
「俺はいつも朝食をバスタブでとるんだ」
「…??」
怪訝そうに彼の皿を風呂に持ってくるマリコ。
異国の地にあっても普段の俺様スタイルを貫く漢エディは、それを浴槽の縁に危なっかしく乗せ、箸でポークをたどたどしく口に運ぶ。
豚を湯に落とさないかと気を揉む観客(俺)を余所に、エディは「俺の好きな味だよ」と言ってニッコリ。
マリコも会釈しながら微笑みを返す…。

・・・珍妙さはなんとか伝わってますかね。
このシーンには、日本の風呂は西洋人には熱すぎる(セットの風呂に漂うのは湯気ではなくスモークなのでかえって寒々しいのですが)ことも含めて、サミュエル・フラーの「東洋愛」が込められているのだとは思います。

ここで彼らが「バスタブ」と呼んでいるシロモノは(たぶん)当時の和式の浴槽で、ステンレスの煙突が釜からニョキっと突き出している感じのヤツ。むかし赤塚先生のイラストでニャロメかア太郎あたりが浸かっていたのを見たことがあります。いまどきの縁が低くてゆったり脚を伸ばせる横長の西洋風「バスタブ」とは違い、幅が狭くて高さのある円筒形なのです。
「うまいぜ!」とかキメ顔のエディですが、湯の中の下半身は中腰かウ○コ座りの体勢にちがいないんですね。
ここは素直に風呂からでたほうが、お好きなポーチドエッグをゆっくりと味わえたのではないでしょうか。
あ、ヤンキーだからウ○コ座り、慣れてるのか。(一枚)

ただ、このシーン、この作品のなかでは実はそれほど印象に残りません。これ以上に画ヂカラの異様に強いシーンがほかにも山ほどあるからです。
信じ難いことにクライマックスは松屋浅草デパート屋上遊園地での銃撃戦!初見のときは夢みてるようでしたよ。

いちおうストーリーも全篇を通してツルツル流れていますが、登場人物の行動原理がさっぱりわからず正直どうでもよいです。うっかりお話を追うと寝落ちしてしまうので、気にしないのが正解。
そんな些末なことよりも戦後10年のワンダーランドを楽しみましょう。
「強力わかもと」や「基礎の充実の上に」がお好きな人なら胸躍る体験でっせ(盛り過ぎ)。

by ドミンゲス


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