還暦おやじのスタディアブロードWith ウクレレ ⑪
マニラ空港からスクールへ
私達は、ワンボックス型タクシーの後部座席に並んで座る事になった。「こんばんは。初めまして」と私から挨拶。迷子になり気分的にも落ち込んでいるようだったが、彼も気だるそうだが、型通りの挨拶を返してくれた。
タクシーは、空港の喧騒につつまれていたが、走り出したら想像していたよりも車は少なく、スムーズに走っている。信号も少ない感じがするし、車内も静かだった。
鍵:「私は、1ヶ月の予定ですが、あなたは」
彼:「僕は、6ヶ月です」
私は成田で会ったお代官の様に、年齢を重ねて経験も積んできた人が使う「僕」という言葉は、格好いいな~。と、思う。歌手の小椋佳が僕は、なんて言うとしびれちゃう。
そしていつか「僕」が似合う男になりたいと思っているが、未だに言えない。
しかし、若い人が使う僕には、違和感がある。
サラリーマン時代に面接官をしている時に、たまに入社希望者で「僕」って言う学生がいて、即バツを付けた記憶が、ふと蘇がえってきた。なんだか、彼の面接をしているような気分になっていた。
私は自分が「年齢を上下関係の基準値」としちゃうところが気に入らないが多分それは、年功序列制度でサラリーマン時代を駆け抜けてきた弊害だろう。
それでしばし相手を不快にさせている。まさに今よく耳にする老害だ。この時も彼を不快にさせたかもしれないと、後になって反省した。
鍵:「6ヶ月とは、凄いね。目的はなんなの?」
彼:「転職の為にTOEICで高得点を取る為です。あなたは?」
鍵:「私は、東京オリンピックが来年開催されるので、日常会話が話せるようになりたいと思ってきました。」
彼:「ああ、そうですか。お互いに頑張りましょう。」
趣味として英会話を学びに来た人とは話をしてもしょうがないと、その時彼は思ったのだろう。その後は会話は途切れてしまった。
個人レッスンが始まってから、彼にレッスンをしているフィリピンの先生から聞いた話だと、彼は既に会社を辞めてしまっていて、今までに貯めたお金で自分が望む会社に就職するために必死で英語を勉強しているのだそうだ。
この英会話スクールの売りは、マンツウマンレッスン。英語だとONE ON ONEというそうだが、その分個人的な話にもなる、他の生徒の個人情報も耳に飛び込んでくるのだ。
会話も途切れたので車窓から外を見ていたが、真夜中だというのに通りに出て大人も子供も昼間の様に遊んでいる。
土曜日の夜だったかなと手帳を確認しみると日曜日の深夜だ。
マニラの交通渋滞は、半端ではなく、日中に空港からスクールのあるケゾンシティまで行く場合は、どれぐらい時間がかかるか予測不能だと聞かされていた。
しかし、深夜という事もあり、スムーズにタクシーは走っている。時計を見ると空港を出発してから、50分ほど経過している。
ドナが「もうすぐ、5分でつくよ。準備してくらさい。」と、私の英語レベルの片言日本語で話してくれたので気持ちが和んだ。
まもなく、タクシーはゲートの前で停車した。高級住宅地には、住民の安全を守る為に設置されたゲートがあり、中に入るには入り口のガードマンによる不審者チェックを受けなければならない。
私が選んだスクールは、安全な地域にあるようだ。