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空色帽子の日 / ゼルダ

かつてPerfect Loveliesというサイト名で音楽レビューサイトを試みていた時のテキスト。
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ムーンライダーズの白井良明プロデュースによる3rdアルバム。瑞々しく、美しい。バンド形態のアーティストのスタジオで作られるものが必ずしもバンドによって演奏される必要はないことを教えてくれる。楽曲にとっての幸せはベストな状態の完成されたモノの提示であって、たとえそれが打ち込みやオーバーダブによるものであってもバンドとしての人格のようなものが表現されるものだな、と。


リザード・モモヨプロデュースのデビューアルバムはバンド以前であり、2nd「カルナヴァル」こそがバンドとしてのデビューアルバムと思っている。頭でっかちの文学少女が、埋め立て地を徘徊し、自室で空想に耽り、言葉を紡いでいたのに対し、このアルバムでは、外との関わりを持ち、恋をし、悩み、問いかける。朝の爽やかな目覚め(とお出かけ)から、夜自分の部屋に戻るまでの一日のように流れ、その折々の情景は誠実で、リリカル。過剰にナルシシズムに走ることなく、10代のオンナノコ(いや、サヨコですら20代であったかも知れないけれど)の背伸びや虚栄も含めてのリアルさだと思う。


TRACK6の恋する少女のときめき感、TRACK9の無情感。どちらもいわゆるバンドの音からは逸脱しているのだけれど、これ以外の音ではあり得ないし、語る言葉が見つからない程美しい。


ゼルダはその後佐久間正英プロデュースの4thアルバムでかなりプロな音に変化し(おそらく当時のバンドブームとそれを視野に入れた音づくりであったと思う)、のちブラックミュージックに傾倒する。それはパンクバンドであったスリッツが次第にダブミュージックに傾倒していった様子を彷佛とさせるのだけれど、そのスリッツの「Cut」がそうであったように、活動の中のひとつの頂点として奇跡のようなアルバム。


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