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『PLAY!〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』が好きだ

⚠️この記事は『PLAY!〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』のネタバレ・記憶頼りの不確定な情報を含みます。



映画『PLAY!〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』の話をさせてほしい。

この作品は実話にインスパイアされた日本初のeスポーツ劇映画である。鈴鹿央士、奥平大兼、小倉史也演じる三人がチームを組み、ロケットリーグの全国高校生大会へ挑む軌跡を描く。
あらすじには「高校生」「チーム」「大会」など眩しい青春時代を彷彿とさせるキーワードが並ぶ。しかしこの作品は他の青春映画とは一線を介する。その理由と魅力を語らせていただこう。

<はじめに>

主要キャラクターの説明をさせてほしい。

鈴鹿央士演じる田中達郎(以下:達郎)は手首の怪我をきっかけにバスケットボールを引退し、eスポーツに打ち込む学生。達郎はかなりの合理主義で、過程より結果を重視する。大会へ出場するために人を集める際も、チームメイトなんて言葉が笑えるほど、冷ややかな態度を示す。「人を人として見ていない」というのが達郎のキャラクターのポイント。しかし家では飲んだくれた父親の代わりに、身を粉にして家庭を支える母親へ、素直になれない思春期男子らしい一面もある。

奥平大兼演じる郡司翔太(以下:翔太)は金髪ピアスがトレードマークの人気者。なんだかいい感じの女の子もいちゃったりする。しかし達郎と同じく、翔太も家では問題を抱えていた。DV気質の父親とゲーム依存症の母親、まだ幼い弟二人、不安定で貧しい家庭。学校での明るさが嘘のように、翔太が両親へ笑顔を向けることは一度もない。

小倉史也演じる小西亘(以下:亘)は典型的なオタク男子。VTuberの胡桃のあに夢中で、勉強や交友関係にも身が入らない。翔太や達郎とは違い、仲のいい家族と何不自由ない裕福な生活を送っている。eスポーツ未経験者だがゲームは上手い。結構ひねくれ者。

大会へ出場するために仲間が欲しい達郎。
ポスターの文言に惹かれた未経験者の翔太。
数合わせだと半ば強引に参加させられた亘。
映画ではこの三人がチームメイトとなる。

普通のチームスポーツだとしたら、練習を重ねて親睦を深め、時に衝突して喧嘩になり、和解してさらに結託する……そんな流れが定石だろう。ここで映画『PLAY!』の魅力一つ目が出てくる。


<1.三人の距離感>

チーム「アンダードッグス」を結成した三人は実際に会って「これからよろしく!」と挨拶を交わすこともない。達郎は翔太と亘に集合時間、URLをLINEして終わり。オンライン上で集まり解散する。それぞれがどんな思いや環境下でゲームをしているか知る由もない。知ろうともしない。ただその線引きが、きっと三人にとって一番居心地のいい関係の形なのだ。
どこか息苦しい生活の中、自分の全てを知らない人とゲームをしている間は、嫌なことも一時忘れられる。
友情と呼ぶにはあまりに他人行儀な関係かもしれない。ただゲームに勝って無邪気に喜ぶ姿は、親の前でも友人の前でも見せないような、等身大の輝かしさを顕にしている。それはきっとまだ名前のない特別な存在なのだ。
三人が初めてオフラインで集合するのは、なんと準決勝戦の前日。翔太と亘の絶妙な空気感が見所。

さて三人の不思議な関係性のあとは、より密な存在である家族について語りたい。


<2.家庭の描写>

家庭に問題を抱える達郎と翔太。
この二つの家庭で印象深いシーンがある。準決勝戦前日、学校が終わって帰宅してからのシーンだ。
学校を終えて帰宅した翔太は家具がなくなり、凄惨な自宅の様子を見て驚く。父親に問いかけると母親が離婚届を出して弟二人を連れ、家を出て行ったという。翔太は一瞬、何か言おうと息を吸うが、結局何も言わずに黙って自室へ消える。
達郎は自室で筋トレ中に手首の傷を痛めてしまい、母親に冷湿布の場所を問う。母親は痛がる達郎を心配するが、達郎は「平気」「気のせいだったみたい」と返す。

このシーンの二人に共通しているのは、自分の気持ちを親へ打ち明けられないところだ。

翔太は怒りたかったはずだし、達郎は甘えたかったはずだ。しかし父親を責めたところで家庭は戻らない。疲弊した母親にこれ以上の心労をかけたくない。青春映画らしからぬ複雑な家庭の描写も『PLAY!』特有の苦味だと思う。
二人は胸に蟠りを抱えたまま決勝戦の会場である東京へ向かう。もちろんそれは、チームメイトの誰も知らない。
達郎が、明朝、家を出る前にダイニングテーブルで眠る母親へブランケットをかけるシーンがある。素直になれない達郎なりの不器用な愛情表現なのだろうなと思うと、涙が出てくる。好きなシーンのひとつだ。

にわか結成の「アンダードッグス」だが着々と決勝戦へ駒を進める。最後にサブタイトルにもなっている、この言葉の魅力を語りたい。


<3.勝つとか負けるとか、どーでもよくて>

この映画に奇跡は起こらない。
東京での準決勝戦。慣れない環境下。ナイーブで空回りする亘を筆頭に、手首の痛みで本調子を出せない達郎、元々ゲーム初心者で経験値の浅い翔太。歴戦の相手を前に噛み合わないプレイングが続く。五分間の休憩中、翔太がぽつりと零す。
「思いっきりやりたい。思いっきりやったなぁって思ったら……きっと、勝つとか負けるとかは、どーでもよくて……」
作品のサブタイトルにもなっている『勝つとか負けるとか、どーでもよくて』は三人が出場したeスポーツ大会のポスターに書いてある文言である。翔太がeスポーツをやりたいと思ったのもこの言葉がきっかけだ。
達郎と亘は翔太の言葉に何も返さない。しかし休憩があけて再びチームメイトとなった三人は、以前のように一生懸命楽しむことを思い出したような気がした。
ただ最初に言ったように奇跡が起こらないのが、この映画の良さでもある。
アンダードッグスは準決勝戦で敗退してしまう。優勝は叶わなかった。悔しがる達郎の顔を上げさせたのは、会場に溢れる観客からの歓声と声援だった。達郎は亘と合流して残りの試合を観戦する。あとから来た翔太が手首の怪我に気づいて問いかけると「やっちゃった」と笑う。あれだけ他人をアテにせず、孤独だった達郎からは考えられない言葉だ。

負けた悔しさや悲しみを乗り越えた彼らは、生まれ変わり、めいいっぱい楽しむことをする。

勝ち負けにこだわらない。得られた経験や価値を大切にする今らしいテーマ。インターネットといえ、その向こう側にも人間がいて人生があることを改めて実感させられる終わり方だった。
エンドロールでは東京から地元へ帰る三人の姿が流れる。負けたのに、どこか晴れやかな表情でそれぞれの帰路につく。見てる側も爽やかな気持ちになるラストだ。


<最後に>

『PLAY!〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』が新しいことが始まる春に公開されたことをとても幸せに感じる。主題歌の『イエロー』を書き下ろしたCody・Lee(李)は「彼らの様に躊躇いながらも進もうとするあなたに向けた曲です」とコメントを残している。丁寧なイントロとアウトロ、情景が浮かぶような詩的な歌詞は、映画の魅力の粒を並べたような温かみと美しさがある。
eスポーツが繋いだ三人の想い出は、大会という節目の後もきっと彼らの人生で輝き続けるのだろう。
大画面で見る試合は汗でびちゃびちゃになるくらい痺れるし、成功ばかりでない人生を生きる三人を見ると、頑張ろうと思える。学生だけでなく大人にも見て欲しい。本気で向き合うことは時に怖い。けれどその先にはきっと、勝ち負けでは測れない大切なものが得られるはずだ。


以下記事に組み込めなかった好きなシーンたちです。

<ゲームプレイ>
当たり前だけど、こういう試合の流れがあって〜っていう台本通りにプレイングするプレイヤーの方がいるの本ッッッッ当にエグい。常人では考えられない。あまりに凄い。もっとドヤって欲しいしもっと注目されてほしい。それともこんなレベルの人達がゴロゴロいるんですか!?(まさかいないよね…!?)

<HALとの戦い>
ライバルとの戦いってだけでもアツいのに、勝敗を決める最後のゴールを翔太へ任せたってところが……最初は練習すら独りで「俺が点をとる」と二人をまるでアテにしなかったあの達郎が……翔太のプレイングを見てきたからこそ「託してもいい」と思ったの、泣けませんか……そのあとHALのチームが「gg」と賞賛したのも好きです。言われた三人が無邪気に「グッドゲーム……!」と噛み締めるのも好きです。

<翔太の恋模様>
翔太と紗良ちゃんの焦れったい恋模様、めっちゃ好きやねん。優しすぎるがあまり受け身の翔太に「はよ告白してまえー!」と思わず野次りたくなる。紗良ちゃんが翔太にピアスをプレゼントした時の「百均で一番高いやつ」がすっっっっっっっっげ〜好きなんですよね。高校生っぺぇ〜……あまずっぺぇ〜……。

<亘の魅力>
小倉さん演じる亘の魅力がハンパじゃないんですよね。初めて見た時の会場の笑い声を共有したいくらい……表情とか言葉のニュアンスがしみじみイイ味出してるな〜と思います。小倉さんが亘への理解力を研ぎ澄ませてくれたから、小西亘があんなにも愛されるキャラクターになった。達郎との写真攻防戦がアドリブの動きなのは言わずもがな名シーン。個人的に決勝戦が終わって亘だけ家族が迎えに来てくれるとこ、亘が家族に東京ばななを買っていってるとこが好きです。ええ奴。

<東京での本戦>
決勝戦のために東京へやって来た3人がロケットリーグの練習をするために街を走り回るシーン! 行き当たりばったりな感じが青春だな〜って感じてすごく好き……帰り道で石ころをとるために立ち止まった翔太へ足を貸してあげる達郎、肩を貸してあげる亘のシーンも好き。無言で差し出せる関係値いいなぁと思う。
あと先生夫婦がなんだかんだ言いつつ3人が負けた時の心配しながら見守ってくれてるのも好き。

<主題歌の歌詞>
主題歌が最高だっていうのは筆舌に尽くし難いのですが、特に好きだぜってポイントは「かちだけ探しても迷わないよう君が生き方をくれたのです」のとこ!耳だけだと「勝ち」か「価値」か分からないのがミソ。
結果に重きを置く達郎が、翔太や亘と出会って「勝ち(価値)」だけに固執しない生き方を学んだのかなと……涙……最初はあんなトキントキンだった達郎が最後に二人の肩を抱いて思いきり笑えるくらいまでやわやわになったの本当に、心がギュッとする。
大会が終わって新しい人生を歩み始める三人が、互いの声を支えに生きていたらいいなと思う。

最後に見た日からもう1ヶ月経ってしまった。
地元で再上映されないかな〜。

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