新たな研究を打ち立てるために概念を再定式化する際の1テンプレ。


 新たな研究領域を打ち立てるためには、新たな概念が必要である。他方で、その概念は読者にとって受け入れが容易に可能なものでなければならず、そうした明瞭な概念を一から独自に作り出すことのできる人物はそういない。すると、新たな研究領域や対象の発見には、既存の概念を、新奇性のある形で再定式化し提示するという試みが必須となる。では、その再定式化はどのようにして行いうるのか。「概念とは (例えばその概念が適用される範囲 / 適用されない範囲といった) 区別を打ち立てるものである」ということを念頭におきながら、理想的なテンプレを描くと、以下のようになるであろう。

 主流の概念Xの下では、nという事態が注目されてこなかった。このnという事態に注目するためには新たな概念を模索する必要がある。
 模索のために学史をたどると (あるいは海外の研究に目を向けると)、実はそのnに注目するための概念Yがある。このYという概念はnという事態に注目しうるという点で有益であるが、その概念の定式化の過程において極めて不明瞭な内実が与えられてきた。その概念Yの要素を改めて整理すると、a,b,c,d,e,f,gとなる。
 そこで、hという根拠から、あるいは近年蓄積された新知見に則り、このYを改めて定義づけし、再定式化を試みる。そのとき概念Yの要素としてはa,b,c,dがあり (あるいは新たな要素が加わり)、これまで含まれてきた (概念を無駄に不明瞭にしてきた) e,f,gは排除されることとなる。なお、この概念によって見落とされる可能性のある事柄や対象、解釈として、i,j,kがある。

 なお、重要なのは「概念Yがnという事態を「よりよく」観察できる」ということであり、その「よりよさ」の内実こそが論文のオリジナリティと呼ばれるものとなるであろう。というのも、冒頭の「主流の概念Xの下では、nという事態が注目されてこなかった」という一文が理解されるためには、すでに「nという事態が重要であること」や「nという事態が存在していること」が読者にとって理解可能でなければならない。このとき、「nという事態」は、ひとまず概念Yなしでも観察可能になっているのであり、それで記述の内容が十分なのであれば概念Yは必要がないものであるということになる。
 「nという事態」が存在することを読者に共有してもらい、そのうえでなお概念Yの有用性を主張したいのであれば、「概念Yを用いることで、事態nは「よりよく」観察されることになる」と論じる必要がある。要するに、概念Yを用いることで、どのような情報が付加されることになるのかが論じられなければならない。
 なお、こうした方法のほかに、「nという事態」が存在することを実例の分析から導き出し、その実例をもとに概念をブラッシュアップするという形の論文もある。この場合、思考順序のテンプレは次のようになるだろうか。

 ある実例mが存在する。
 この実例は、既存の概念Xでは十分に説明することができない要素を持つ。
 概念Yは、その要素を事態nとして同定しうる。

 ただし、これを論文の形でまとめる場合には、しばしば冒頭において「主流の概念Xの下では、nという事態が注目されてこなかった」と言わざるをえないのであり (そうでなければその論文が何を描くものなのかが読者に伝わらない)、そうである以上、事情は上と同じである。「nという事態」の重要性や存在は、すでに読者に伝わっているという状態から、話を始めなければならない。
 


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