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週末トリップ、『美女と野獣』

週末の過ごし方

 週に5日働くと、土日のうち片方は楽しいことをしたくなる。平日でも気軽に遊べた学生時代は意識しなかったけれど、休みに両方寝ていると損した気分になってしまう。新たな週を迎える前に、「自分は土日をよく過ごした」と思える何かが欲しい。
 流行りのカードゲームは、この空欄を埋める趣味としては有効だ。週末は地元でも数カ所で大会があって、一度デッキを入手すれば気軽に参加することができる。頭を使って勝ったり負けたりする体験は、なかなか面白い。
 ただ最近、そればかりになっていることを気にしている。地元ではそれなりに勝てても、仲間と切磋琢磨して競技シーンを目指すほどの遊び方はしていない。家でゴロゴロしているよりは明らかに幸せなのだけれど、毎週することがない為にルーチン化しているのも考え物だ。
 人と会うのも、即日ではハードルが高い。サークルの集まりがあったり、「明日遊ばね?」と気軽に言える友人がいたりしたことは、偉大なことだったんだなあとつくづく思うばかりである。予め声をかけようにも、新生活が始まったばかりで忙しいのでは?と足踏みしがちだ。
 こんな八方塞がりの日は、自ら予定を作り出すのがよい。夜行バスや新幹線で無理くり旅をする体力はないが、幸い東京には電車で出るだけでも何かある。上り電車に乗り込んで、それからやることを考えてみてもよいのである。入念な準備で臨んだ始発ディズニーとは対極の、出たとこ勝負の一日を始めることにした。

車内での計画

 座席に着いて、スマホを開く。
 日常から離れたくて自宅から出たので、単なる公園等よりは別世界感を楽しめる行楽地を望んでいた。学よりは遊びたかったので、上野や神保町という気分でもなかった。電車で行ける範囲のレジャー施設で、気になっていたところをピックアップすることにした。
 最初に思いついたのは、豊島園の跡地にできた「スタジオツアー東京」。ハリー・ポッターは好きな作品だが、オープン当初は予約でいっぱいのニュースを目にして申し込んでいなかった。チケットページを見たら売ってはいたものの、夕方以降入場の券のみだった。行ってきた人のレポートブログをいくつか読むと、滞在3-4時間はみた方がよいとのことで、夕方からでは十分でないと判断し断念。
 次の候補は「西武園ゆうえんち」だった。以前のnoteに書いた通り特撮ファンということもあり、「ウルトラマン・ザ・ライド」にいつかは乗りたかった。折角なら「ゴジラ・ザ・ライド」と並行して楽しみたいが、この2つのライドは同じ施設で時間ごとに演目を入れ替えているらしい。家を出たのが朝としては遅めの時間だったので、こちらもどちらかしか間に合わないと判断し今から行くのは適切でないと考えた。
 となると「イマーシブフォート東京」はどうか。お台場・ヴィーナスフォートの跡地にできた新テーマパークで、演劇への没入体験ができると話題である。調べてみると一般入場券以外に有料演目を追加するとより面白いらしいが、有料演目のチケットが売り切れていたのでこれもパス。何人かで参加して結末の分岐を語り合うと楽しいらしいので、後日友人を誘って行ってみたいと思う。
 とまあ、18きっぷ旅行と同様「候補が出ては消え、出ては消え」の流れになってしまった。「ここに行くならこう」と瞬間的に判断はできるが、計画を立てるのが上手いんだか下手なんだか。しかも今回は、電車がどんどん都心に近づくという制限がある。うっかりして乗り過ごすと、埼玉か千葉の果てに着いてしまいかねない。
 そんなとき、イマーシブフォートからの連想で「観劇はどうだろう?」という発想に思い至った。この時既にお台場を目指してりんかい線に乗っていて、『ライオン・キング』の有明四季劇場が近かった。ただ、13時開演だったので少し間が空いていた。それならばと四季のディズニー演劇を調べてみると、『美女と野獣』の舞浜アンフィシアターが時間にピッタリ合っていた。りんかい線で新木場まで進めば、方面としても無駄がない。こんな経緯で、『美女と野獣』の当日券を取ることに決めた。

パークワイドの思い出

 結局、約2週間前に引き続き舞浜エリアへ。イクスピアリ、高校・大学のお金のない頃は通い詰めていたのを思い出す。リゾートラインに乗って、ボン・ヴォヤージュを歩いて、ピアリでご飯を食べて、そんな青春もあった。その気になればパークに入れるようになると、ピアリだけのために舞浜に行くことはどんどん減っていくのだろうか。現に4月以降、前回の始発シーを除けば舞浜駅で降りるのはこれが初めてだ。
 アンフィに行こうと思えるようになったのも、バイト時代と比べて少し余裕が出てきたからなのだと思う。従来の自分なら、そのお金があったら休日午後券でもなんでも入園券に使ってしまったような気がする。
 ただし、四季の『美女と野獣』自体はずっと気になっていた。主な理由は2つある。1つは、ランドの『美女と野獣 魔法のものがたり』オープン以来、同作品を原作から追いかけていたからだ。現在の東京ディズニーリゾートを象徴するものがファンタジースプリングスなのならば、私の大学4年間(所謂「コロナ時代」)の東京ディズニーリゾートを象徴していたものは『魔法のものがたり』であると思う。やっぱり新しいものには惹かれるわけで、私が大学時代一番「読んだ」ディズニー作品は『美女と野獣』であることに間違いない。翻案の流れの中で、四季版ではそれがどのような形になっているか興味があった。もう1つは、四季作品を観ること自体にモチベーションが高かったという点だ。大学時代に他学部潜りの暮らしをしていた際、教育学部の演劇系の先生に親切にしてもらったことがあった。演劇を中心とする翻案を扱う授業で、後半は学生発表が中心の活発なクラスだった。その中で四季や宝塚、時に2.5次元の話をしている学生がいて、解説がえらく面白かったのを覚えている。だから、いつか観てみたいと思っていた。尤も先述の通り、大学時代の私はパークチケット代を優先していたので、在学中にそれが叶うことはなかったのだが。
 
 イクスピアリからアンバサダーホテルの方に抜けると、アンフィシアターが見えてくる。いつもリゾートラインで眺めていた劇場に、ついに行けるのかと嬉しくなる。当日券のブースは空いていて、スムーズにチケットを買うことができた。B席(¥8500)を購入。舞浜に着いたのがギリギリだったので、すぐに開演の時刻になった。

観劇レポ

 折角観てきたので、ざっと初見の感想を。

・音楽が素晴らしかった。
 「朝の風景」や「強いぞ、ガストン」を、あの迫力で聴けただけでも来て正解だった。「夜襲の歌」なんかは、演劇だからこそ出せた力強さだと思う。
 曲と関連して、ベルもまたアウトサイダーだということについて「朝の風景」の段階から丁寧に伏線が張られていた。ムラ社会で力を持っているのは圧倒的にガストンの方で、ベルはベルで孤独を感じているところが野獣との共通点というのが綺麗だった。(やっぱりベルは主人公だから、「少し風変わり」くらいでメインの立ち位置という感じが今まではしていた)
 
・ガストンのキャラが立っていて好きだった。
 ディズニーの『美女と野獣』を面白くしているのはガストンだと思っている。原作文学には登場せず、ディズニーの映画版以降で現れたキャラクターだ。ベルに強引に言い寄るという意味では悪役なのだけれど、それ以外のところでは筋が通っているのが痛快だ。素性を知っているベル以外は、野獣と聞いて撃退を目指すのがむしろ「正しい」反応だし。
 四季版は「強いぞ、ガストン」直前ではちゃんと落ち込んでいたし、ベルの父を利用して結婚を取り付けようとする場面でも「頭を使う」と言っていて(=ガストンなりの頭の使い方、生活の悪知恵。ベルが読書で得る教養とは違うタイプの知恵。)とても好きだった。あれこそガストンだと思う。

・人間味あふれる野獣が印象的だった。
 野獣は他の版だと粗暴なところが強調されているイメージだったが、四季版では恋愛に奥手なところがよく示されていた。なかなかベルに告白できない場面などは、観客からも笑みがこぼれていた。
 実は純真無垢な野獣(魔女を追い出したのも、子どもっぽいという印象が強かった)だが、四季版では暴れがちであることよりもそちらが強調されて、時にピーターパンとウェンディを見ているようだった気もする。

・読書の場面について。
 個人的には、ベルと野獣がつながるきっかけが「読書」だというところが『美女と野獣』の好きな要素の一つである。特定の文学作品を示すことによって、本歌取りのようなことができる部分でもあるからだ。ディズニーの実写版では確か『ロミオとジュリエット』が2人をつなぐ一冊となっていて、それが本来結ばれるわけにはいかないBelleとBeteを象徴しているような感じがして好きだった。(ちなみに、ランドの「ビレッジショップス」にも『ロミオとジュリエット』が目立つ形で飾られている)
 ところが四季版では、野獣は読み書きをほぼ習わなかったという設定だった。リュミエールも「私たちの教育が行き届いていなかったことにも責任がある」と述べているし、人間と動物との対比や知(ベル側)と無知(ガストン側)との対比からはその方が自然なのだが、野獣は曲がりなりにも王子なわけだしさすがに読み書きはできていてほしかった……というか……。ただ、今の設定で突っ込むなら『アーサー王物語』は的を射ていたような気がする。

 今までの記憶が少し曖昧で、「ディズニーアニメ版を踏襲しただけだ!」みたいなこともあるかもしれないけれど、感想はざっとこんなところで。もうリピートしたいくらいには良かった。

ニューチャプター・ビギンズ展

 観劇の後は、イクスピアリで開催されている「ニューチャプター・ビギンズ展」へ。ファンタジースプリングスのオープンを記念した企画展で、前半はシーのこれまでの歩み、後半は新エリアの設定資料が展示されている。
 無予約でも入ることはできるが、行く時間帯がわかっているなら事前に予約した方がよい。予約列が捌けてから無予約に権利が回ってくるので、混んでいる日だとどれだけ待つかわからないこともある。私はその場でサイトから1時間後の予約を取って、食事をするなどして時間をつぶした。



 中はポスターやジオラマが沢山飾ってあって、ファンタジースプリングスを満喫した人にはたまらない展示だと思う。裏を返せば、新エリアを実際に訪れる前にはあまりおすすめしない。折角なら初見の感動は、実際のエリアで味わってほしいからだ。
 BGSに関する資料もいくつか展示されていて、その手のファンにも嬉しいかもしれない。新エリアは「スプリングス」って言ってるくらいなんだから泉の方が本体で、ピーターパンやラプンツェルの世界はそこから小川を辿った結果着くものだという説明が好きだった。

※余談だけれど、考える系ディズニーが好きなファンの中にも「BGSを追っかけるタイプ」と「さらにその背景となった歴史を追っかけるタイプ」がいるよね。(ディズニーの一次資料である)ハイタワー3世を調べるのか、(その元となった可能性がある二次資料として)例えばコールハースの『錯乱のニューヨーク』を読んで満足するのかみたいな。私は最近後者に寄ってきたけれど、ストームライダーなんかは前者あってのものなので前者の姿勢がシーに残っていることは絶対に重要です。

おわりに

 外に飛び出してみたおかげで、いつも以上によい週末だった。「平日ふらっと行く」ができないので、遊びに行くにも事前の計画性が求められるようになってしまったけれど、行き当たりばったりの一日もやはり捨てがたい。
 次回は、選択肢のところで挙げたボツ案にも挑戦してみたいと思う。仮面ライダーのnoteで須賀川(ウルトラマン)のことを書いたら後日行くことになったように、書いてあることはわりと叶うのだから。


 

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