なぜ人は「キンプリを見てください」しか言えなくなってしまうのか ―初心者のための『プリティーリズム』シリーズ入門(5)―


キンプリまでの系譜を追う! (【DVD】ROAD to Over The Rainbow ~デビュー2周年記念DVD~)


(2) じゃあキンプリってなんなのよ? ― 『プリティーリズム』シリーズの流れ

 ここまで『プリティーリズム』の魅力について語ってきました。たぶんこれで、「プリティーリズム」とは何か、どこが独特なのかの鱗片くらいは伝えられたかなと思います。………思いたいです。

 でも、じゃあ、一体『KING OF PRISM by PrettyRhythm』(以下、キンプリ) ってなんなのよ? ほとんど『キンプリ』に触れてないじゃん。そう思っていた方、すみません。おまたせしました。

 ということでここから『キンプリ』の紹介だ! ついでにシリーズ全体の流れも確認し、そのうえで『キンプリ』の予備知識をまとめるぞ! 一応予備知識なしでも楽しめる映画であることは間違いないんだが、まとめがあってもいいでしょう。

 まず初学者 (?) のためにシリーズの流れを確認しておこう。『プリティーリズム』とは2011年度から2013年度にかけて放送されていたアニメシリーズです。適当な図で申し訳ないのだけど、だいたいこんな感じ。

 そして『キンプリ』は『プリティーリズム・レインボーライブ』の派生作品。実に二年越しで映画が実現したんですよ!!これは今後女児アニメ界の奇跡として語り継がれるでしょう (適当)。

 公開決定がサプライズで発表されたときの様子がこれだ!! サプライズ前からテンションを上げ過ぎていた大きなお姉さんお兄さんたちが、サプライズのせいで過呼吸寸前になっている様子を見てみよう! 三段階くらいかけて大きくなっていく歓声からは人間の底力を感じられるぞ。


 さて、作品の系譜についてもう少し細かく説明しておくと、『オーロラドリーム』と『ディアマイフューチャー』は同じ世界の話で、登場人物たちなども被っている。

 『レインボーライブ』だけは独立した作品で、一部設定などは共通しているものの、登場人物は基本的に一新。そして、この『レインボーライブ』に登場した男子たち+9人の新しいキャラを中心にした新作が『キンプリ』

 その後、『プリティーリズム』シリーズは現在放送中の『プリパラ』へと引き継がれていく。その際に世界観やキャラクターだけではなくスタッフも一新。監督も交代。ただし、一部のキャラクターや設定はおまけ程度に引き継ぎ。めが姉さんなどはシリーズ皆勤賞だし、先述のかわいくないマスコット (しつこい) も時折背景に紛れ込んでたりします。 (*映画には『プリティーリズム』から『プリパラ』への引き継ぎ式的作品もありました。こちらは省略)

 以下、それぞれの作品のあらすじを少しずつ紹介! とくに『キンプリ』と世界観を共有する『レインボーライブ』はちょっとだけ詳しめに書いていくぞ!



1作目 『プリティーリズム・オーロラドリーム』 :ここが原点! 謎のジャンプ「オーロラライジング」をめぐるガールズストーリー 

プリティーリズム・オーロラドリーム Blu-ray BOX-2


 『プリティーリズム・オーロラドリーム』は、「オーロラライジング」という謎のジャンプを軸に絡まり合う人間関係を描くアイドル+スポ根系作品。それぞれ性格も家庭環境も違う、才能の差もある三人の主人公が、各々の想いを胸にプリズムクイーンを目指す物語が描かれます。

 跳ぶと記憶を失うとか魂をもぎ取られるとまで言われている物騒なことこのうえないジャンプをめぐる物語………という一作目から只者じゃない感じの作品ですが、これがもう度肝を抜かれるほどにおもしろい。笑って泣いて、手に汗を握って、楽しめる。『プリティーリズム』はここですでに完成されていたといえるでしょう。

 個人的には、『ピンポン』とかが好きな人は『オーロラドリーム』は結構好きなんじゃないかと思ってます! あの『ピンポン』の絵柄と、女児アニメ……似ても似つかぬもののように感じるかもしれませんが、あれで熱くなれる人ならたぶん『オーロラドリーム』は楽しめるはず!! 

 これはシリーズの作品すべてに言えることなのですが、まずは1クール見てください! 1クール目は作品の世界観や人間関係を丁寧に説明するのに使われます。それは深夜アニメなどに慣れている人にとっては少し退屈に感じるかもしれません。しかし、このシリーズは1クール目の最後の方にプリズムショーの大会を持ってくる。そしてそこから本気を見せてきます

 きっと怒涛のラストを見たあとには、あなたも泣きながら呟いているはずです。「プリズムの煌きはいつもそばに」と



2作目 『プリティーリズム・ディアマイフューチャー』

プリティーリズム・ディアマイフューチャー Blu-ray BOX-2

(*2作目『プリティーリズム・ディアマイフューチャー』は省略します!『オーロラドリーム』と一応話がつながっているため、ここから見始める人はいないという判断です。ごめん!)



3作目『プリティーリズム・レインボーライブ』 :連続ジャンプとプリズムライブの登場で更にプリズムショーが熱くなる!7色の少女の物語

プリティーリズム・レインボーライブ プリズム☆ソロコレクション byなる&いと&あん&りんね


 3作目にあたる『レインボーライブ』では、プリズムショーが更に進化。連続ジャンプのルールが追加されました。要するに、多く跳んだ方が勝ちという、見た目にもわかりやすいルールになったのです。シンプルでかつ熱くなれる方向へとプリズムショーが洗練されていくことになります。

 更に、それぞれのキャラクターが「プリズムライブ」をおこなうように。これは、それぞれが楽器をもってプリズムショー中に演奏するパフォーマンス。見てもらわないと伝わらないのがもどかしいですが、この「プリズムライブ」の曲と演出がまた良い!!!!思わずリズムに乗ってしまう、そんなショーになっています! 


謎の少女りんねも登場!紹介文がかっこいい。 (公式サイト キャラ紹介)



(以下、致命的ではないですが、設定を語るため多少のネタバレがあります。もしここまでで少しでもプリティーリズムに興味をもってくださった方は、この先を読まないまま『レインボーライブ』を視聴することをオススメします。「まだ『キンプリ』に行こうか迷っている」「『レインボーライブ』を視聴している時間はない!とにかく『キンプリ』の予習をしたい!」といった方は、どうぞお進みください。)



 先述したとおり、「連続ジャンプ」と「プリズムライブ」が『レインボーライブ』という作品からの追加要素です。

 しかし、この2つの新要素が新たな波乱を巻き起こしていく……それが『レインボーライブ』のストーリーになっています。たとえば連続ジャンプ。連続でジャンプすれば高得点を取ることができるというシンプルなルールなので、ジャンプを積極的に狙っていけば良い………とはなりませんでした。このジャンプ、着地に失敗すると理不尽なくらい大幅に減点をくらうのです。さらにプリズムライブも加点要素として認められません

 その背景には、「プリズムショーは美しくなければならない」という美意識や「競技である以上ルールに則った正確なジャッジが必要」といった考え、あるいはもっと露骨な利権関係が存在しています。このように、プリズムショー競技化に伴う弊害が徐々に蓄積され表面化されつつある世界が『レインボーライブ』『キンプリ』の舞台です。

 そして、その競技化されたプリズムショーの最先端に立つプリズムスタァ養成事務所が法月仁 (のりづきじん) 率いる「エーデルローズ」。主人公たちのライバル団体となります。ここ、『キンプリ』を見る人は覚えておいてください。

 この変質者……もといイケメンが法月仁です。


 さて、このように完璧を追い求め、失敗に大きなペナルティを与える競技のなかでは、選手はどのようになっていくでしょうか? のびのびと競技することなんてできませんよね。失敗を恐れるがゆえにジャンプの回数も伸びず、それどころかエリート意識とプライドの高さから、ライバルに嫌がらせをし自分たちよりも秀でた者を引きずり下ろすことに終始する。とくにランキング至上主義の「エーデルローズ」の内部では、熾烈な蹴落としあいが行われていました。(一応再確認しておきますが、これ、第一印象がいかにも「アイドルもの」っぽい女児アニメの話です。)

 こうしてプリズムショーが内部から少しずつ腐敗しつつある最中、ファッションの最先端原宿に新しいブランドショップ「プリズムストーン」がオープン。中学生店長に抜擢され、この店を経営することになったのが主人公彩瀬なるです。このお店では客前でプリズムショーを演じることも仕事の一つ。こうしてなるは、いままで無関係だったプリズムショーの世界に巻き込まれていくことに……。

中学生店長なるちゃん。「ハピなる」が口癖。頭のなかもハピなるです


 そして、なると対立することになるのが、先述の「エーデルローズ」の女子プリズムスタァ トップに君臨する蓮城寺べる。常に一番であることを求められ続け、自分で自分を追い込んでいく少女です。エーデルローズの負の側面を内面化したかのような少女で、足の引っ張り合いに余念がありません

エーデルローズ所属のべるさん。人をひとりくらい殺してそうな目をしてます……してません? (*アニメ本編だともう少し優しげな目です。)


 ほかにもキャラはいますが、基本的に彩瀬なるが店長をつとめる『プリズムストーン』と、蓮城寺べるが所属する『エーデルローズ』が対立する関係になっているということをおさえておけば十分でしょう。

 そして、足を引っ張りあってばかりいるエーデルローズのメンバーが、自由にプリズムショーをする彩瀬なるに触発されて、少しずつ暗黒面を脱していく……………。こういう話ならいかにも女児アニメっぽいですね。でも、そこで終わらないのが『レインボーライブ』の凄いところだと個人的には思っています。ぜひご自身の目で確かめていただきたいので詳しくは書きませんが、そういう単純な話では終わりません。

 ネタバレなどを避けつつ強いていうならば、(先の記事と内容が重複してしまいますが) 『レインボーライブ』は、それぞれ異なる価値観をもった7~8人の少女たちが、相互に影響を与えあって成長していく話です。この影響の描き方に脱帽します。放送時間が少なく、登場人物も多いなか、それぞれのキャラがそれぞれの価値観に沿って行動しながら、相互に影響を与えることでその価値観を変えて、成長していく。その様子がしっかりと捉えられているこの作品は、臭い言い方ですが一つの「人間ドラマ」として完成度がとてつもなく高い

 ファンから (ときに公式サイドからも?)「全人類向けアニメ」などと言われるのは、あながち過大評価ではないと、私は思っています。

 さて、このように『プリズムストーン』『エーデルローズ』に所属する少女たちの人間関係が描かれながら、さらには謎の少女りんね、そして4連続ジャンプを成功させた天才スタァ天羽ジュネ。何らかの理由からエーデルローズを去り作曲を辞めた神浜コウジと、彼の曲を盗作してソロデビューを果たした速水ヒロ。エーデルローズのような団体には属さずストリートでフリーダムにダンスする仁科カヅキ。ほかにも数えきれないほどのキャラクターが物語に関わってきます。冷静に考えて、この人数のキャラを効果的に動かせたのは奇跡としか言いようがないし、監督をはじめとする製作陣は良い意味でおかしい。

 この超次元な髪型をした少女 (?) が天羽ジュネです。天才プリズムスタァであり、『レインボーライブ』世界の女子トップ選手。『キンプリ』をみる場合、余裕があったら覚えておきましょう。


 さらに、『レインボーライブ』の大事な要素となっているのが家族。家族っていいね!って話だったらいかにも子ども向けなんですが、これも一筋縄ではいきません。このアニメに出てくる家族は、ほとんどが崩壊寸前の状態です。詳しく書くと長くなるのでやめておきますが、僅かなキャラを除いて、ほぼすべての家庭に問題があります。

 そして、このアニメは家族についての規範を押し付けるようなものではありません。家族を、家族であるという理由だけで愛せと命じるようなストーリーではないのです。やはり詳しくは書きませんが、この点で私は『レインボーライブ』を非常に高く評価しています。(*)

 ぎゅうぎゅうに詰まった人間ドラマ、物語の進行に合わせてどこまでもヒートアップしていくプリズムショー。控えめにいっても、最高のエンタメ作品。それが『プリティーリズム・レインボーライブ』です。ラスト付近ではあらゆる感情が奮い立たされ、なんかおかしなことになってきます。泣きながら笑いすぎて過呼吸になりかけ、展開の熱さとプリズムショーの熱さに汗をかきすぎて脱水症状になりかける。アニメを見てここまで感情が動かされたのは初めてでした。自分で書いてて何を言っているのかよくわかりませんが、それくらい凄いって話です。

 きっと見終わったころには味わったことのない幸せに包まれ、「プリズムの煌き……」と「プリティーリズムを見てください……」以外の語彙を失うことになるでしょう。それは冗談にしても、いつもより少しだけ世界が明るく見えたり、いつもより少しだけ頑張ってみようかなという前向きな気持ちになっているはずです。そういう力をもった作品なのです。


 最後に、一応べる様を擁護しておきましょう。監督はインタビューでべるについて次のように言っています。

 本当のアスリートは、常に不安に駆られていて、寝ていてもライバルがトレーニングしているんじゃないかって追い込まれて、夜中突然起きて、腹筋するって言ってましたよ。十種競技やってた頃の武井壮がね。だから、べるのああいう感じがリアルなんですよ。 (菱田正和監督。『プリティーリズム・オールスターセレクション』アニメ公式ガイドブック p.118)

 つまり、プリズムショーとはアスリートの世界なのです。ガチなのです。女児アニメ、歌、ダンス、スケート、ジャンプ。どれもキラキラしたもので、女の子もかわいい。でも、そこで繰り広げられるのは、アスリートたちの厳しい世界……。どうでしょう? この記事を読む前と後で、少しプリティーリズムという作品へのイメージが変わりましたか? もし変わっていたなら幸いです。


 さて、ここまでで『レインボーライブ』の世界観について説明してきました。なぜこんなに書いたかといえば、『キンプリ』はこの世界での話だからです。ここで長々と書いたおかげで、ようやく次に記事で『キンプリ』について書いていけます!! そして、それを読んだら劇場へGO!!。




(*なお、家族の描き方については、個人的に一部残念なところもありました。それはそのうちどこか別の記事で書くかもしれません。ただ、部分的に残念だっただけで、全体的にかなり好感を持てる書き方がされていたということはくり返し強調しておきます。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?