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バスファンサービスの話

年末恒例のオタクの集い、コミックマーケット。バスファンといえば、コミケと聞いて真っ先に臨時バスを連想させるだろう。昨年末のコミケも例外ではない。ビッグサイトのバスターミナルでは、多くの撮りバスがコミケの臨時バスにカメラを構えていた。

そのような中、ある事件が起きた。
百聞は一見に如かず、まずはこのツイートをご覧いただきたい。

これは昨年末のコミケにて、臨時バスの待機中に撮影されたもの。この幕は2010年の一時期、都営バスでFTD燃料・バイオディーゼル燃料の実証実験を行った際に作成されたものとされる。無論、実験期間が終了した今、通常であれば表に出るはずのない幕であるが、これは撮影していたファンへのサービスとして乗務員が掲出したと思われる。

この画像がバスファン内で物議となり、中には削除しろと命令するファンも見られた。しまいには、以下のDMを受け取ったという。

バスファンの中では「ファンサービスを安易に投稿してはいけない」という暗黙の了解がある。今回もその流れに則ったものであろう。ところが、相手は善意、もといファンサービスとは知らないで投稿したものと思われる。善意の第三者に、バスファンの決まり事は適用できるのだろうか。

ファンサービスは投稿しても良い?

バス趣味活動をしていると、乗務員からファンサービスを受けることがある。ライトを点灯する、貴重な幕を出す、エンジンを回す、車庫まで乗せてもらう…など、サービスの方法は多岐にわたる。しかし、ファンサービスを受けたというSNSの投稿は、なぜかあまり耳にしない。そもそも、ファンサービスは安易に投稿してはいけないものだと思う。理由としては、乗務員から見た側面、ファンから見た側面の2通りがある。

乗務員視点では、法律や会社規定に違反する可能性があるためである。2年ほど前、仙台市営バスで無免許・未成年のファンにバスを運転させたとして、乗務員が懲戒処分を受けた事件があった。他にも、「営業とは関係のない幕は出さない」など、規定が設けられているバス会社も少なからず存在するであろう。無論、バス会社に入社するか、人伝いに聞いていない限り、ファンは規定など知る由もない。サービスを受けたファンがSNSに投稿し、拡散されることで、乗務員が規定違反で懲戒処分を受ける可能性もある。トラブル防止のためには、ファンサービスは投稿しないが吉なのである。

ファン視点では、後から撮影しに来たファンがトラブルを起こしかねないためである。例えば、サービスを受けたという投稿を見てやってきた別のファンが乗務員に断られた際、「何でアイツはやってもらったのに俺はやってもらえないんだよ」と不満を言うファンが少なからず存在するためだ。特に撮りバスが顕著である。サービスをSNSに投稿しなければこのようなトラブルは起きないはずだ

ファンと一般人の視点の乖離

ここまで、ファンサービスの投稿について述べてきたが、あくまでバスについて最低限の知識を持っている者に向けての話である。今回のような、バスを知らない、興味のない一般人に、バスファンの暗黙ルールは適用できるだろうか。

例えば、「富士重工7E」「西工96MC」「日野ブルーリボンⅡ」の3両を所有しているバス会社があるとしよう。この会社では、ファンの間で「富士重工7EはSNSに投稿してはいけない」という暗黙のルールがある。しかし、それを知らない一般人がSNSに富士重工7Eの写真を投稿してしまった。この一般人に対し、写真を消せと言えるだろうか?

バスの知識がない者には、何がファンサービスか分かるはずがなかろう。バスファンが「富士重工7E」「西工96MC」「日野ブルーリボンⅡ」と見分けて呼んでいるバスが、一般人に何の区別もつかないことと同じである。一般人から言えば、バスは全て同じようなカタチであり、せいぜい古いか新しいかで見分けがつく程度のものだ。

それは幕も同様である。バスファンは「○○駅行き」「深夜バス」「迂回運転」「回送」「教習車」「特定輸送」などの多種多様な幕を、成立背景や歴史など様々な視点から捉え、幕の珍しさを格付けしている。ところが、バスファンが口々に珍しいと言う迂回運転や短縮運転も、一般人からしてみれば「乗れるバス」でしかないのだ。今回のFTD燃料実証実験の幕も、一般人からしてみれば「なんか見かけない幕だな」としか思わないだろう。成立背景や歴史を理解していなければ、幕の珍しさも見分けられない。

日頃見かけない珍しいものを発見した時、誰もがついSNSに投稿したくなるものである。路線バスの幕においても例外ではない。投稿者がファンサービスと気づいていないのに、理由もなく削除を要求してはならない。バスファンのルールはバスファン同士だから適用できるのであり、バスに興味のない一般人には適用できるはずがないのだ。いわば、日本の法律がアメリカ国民に適用できないのと同じである

終わりに

バスファンが年々増加し、週末は各地でファンらによる貸切会が行われるようになった。バス関連の同人誌も多数発行され、メディアにも取り上げられた昨今、バスファンは鉄道ファンや航空ファンに並ぶ乗り物趣味として、世間一般に認知されようとしている。

しかし、世間一般ではいまだバスファンに否定的な意見も見られ、車内で騒ぐ、カメラを向けてくるなど、マナーの守れない人種としてレッテルを貼られることもある。特に我々バスファンは、鉄道ファンよりも一般人に近い立場にあるため、一歩間違えれば通行人やバス会社に多大な迷惑をかけてしまう。バスファンたるもの、ルールを守って趣味活動を行わなければならないが、バスファンのルールをむやみに他人に押し付けることもしてはならない

これはバスファンに限った話ではない。鉄道ファンなら鉄道ファンのルールがあり、ラブライバーならラブライバーのルールがある。ルールを破ることはもちろんだが、ルールを人に押し寄せることもしてはいけないのである。そして、トラブル防止のため、鉄道ファン、ラブライバー、それ以外のファンの皆様も、ファンサービスは心の中にとどめておこう。


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