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「虚構の都」をたずねて(3)

 荒涼としたビッグサンダー・マウンテン。麓に広がるのは、古くもにぎやかな街並み。少し下れば、ひときわ目立つ蒸気船。ウエスタンランドに到着だ。
 以前の僕はこの街に、「いわゆる“西部”の世界」という曖昧な印象しか持っていなかった。1881年、OK牧場の決闘。1890年、フロンティアの消滅。年号につれて覚えた、世界史の知識ぐらいだろうか。『トム・ソーヤ』も『ハック・フィン』は確かに読んでこそいたが、そうしたトウェインの世界はむしろアメリカ河寄りのこと。このエリアのメイン通りに関しては、『ウッディのラウンドアップ』のイメージが全てだった。

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↑実際、今回もウッディとジェシーに会うことができた。

 しかし、今回のインはそれだけじゃない。以前のnoteに書いたように、いくつかの西部劇を観て臨んでいる。『大列車強盗』のような映像として古いものから、『駅馬車』『赤い河』『大いなる西部』などの有名な長編まで。どれもお決まりといえばお決まりの流れをするのだが、決闘や対アパッチのダイナミックなシーンにはハラハラさせられた。
 西部劇の多くは、新天地を求めた開拓、あるいはそれに従事する人々を描くことから始まる。大いなる夢を目指して、様々な立場の人が集まる。
 その道中で待っているのが、先住民“インディアン”との抗争だ。現在では「ネイティブ・アメリカン」としてリスペクトを受けている彼らだが、これらの作品ではもっぱら悪役として描かれる。代表的なところでいえば、アパッチ族のジェロニモなどが挙げられるだろう。だだっ広い荒野での撃ち合いのシーンは、西部劇映画において大きな見せ場となっている。
 そして映画の終盤では、しばしば男同士の決闘が行われる。「父親を殺された」などの私的な因縁によるものや、互いの道理に決着をつけるためのものなど。保安官がいるとはいえすぐに駆けつけられるとは限らないため、自分の身は自分で解決するという世界観がそこにはある。少し中世を感じたが、これはこれで娯楽としては痛快だ。
 ここウエスタンランドにも、そんな筋書きを感じさせるセットがいくつも用意されている。

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 例えばこれは、農地販売の広告だ。先ほどウッディとジェシーがいた場所の奥にあったものなのだが、おわかりいただけるだろうか。年号が「1851」となっているから、カリフォルニアの金を求めて西へ進んできた人々がロッキー山脈あたりで分かれた頃のことだろう。

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 お次は店内のプロップス。西部劇にはキッド(若造)とつく無法者が多いが、彼らの影もちらついている。有名どころではお馴染みビリー・ザ・キッドや、『駅馬車』のリンゴ・キッドなんかがいたりする。

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 他にも、これは娯楽としての西部を広めた興業主、バッファロー・ビルの絵だ。映画技術が生まれる前にも「ワイルド・ウエスト・ショー」なる演劇が存在したのだが、その礎を築いた人物とされている。

 具体的なアトラクションの紹介に移ろう。まずは、『カントリー・ベア・シアター』。待ち時間からしてもあまり人気とはいえないが、僕個人としてはとても勧めたいアトラクションだ。世界を飛び回る熊のバンドが、数々のカントリーミュージックを演奏してくれる。

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↑彼らは日本にも訪れていたようだ。「NIKKO」だったり、「YOKOHAMA」だったり、更には相撲を取る姿も見える。

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↑ショーを待つロビーには、演奏予定の曲の楽譜も飾ってある。これは『The Ballad of Davy Crockett』。ここのショーでは「テネシー生まれの快男児」と日本語歌詞で始まるが、楽譜の上では「Born on the mountaintop in Tennessee」と英語版になっている。

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 アメリカ河のエリアに移れば、『蒸気船マークトウェイン号』がピカイチ。ウエスタンランドとクリッターカントリーにわたる運河の周遊船だ。今回は、運良く始発に乗り込むことができた。夜は夜でライトアップが綺麗だが、朝一で乗るこの船は爽やか。水面に映る煙を眺めていると、清々しい気分になる。この記事のトップ画像も、この船からの景色である。

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 船内には船名の由来、マーク・トウェインの肖像画も。本名はサミュエル・ラングホーン・クレメンズというのだが(だからトム・ソーヤ島には「サムクレメンズ砦」がある)、水先案内人だった過去からこのペンネームを名乗っていた。“Mark Twain”とは「2ひろ」、つまり12フィートを意味するが、これはミシシッピ川を通る船が安全に航行できる中で最も浅い水深のことを指している。彼の作品には『金ぴか時代』や『経済学』などの風刺ものも多いが、ギリギリを攻める名前らしいともいえるだろう。なお、彼が住んでいたハンニバルでは水先案内人は当時の花形職業だったようである。
 むろん蒸気船というのは、ディズニーそのものにとっても象徴的なものだ。ミッキーマウスのデビュー作たる『蒸気船ウィリー』の名は、ファンでなくとも多くの人が耳にしたことがあるはずだ。あの作品は『Steamboat Bill』という歌の“本歌取り”でできている。この歌は、高速記録をつくるため無理な航行をした結果、爆発で亡くなってしまう船乗りを語ったものだ。(余談だが、トウェインの弟も蒸気船の爆発事故で亡くなっている。当時の蒸気船もまた、危険な側面を持ち合わせていたのだろう) 初期のミッキーは無鉄砲な役回りが目立つのだが、この歌の文脈を持つことでそれが更に際立つわけだ。

 大人気の『ビッグサンダー・マウンテン』は、この時点では混んでいたので夜にまた来ることとした。そろそろお昼時。次は、入るレストランを探そう。

※追記

 学期中忙しくて、連載がいったんここで止まっています。旅行編が終わったら再開するかもしれないので、続きはまたそのときに。

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