捌くを裁く[SS]
「結論から言うと、武器商人だった」
村の公衆浴場。
蒸気の中、洗い終えた体を湯に浸ける。近くに人がいないことを確認してから、日向は声を潜めつつ隣に言った。
「へえ」
俊次郎は、こともなげな様子である。いつもの白い肌は、上気して赤くなっていた。
村の外からやってきた、馬を連れた男二人組。それを日向は警戒している。二人組は今旅籠に宿泊しており、村をぶらついたり、飯処で食事をする様子は確認している。
村の者に聞き込んだところ、武器を売っている、という話が入ってきたのだ。
「道場にも来ますかね?」
「来ないな」
「なんだぁ」
残念がる俊次郎を睨んだが、日向はすぐに真剣な表情に戻した。
「コソコソとなにやら売り捌いているらしい」
「捌けているんです?」
「どうだろうな。茶葉屋の親父の話だと、村のモンは陰陽びいきだから、武器の話を持ちかけられても断る。とは言っていたが」
信頼されているんですね~と、俊次郎はどことなくため息交じりに言った。両手を合わせて空気を閉じ込め、湯の中に気泡を作って遊び始めるのを横目で見る。
陰陽。
村に住む者たちは皆、小野家の陰陽の力に惹かれてやってきた。小野家は日向の実家であり、現当主は日向の父、匡靖である。
「その商人、取り締まります?」
「そういう決まりは今、村にない」
そもそも、このふたりが住む村は、そんなに大きな村ではなかった。商人がやってくることはあったが、それは小野家に特別な紙を卸すためである。
小野家は静寂を好んだ。しかし、だんだんと村のうさわが広まり、人が増えた。旅商人も最近は増加している。
人が集まればいさかいも起きるが、それを裁く決まり事の制定は遅れていた。
「ご当主様は、村にいませんしねえ」
そうなのである。日向の父、匡靖はほとんど村にいない。だから村の決まり事は分家の泰平が決めるか、村の寄合いで決めるかのどちらかだ。寄合いには道場主として、日向も参加している。陰陽の者が参加することはない。
「とりあえずは師範が裁くしかないですね」
たやすく言ってくれる。しかし、現状はそうするしかないのも事実だ。
「だれも師範の取り決めに反対なんてしませんよ」
「俺はそういう、独裁的なやりかたは好かん」
日向の言葉に俊次郎は一瞬、何か言いたげな表情をした。しかしすぐに飲み込み、
「理非の見極めですね。はいはい、お供しますよ」
と言った。その言葉を聞いて、日向は風呂をあがった。
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