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ウイスキーの記憶

夜が更けていく。部屋の隅に置かれた一脚の椅子に、40代の男性が座っている。彼の手には、薄暗い灯りの中でほんのりと琥珀色に輝くウイスキーグラスが握られていた。グラスを傾けるたびに、遠い記憶が彼の心を満たしていく。

彼の父もまた、ウイスキーを愛した男だった。厳しく、時には口うるさく、若き日の彼には耐え難い存在だった。父の言葉は常に命令口調で、彼の選択を否定することばかり。だからこそ、彼は父を避け、父の好むウイスキーの味さえも嫌悪していた。

しかし時は流れ、彼もまた父と同じ年齢になった。家庭を持ち、子を育てる立場になると、父の言葉の意味が少しずつ理解できるようになってきた。父がどれほどの思いで彼を育ててくれたのか、その重みが今になってようやく彼の心に届いていた。

ウイスキーの味わいは、かつての嫌悪感とは異なり、今では温かな感謝の念へと変わっている。グラスを傾けるたびに、父への感謝がこみ上げてくる。彼は静かに目を閉じ、父の顔を思い浮かべながら、深いため息をついた。

「父さん、ありがとう。」

彼の声は小さく、しかし心からの感謝が込められていた。ウイスキーが彼に与えたのは、ただの酔いではなく、過去への理解と、未来への希望だった。

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