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ししおのつぼやき5(都市の面目)

土日とも大雨続きで遠出できず博多駅と天神うろうろして時間つぶしてしまった。その機会に写真撮れたので前からずっと書きたかったことをこの際書く。
写真は博多駅、福岡の中心部に向かっての玄関口だから、当然、福岡という都市の「顔」だ。雨降っているけど人は多く、山笠の飾り山の巨大な仮説小屋があり、駅の3階?では女性アイドルのライブがあっていたようだ。
でも山笠もアイドルもあってもなくても同じことだ。

なんてダメな建物だろう。

はじめ「なんて醜い建物だろう」と書いたが、もとから醜い建築なんてかえって珍しく価値があることになるので、言い換えれば、ダサいのももっとつきつめればいいのだが、いろいろやってもすべて中途半端で破綻に破綻を重ねてしまったのが哀れをさそうというか。画家個人の作品ならそれでもいい。変に名のある画家の作品より見る側で自分なりの価値を見つけられるから。ただこれは150万都市の中央駅だ。集団的アイデンティティの表象と期待される建築であり景観だ。

無理してデザイン性をもたせなくてスタンダードなモダニズムでいってもいいのに、縦線、横線ががちゃがちゃしているうえ、巨大な波型の屋根がまったく余計。もっとスコーン、すっきり、直線が主張していいと思うし、適度にリズムを生み出すどころか、だらだら広がってメリハリがない。そこにさらに有名デザイナーの時計とかサインが邪魔をし、地面に近いところはこの写真でわからないがいかにも「地に足がついてない」デザインだ。色モノに走らないでただの「壁」にする手もあるが、視線をふさぐだけでは文字通り「交通」という駅の象徴性に矛盾するし、やはり「景観」に配慮してほしい。
と思ったら福岡市都市景観賞だった。前からこの賞はほとんどが努力賞と思っていたが、笑うしかない。
https://tottoko.city.fukuoka.lg.jp/works/detail/192

川越しに見る博多リバレインもなんだかなあ、と思うが、あれはもともと曲線が主要な構成要素だし、鏡天満宮をなくすわけにはいかないのだからもう歴史的に!雑種的キッチュが避けられないなら開き直って、もういいや、テキトーにせい、って感じは許せる。これはそもそも場所的に福岡という都市の景観を代表するものとはいえないのだからこだわらなくていいことにする。リバレインの川端町と対比すれば、中央駅は国内外の観光客がたいてい経由し(国際空港から10分という世界でもまれな立地)、都市の第一印象を与えるのだから、博多駅はもっと美しく、あるいはさりげなく個性をにじませなければいけないのではないか。

金沢駅(2022年7月18日 筆者撮影)

前衛的すぎる京都駅とか、最近できた無意味に壮大な金沢駅(↑)とか、ディズニーランダゼーションの例とされる果物とか河童形の駅のような奇をてらう必要はなく、無理せず、しかしどこかくつろいでフレンドリーな(これについては悪口は言わない)街らしさを造形した建築にできなかったのだろうか。福岡は1.5流でいいのに1流狙うと足し算で2.5流に転落することを絵に描いたのが博多駅舎だ(あくまで建築のことであって利便性のことではない)
なおキャナルシティは独立した「ハレ」的なエリアなので「顔」になるわけではない。第一同じようなのが小倉にもあるので都市specificityはない。
博多駅の真ん前にあった磯崎新の福岡シティ銀行は今は完全に消え失せている。あのポストモダニズムも評価は分かれるかもしれないが、建築を造形作品としてみればやはりすぐれていたことが頭に残っている。(ちなみに駅の反対側にはマイケル・グレイブスのホテルがある。)
天神のアクロスもオリジナルのデザインとは異なってしまっている。これは採光とか管理上の問題のせいかもしれないが。
天神で建築といえば黒川紀章の福岡銀行だろう。名建築かもしれないがビル街で埋もれているし人を威圧する重苦しさは彼の建築思想を裏切っているのではないか。
そういえばバブル期にオープンしたアルド・ロッシのホテル「イル・パラッツオ」とかありましたね。今名前も思い出せなくて検索しました。まだ営業してましたね。4つあったバー(ひとつは倉俣史朗)はどうなったんだろう。
福岡都心部だけでもほかにもまだ見るべき建築はあるだろう。
「建築」こそ、美術品と異なって絶対にその場所に行かないと見れない・体験できない・楽しめない観光資源でしょ? 

福岡の1990年代以後の美術・文化に大貢献をしたIMS(イムズ)ビルも天神ビッグバンでなくなってしまった。天神ではすでに完成した2棟の他にも建て替え進行中だし、北天神には市民会館のあとの巨大文化施設が建設中だ。
福岡市民会館の建て替えと須崎公園のリニューアルによる「福岡市拠点文化施設整備及び須崎公園再整備」が進行中【福岡市中央区】 | フクリパ (fukuoka-leapup.jp)

天神で建設中のビル このままにしておけば梱包途中のクリストみたいでおもしろいかも
(7月10日筆者撮影)
須崎公園で建設中の新文化会館(7月1日 筆者撮影)

その隣にある福岡県立美術館は大濠公園に移転する。その模型が今の美術館の2階にあったのでチラ見したがよくわからなかった。よくわからなくていいというコンセプトなのかもしれない。
県庁ロビーで新しい県立美術館の建築模型を展示します! | お知らせ | 新福岡県立美術館が大濠公園にできるまで (fukuoka-kenbi.jp)
それでも国内外から訪れる(世界中を旅して一級品の建築物で目が肥えている)観光客にも恥ずかしくない、というか地元住民に愛され誇りとなる建物になってくれることを願う。

しかしより本質的な問題として、歴史も文化的価値もある建物を残せなかったのかと思う。前述の磯崎の福岡シティ銀行もそうだし、同じ磯崎の秀巧社ビルは、福岡市美術館開館前の展示と、ミュージアム・シティ・天神の初回など、福岡の美術史でも重要な役を担ったが、消えた。あと福岡アメリカンセンターとか、九州大学が糸島に移箱して取り壊された箱崎の大学棟とか。残せば十分観光資源になるのに。保存のほうがコストかかるし売却で経費まかなうとかの事情あるのだろうけど。
あ、旧工学部は保存することになっていた。

九州大学旧工学部(2015年10月18日 筆者撮影)箱崎

これを壊していたら、福岡は保存とか維持とか、いや創造の街ですらなく、消費「だけ」の街だという何十年も思い続けていることの証拠になっていただろう。(ある建築家に聞いたうろ覚えの話だが、昔からある商店街の再開発で、昔の街の写真を舗道に埋め込むとかの提案をしたら、商店街代表から「古いものは残さなくていい」と言われたという。)

松山の商店街(7月15日 筆者撮影)


あえて書きませんが、さっさとなくなってほしいと思う建物こそいつまでも残っているのです。

福岡市はだいたい商業とサービス業とかITとかの街でヘビーな製造業はだめだけど県なら自動車産業、陶磁器、家具など「ものづくり」文化があるのだし、工学部だったんだから、この建物を、デザインに重点をおいた県立美術館にすればいいのにと思っている。建築・美術・観光の専門家も誰もそんな提言しなかったのだろうか。デザイン・ミュージアムならお隣の福岡市美との差異化も明確(福岡市美のほうが全九州なので収集範囲が広いから県美は包含されてしまっている、同じような問題は大分県と大分市にもあるのに)、しかもデザイン専門なら全国的に(さらには国際的に)オリジナリティがあるし産学連携もしやすいだろう。いくら専門家が委員会とか作って方針出しても全国同じような(非専門家の役人が作っても大差ない)無難で総花的な結論しか出せないでしょ?
新福岡県立美術館とは | 新福岡県立美術館が大濠公園にできるまで (fukuoka-kenbi.jp)
161886_161887_lightver.pdf (fukuoka-kenbi.jp)

まあどうせ私は40年近く住んでも福岡の人という意識はまったくないので特に意見する義理はないのだけど、あまりに「がっかり」景観、「がっかり」文化を見続けてきたので。
(7月10日加筆、写真追加①[金沢]、23日写真追加②[松山])