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2020年にヤバかったアルバムを振り返る

あけましておめでとうございました。

2020年が終わりましたね。例年同様、素晴らしい名盤・傑作が大量にリリースされた一年でした。この記事では「ベスト◯◯」とか「良かったアルバム◯◯枚」という枠の組み方は特にせず、2020年に「このアルバム、やばくね?」と私が感じたものをいくつかピックアップして振り返ってみようと思います。

なお昨年聴いて良かった新譜はその都度Twitterで書いてまして、その一連のツイートを抜粋したものを過去のnoteでまとめてますのでぼんやりじっくり眺めたい方はそちらをどうぞ。

あと私の「2020年メタル系アルバムベスト10」は現在発売中の『ヘドバン Vol.28』誌にて挙げておりますので、ランキング形式で知りたい方はぜひそちらをご覧ください。


・Dizzy Mizz Lizzy『Alter Echo』

"Glory"や"Silverflame"、"Waterline"のDMLを求めていた方々にとっては(違う、そうじゃない)なアルバムだったかもしれませんが、私は今回の新譜がとっても好きで、「すげえ」と感じたポイントが2つあります。

まず1点目が、「孤高の立ち位置にいると思われていたDMLが超クオリティの高いアルバムでシーンの潮流に参戦してきた」こと。ここ数年のメタル系新譜で「プログレッシヴな」と表現されることの多いアルバムにはストーナー/サイケデリック/スペースロック的な感触をもつものが多く、その流れにある今年の新譜としては他にもElderOranssi Pazuzuなどを挙げることができますが、Tim Christensenという独自のメロディー感覚をもつ人間が『Alter Echo』でこの傾向に加わってきたのがとてもおもしろい。


「もうちょいプログ寄りのところでサイケ/スペースロックをやりつつ現代的なヘヴィネスもある」新譜としてはスウェーデンのYuri Gagarinによる『The Outskirts of Reality』等があり、このあたりも絡んでくると昨今のサイケ潮流がますます楽しくなりそうです。


Dizzy Mizz Lizzy『Alter Echo』のポイント2つ目としては、Metallicaとの類似性です。これはTim Christensen自身が新譜への影響元としてMetallicaを挙げていたことを受けて気がついたんですけど、確かに『Alter Echo』の音楽性はMetallica近作と非常に近いように思います。

私はここから逆引き的な聴き直しを行ってみたことで、最近のMetallica作品の良さを再発見したというか、上述したストーナーサイケ潮流の源は実はMetallicaなのでは?という考えに至るようになりました。このあたりは今後もっと深く考えて掘り下げたいところであります。


・Oranssi Pazuzu『Mestarin Kynsi』

先ほど少し触れたOranssi Pazuzuの新譜ですが、私がこのアルバムを決定的に好きになったのは5月に配信された全曲演奏ストリーミングライヴを観たことに因る部分が非常に大きいです。

一部では「スノッブだ」と言われたりもしているアルバムですが私の感想はむしろ真逆で、非常に原初的なパワーと呪術的な引き込み力をこの盤はもっているように思うのです。というか、あのストリーミングライヴの世界観と音像は完全にPink Floyd『Live at Pompeii』じゃないですか? 『Live at Pompeii』に宿る剥き出しのエネルギーと同種のものを私は感じました。


・プログメタル枠

プログメタルも最高のアルバムがたくさんありました。中でもすごかったのはやはりThe Ocean『Phanerozoic II: Mesozoic | Cenozoic』。この人たちは実は、構成としてはめちゃくちゃ正統派ド直球のプログレッシヴ・メタルをやっています。あらゆるプログメタルの方向性をすべて備えた上で王道の展開を見せるその手腕は圧倒的。現代プログメタルシーンの最高峰にいると言っても過言ではないのではと感じます。


その他はキリがないので絞りますが、もっと注目度上がってほしいと思うのはドイツのThe Hirsch EffektとオーストリアのTheir Dogs Were Astronautsでしょうか。どちらも素晴らしい新譜でしたね。


Sons of Apolloに関しては(もっとロン・サール主導で好き放題作れば最強のおもしろさが出せる気がするんだけどなあ…)と個人的に感じているのですが、新譜の最終曲"New World Today"はそのへんの私が望む魅力が出ていてとても好きでした。


パキスタンのTakatakやカザフスタンのTIRÐÜSも素晴らしかったですね。ここ10年ぐらいはオーストラリアとインドが「プログメタルがアツい国筆頭」でしたが、だんだんと中東のバンドが前線に出てきている点は興味深いです。


日本のプログメタルとしては圧倒的にArise in Stability『犀礼/Dose Again』がカッコよかったです。これは本当に世界レベルで売れてほしい。小野寺さんには学生時代非常にお世話になりましたが、そういう身内感は関係なく純粋に素晴らしいアルバムだと思いました。


Cynic組によるOur Oceansの新譜も期待通りの傑作でした。


・Sepultura『Quadra』

Derrick Green加入以降のSepulturaのアルバムで、正直私は初めて「うおーめちゃくちゃすげえ!」となりました。バンドの力量と技量とセンスと引き出しとキャリアと迫力が今回ようやく完璧に発揮されたような気がします。そのぐらいインパクトがあったしカッコいい。一枚の中でスラッシュメタルとグルーヴメタルとプログメタルをすべて説得力十分に聴かせる行為は他のバンドではなかなかできることではありません。Sepultura最高傑作なのではとすら思います。


・Annihilator『Ballistic, Sadistic』

スラッシュメタル枠としてはAnnihilator新譜の会心っぷりにも触れておきたいところです。溜めて溜めて溜めて溜めたあとのフラッシーなギターソロでカタルシスが一気に昇華される気持ちよさがAnnihilatorの真骨頂だと思うのですが、そういったJeff Watersに期待するリフと展開が惜しみなく発揮されており、ここ数作の(悪くはないけど、うーん…)感を払拭する最高のアルバムだと思います。もう”Lip Service”一曲だけで傑作認定したい。この曲の中盤以降はおもいっきりMegadethの”She-Wolf”ですが、その昔Jeff WatersがMegadethに加入しかけた有名エピソードを踏まえるとまたおもしろいですよね。


・Mr. Bungle『The Raging Wrath of the Easter Bunny Demo』

そしてスラッシュメタルといえばMr. Bungleの新譜(というか昔のデモ音源再録盤)です。これはもう今年の、というよりスラッシュメタル史上最強の1枚という感じですよね。カッコよすぎる。


10月31日に行われたオンラインライヴストリーム配信も最高でしたよね。そのライヴの中でEddie Van HalenへのトリビュートとしてVan Halenの”Loss of Control”カヴァーをちらっと演奏してたんですが、「Mike Patton先生、David Lee Rothの声に激似やんけ!」という新たな発見がありました。VHカヴァーアルバム作ってほしい。


・プログロック枠

一番やべえと思ったのはArcing Wiresのデビュー作『Prime』です。これは本当にすごい。間違いなくジャズロック系プログの名盤です。エネルギーと緊張感を持続させながら、かつ「気品」がある点がポイントのように思いますね。オーストラリアの層の厚さを再認識しました。


次点で良かったのがハンガリーのGhost Toast『Shape Without Form』。プログロックとプログメタルの境界線ぎりぎりを攻めている感じが聴いててとても心地良かったです。


Kansas新譜『The Absence of Presence』も(前作に引き続き)素晴らしかったですね。このフレッシュな感覚とセンスを前にすると、Kansasもまた「いま現在が全盛期」なのだろうなと感じます。バンド名のビッグさに惑わされず、ぜひプログファン以外にも聴いてみてほしいアルバムの一つですね。なおこの作品に関しては発売中の「EURO-ROCK PRESS Vol.86」にて長文解説を執筆させていただきましたのでそちらもぜひどうぞ(宣伝)。


メロディック系プログとしてはイタリアのMangala Vallis『Voices』、英国のI Am the Manic Whale『Things Unseen』、そして同じく英国のKyros『Celexa Dreams』も胸を打つ旋律満載の素晴らしいアルバムでした。


コロナの影響でTangerine Dreamの来日が中止となってしまったのはとても残念でした。そのTangerine Dreamに在籍する山根星子さんはソロプロジェクトTukicoで数枚作品をリリースしていて、いずれも聴き応え十分です。アンビエントな音像が好きな方はぜひチェックを。


個人的に長年ずっと応援しているIamthemorningに関してはVoのMarjana Semkinaさんが(Mariana Semkina名義で)ソロアルバムを出しました。

バンドメイトのGleb Kolyadinも昨年ソロ作を出しており、ぶっちゃけてしまうと(どちらのソロ作もIamthemorning本体より良いのでは…)と思わなくもないのですが、とりあえずあまり深く考えないようにします。今年新たなアルバムをリリースしてくれることを期待したいですね。


・オルタナティヴ枠

2020年に私が最も聴いた新譜はPure Reason Revolution『Eupnea』です。全ジャンル横断でのベスト1位はこれです。復活してくれて本当に嬉しかったし、アルバムの内容も期待を超える最高の出来でした。「オルタナティヴ・プログ」というモダンプログの主流の一つに対して最も忠実な(=クラシックプログとオルタナの成分割合が均等な)音楽をやっているのが彼らだと思います。


オルタナティヴ・プログの原点は2000年代におけるOceansizeですが、そのOceansizeのMike Vennartによるソロ作『In the Dead, Dead Wood』も最高でした。2位はこれですね。


Pusciferの新作『Existential Reckoning』も強烈な魅力に溢れてましたよね。Maynard James Keenanの、ToolA Perfect CirclePusciferそれぞれにおける表現方法の違い・スタンスの違いはいずれちゃんと分析してみたいところであります。


Omar Rodríguez-López『The Clouds Hill Tapes』3部作もすごく良かったです。Omarの活動もちゃんと整理してみたいな。あまりに作品が多いのでぜんぶ聴くだけで一年が終わってしまいそうですが…。


その他ではCrippled Black Phoenix『Ellengæst』Greg Puciato『Child Soldier: Creator of God』も今年の上位アルバムとして挙げておきたいところです。


・そのほか

(メタルからもそれ以外からも黙殺されるだろうな…)と予想していたら本当に全方位から完全にスルーされてしまったTommy Lee新作『Andro』も、なんか悔しいのでここで触れておきたい。メタルシーンのど真ん中にこういう感性をもった人間が存在しているというのは、とても重要なことだと思うんですよね…。


あと番外として『Pulse: FINAL FANTASY XIV Remix Album』を挙げておきます。MMORPG「ファイナルファンタジー14」サウンドトラックをEDMリミックスした企画盤です。これめちゃくちゃ聴きました。私はEDMも大好きでULTRAやEDCといったフェスにも普通に行く人なのですが、「EDMってどういう音楽?」と訊かれるとうまく説明できないもどかしい感じがずっと続いていて、そのモヤモヤを解消してくれたのがこのアルバムです。EDMとは何か。これです。「このアルバムに収録されている音楽がEDM」「こういうサウンドの作り方がEDM」といってなんら問題ないと思います。


そしてE-girlsの解散については言いたいことも書きたいことも死ぬほどあるのですが、それはまた別の機会に…。


こんなところでしょうか。良いアルバムが毎月大量に発表されて本当に飽きない一年でしたね。


ただ一方で多数のミュージシャンが逝去するつらい一年でもありました。私個人は特にNeil PeartEddie Van Halenの死去がいま思い返しても本当につらいです。Eddieの息子Wolfgang Van Halenが発表した父への追悼曲"Distance"は聴くたびに泣きそうになってしまう。ありがとう、Eddie。


また、故Chris Cornellの未発表曲として公開されたGuns N' Roses"Patience"カヴァーもグッときました。この2曲を私の2020年ベストソングにしたいと思います。


湿っぽい締めになってしまいましたが、2021年もカッコいいアルバム・心に染み入る音楽にたくさん出会いたいですね。

今年もよろしくお願いいたします。

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兼業ライターの高橋祐希です。『ヘドバン』『EURO-ROCK PRESS』誌にてコラム連載中。シンコー・ミュージックMOOK「ドリーム・シアター 〜シーンズ・フロム・30ディグリーズ」執筆。AERIAL名義でソロミュージシャンとして即興ノイズ/アンビエント音楽もやってます。