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電力逼迫と原発の再稼働について

はじめに

 2022年3月21日、翌22日の東電管内の電力需給が逼迫するとし、経産省より初めて電力需給逼迫警報が発令されました。この警報制度は震災後から施行されましたが、約10年もの間一度も発令されることはありませんでした。

 今回、なぜこんな事態になってしまっているのかというと、直接的には3月16日に福島県沖で発生した地震により、東京電力と東北電力へ分配している火力発電所の設備が損傷してしまったことによります。これにより、供給能力が低下し、更には都内でも真冬並みの気温となり、降雪が記録されるなど著しく厳しい寒さによる電力需要の増加が追い打ちをかけてしまった形となります。

 こうした状況を受けて、SNSの一部などでは「風力や太陽光は荒天時に使えないのは分かっていたことだ。原発を稼働させろ」という声が挙がりました。今回は、本当に風力発電や太陽光発電が使えないのか、原発は再稼働させるべきなのかということについて考えてみたいと思います。


◆目次◆

1.日本のエネルギー事情と問題点

2.対策として考えられること

3.原発の再稼働について

4.まとめ




1.日本のエネルギー事情と問題点

 まず、日本の電源構成について調べてみました。資源エネルギー庁『エネルギー白書2021』によると、2019年の日本の電源構成は次のようになっています。

LNG37%、石炭32%、地熱・風力・太陽光等10%、水力8%、石油等7%、、原子力6%

 まとめると、火力発電が全体の3/4となっており、大部分を占めています。次に、地熱・風力・太陽光・水力の発電が全体の2割弱、残りが原発です。これを見て「あれ? 原発って止まってるんじゃないの?」と思う方がいるかもしれません。ひとまず続いて東京電力の電源構成をご覧ください。

LNG58%、石炭21%、FIT電気7%、再生可能エネ3%、水力2%、卸電力取引1%、その他8%

(2020年実績 東京電力電源構成・非化石証書の使用状況より)

 こちらは先ほどと区分が少し違うため見づらいですが、ざっくり整理すると以下の通りです。

 火力発電が約8割、風力・水力・太陽光などが1割強、その他(分類不明)が残りです。FIT電気というのは、固定買取制度(Feed-in Tarif ,FIT)によって調達した電力のことであり、太陽光発電や風力発電ととらえていただいて構いません。分類不明というのは、東電以外の卸電力市場から調達した電力で、かつその発電方法が分からない(追跡できない)ものになります。これを先ほどの日本の電源構成比でざっくり案分すると東電の電源構成は約85%が火力、残りが風力・水力・太陽光等ということになります。皆さんお気づきの通り、原発がありません。

 皆さんがご指摘の通り風力や太陽光は天候などに左右されるため、ベースロード電源(季節、天候、昼夜を問わず、一定量の電力を安定的に低コストで供給できる電源)としては適していません。世界の原発事故史上最悪ともいえる東日本大震災での福島第一原発事故以来、特に東日本においては原発による電力の供給は望めないものとなりました。一応、基準を満たした原発については稼働が認められていますが、西日本では一定の再稼働が行われているものの、東日本においては再稼働が全く進んでいません。したがって、ベースロード電源として火力発電のみが使われています。

 ここで問題となってくるものが2点あります。1点目はパリ協定との関係です。パリ協定において、日本は2030年までにCO2排出量を2013年比で26%削減することになりました。火力発電は化石燃料を燃焼させて発電するため、他の発電方式よりも多くのCO2を排出します。2点目はエネルギー自給率の問題です。エネルギー自給率とは、一次エネルギー(発電に必要なエネルギーのこと。石油、石炭、ウランなど)をどれだけ国内で自給できているかを表すものになります。日本は2018年で11.8%となっており、9割近くを輸入に頼っています。これは主要国の中でも最低レベルの数字です。これだけのエネルギー消費大国で、その一次エネルギーのほとんどを輸入に頼っていることはエネルギー安全保障上非常にリスクが高いと言わざるを得ません。それに加えて、日本の輸入額82.7兆円(2018年)のうち、原粗油が8.9兆円、LNGが4.7 石炭2.8 石油製品2.1兆円となっており、その他鉱物系燃料を含めて20兆円近い金額が海外へ流出していることになります。これは2018年のデータですので、直近の原油価格の高騰やロシアの状況を鑑みるにLNG価格も上がっているため、金額はさらに上がっていることが推測できます。以上のことから、今後もこのまま火力発電主体というわけにはいきません。


2.対策として考えられること

 それではどうすればいいのかというと、再生可能エネルギー、すなわち太陽光発電と風力発電を増やしていくべきでしょう。そうすることで一次エネルギー自給率を引き上げ、CO2排出を減らすことができます。風力発電については、諸外国でも近年急激に増加している大規模な洋上風力発電を推進していき、太陽光発電は戸建て住宅との相性がいいことからも、建築物の屋上への設置をさらに推進していくべきと思っています。実は、日本は太陽光発電の設置は世界的にも進んでいるという事実があります。2012年に始まったFIT制度がこれを後押ししているわけですが、開始当初は買取価格は42円/kWhでした。買取価格は年々下がっており、2022年度の太陽光発電買取価格は17円/kWhとなっています。一般家庭での電気代はおおそよ28円/kWh程度ですので、現在のFITでは売電して稼ぐより、自家消費するほうがお得ということになります。よく売電価格が下がっており、これからも下がるため住宅に太陽光を設置するのは損だという意見を言う人がいますが、これは明確に誤りと言えます。詳しい計算については、松尾設計室の松尾和也先生の試算が分かりやすいと思いますので、そちらをご覧いただければと思います。これからは自宅で消費する電力は自宅で発電するという考え方が主流になっていきます。環境省によると一般家庭の年間消費電力は4,322kWhとなっています。一戸建てに搭載する太陽光発電設備の平均容量は約4.5Kwですので、年間の発電量は平均で5300kWhほどとなります。発電量だけで見れば一般家庭の電力は一般的な太陽光発電で賄える計算となります。しかし、実際には電気の性質上リアルタイムで消費しなければならないため、蓄電池などのバッテリーが必要になってきます。現在、一般家庭用の蓄電池もあるものの価格は高く、投資回収するには厳しい価格設定となっています。リーフなどの電気自動車を安価な蓄電池として考えればこの問題もクリアできますが、蓄電池については今後のブレークスルーを期待したいところです。

 少し話がそれてしまいましたので元に戻しましょう。前述したようにこれらの発電方法は天候などによって発電量が左右されやすく、安定した供給に課題があります。そこで、これらに加えて揚水発電を組み合わせます。揚水発電とは、水力発電の一種です。通常の水力発電はダムから川へ放流するエネルギーを使い発電します。揚水発電も仕組みは同じですが、考え方が異なります。揚水発電とは、位置エネルギーを用いた電池の一種でもあります。放流元となる上部貯水池と、放流先となる下部貯水池を持ち、電力供給時には水力発電と同じように発電を行いますが、水は下部貯水池に保持されます。これを、昼間の太陽光発電の余剰電力等を用いて上部貯水池へ揚水し、電力需要が増加したときに放流し発電するという仕組みです。CO2の排出もない上に、電力供給量の調整も火力や原子力よりも容易に行えることから、太陽光発電や風力発電との相性が極めて高いです。また、日本は国土の多くを山岳地帯が占めており、既に多くのダムなどの貯水湖が全国各地にあります。この既存のダムを揚水発電の下部貯水池として活用し、中小規模の揚水発電を作ることがこれからは求められてくると思っています。しかし、こうした工事は非常に時間もかかることから、早急に計画をして実行に移していかなければいけません。令和の時代に貴重な地方向けの長期的な実質公共事業を確保できることからも、進めるべきであり、経済効果という観点からも効果は大きいと思います。ここでは詳しくは言及しませんが世界的に木材需要が急増し、木材価格も高騰する中、OECD加盟国の中でも極めて高い森林率を誇る日本の森林政策と合わせて手を付けていくべき課題です。


3.原発の再稼働について

 このように、再生可能エネルギーと揚水発電を組み合わせてエネルギーミックスを行っていくことが将来的なエネルギー安全保障や2050年のカーボンニュートラルを目指す中では必要ですが、実現までには時間がかかります。そこで、ようやく原子力発電にスポットライトが向けられます。今現在、再エネ導入を進めつつも、ベースロード電源としてCO2の排出もない原発の再稼働については基本的には新基準を満たせれば早急に再稼働するべきだと思っています。原発は福島第一原発のような極めて重大な事故につながりかねないことから、積極的に推進はしませんし、今後の新規設置はありえないと思っています。しかし、現実的な諸問題からある程度の再稼働は進めるべきというのが私の立場です。

 原発の稼働に積極的な関西電力や九州電力は再稼働が進んでいますが、東京電力についてはあれだけの事故を起こしたのにもかからわず度重なる問題などで全く進んでおらず、極めて怠慢だと言わざるを得ません。正直な話、この会社の体制のまま基準を満たしたとしても再稼働して問題ないのか疑問が残るところではありますが、ひとまずは安全な体制での再稼働を早急にしてもらいたいと思っています。

 原発については40年ルールというものがあり、稼働できる年数が定められています。一定の基準を満たした設備に限り、最長20年以内での延長が一度限りは認められていることから、再稼働が進んでも長期的には原発の数は減少していきます。この減少分を、再エネ(揚水発電含む)で埋めていく必要があると思っています。原発の減少は何年にどれくらいと計算ができるため、バックキャスティングして再エネ(揚水発電含む)の投資計画を立てるべきだと思っていますが、現在はそこまでの絵が出てきていません。早急にこの計画を打ち出さない限りはエネルギー安全保障もカーボンニュートラルも達成できません。これは政府が果たすべきもっとも重要な政策の一つだと考えています。このことは、広く国民に知られてほしいと願っていますし、議論すべきだと思っています。

4.まとめ

 最後になりますが、エネルギーの問題はSNSなどでは特に「太陽光や風力は問題がある」「原発は危ない」と個々の問題だけにフォーカスされがちですが、重要なのはエネルギーミックスであり、短期的な問題への対処と長期的な計画のバランスです。どの発電方法もそれぞれ長所と短所がある以上、組合せを行ってリスクとリターンのバランスを取っていくべきなのです。また、日本政府は福島第一原発事故という史上最悪の事故を起こしてしまった責任を認識し、エネルギー問題については世界を牽引してほしいと思っていましたが、残念ながら既に主導権は外国に握られてしまっています。幸いなことに、日本には優秀な企業が多数あるため、技術的な面では世界の中でもトップクラスに有利であることには間違いありません。政府は、日本のポテンシャルを無視してこれ以上国際的なプレゼンスを低下させないように政策をもって正しく国を導いていただきたいと思っています。また、僭越ではありますが、この稚拙な文章で一人でも多くの方がエネルギー問題について興味を持ってもらえれば珍しく長文を書いた私の苦労が報われます。

2022年3月24日 しぃちゃん

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