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心理探偵フィッツ 季刊DVDレビュー

DVDリポート
5月にDVD化される『心理探偵フィッツ』が大注目な理由。

POINT1 英国は傑作ミステリドラマの宝庫。 ホームズやポワロだけではない、異色ミステリドラマの最高傑作!
POINT2 出演者はハリウッド映画でも活躍中。 「マイノリティ・リポート」のサマンサ・モートンやロバート・カーライルの演技は圧巻!
POINT3 英国ドラマのクォリティの高さ。 重厚、 緻密、衝撃。 英国最高の脚本家のひとりであるジミー・マクガヴァンの職人芸を見よ!

■ 知られざるテレビドラマの最高峰!

本年度のベルリン映画祭でグランプリを獲得したマイケル・ウィンターボトム監督の最高作は何か? と問われたら 「心理探偵フィッツの第1話「過去のない殺人者」と答えるし、 ロバート・カーライルの最高の演技は? と問われたら「フルモンティ」でも「トレインスポッティングもなく同シリーズの第4話「孤独な男」での犯人アルビー役を挙げる。 しかし、 日本ではNHKBSで放映され、その後CS放映されたこの傑作ドラマを知る人は少ない。放映時に見たという人に感想を聞いてもほとんどは暗くて好きになれないという答えが返ってきた。 無理もない。なにしろ主人公のフィッツときたら、アル中でギャンプル狂、毒舌家で皮肉屋でおまけに鯨のような肥満体の中年なのだから。 しかしこれは、 全10話、1993年から96年に渡って製作された近年まれに見る傑作ドラマなのだ。
フィッツは前述のような悪癖も自制出来ず結婚生活は崩壊寸前の超ダメ男なのだが、 心理学者としてはすこぶる優秀で、こと犯罪者の心理分析にその能力を発揮する。
しかし、このドラマはフィッツの犯罪心理学者としての活躍を描いてるわけではない。 各10話、それぞれ事件は起こり犯人は捕まるときもあれば捕まらないときもある。あるときなど、 犯人として捕まった人物が真犯人ではないこと、それをフィッツも視聴者である我々も、 そしておそらく捕らえた警部すらもわかっているのに、その冤罪は冤罪のままとなり、真実は闇の中だ。

■根底にあるのは “宗教” と “同性愛”

これは犯罪とその解決を描くドラマではない。人間、誰もが犠牲者にも加害者にもなるということを描いているのである。 傍観者たりうるフィッツもその例外ではないのだ。 そしてその根底には宗教と同性愛が色濃く存在してるということに触れざるを得ない。 第1話 「過去のない殺人者」での主人公は犯人でもフィッツでもなく、偶然その場にいあわせたために犯人とされる男である。 彼の正体はここでは明かさずにおくが、その結末を知ったとき、 誰もが神のつくりたもうこの現世のあまりにも不条理な運命の皮肉を呪わずにはいられない。
これはやはりシリーズクリエイターのジミー・マクガヴァンの意によるものだろう。 彼の代表作は「司祭」である。 英国におけるカトリックプロテスタントの歴史を語るには私はあまりにも無知で認識不足だが、 フィッツはカトリックということで、 この事件に深く関わっていくのである。
(余談だが、フィッツを演じるロビー・コルトレインは英国ではコメディアンとして有名だが、その彼の代表作はモンティ・パイソンのエリック アイドルと共演した 「ナンズ・オン・ザ・ラン」と「法王さまご用心」 というカトリックを徹底的茶化したコメディだったのである。 とくに後者は英国で大ヒットとなったが、本家の怒りをかったのかイタリアでは上映禁止となった)
そしてもうひとつ、 同性愛という要素も深く内在していくのだがそれが浮かび上がってくるのはシリーズの終盤に入ってからである。

■信じがたい展開と驚愕のクライマックス

シリーズ前半のクライマックスはカーライル演じる殺人者アルビーが登場する第4話 「孤独な男」。
アルビーの狂気を掻き立てたものとその犠牲者を知るとき、一種の驚愕を感じ得ないのだが、それが遺された人物に多大な影響を与え、後半の第7話「真実の行方」 の終幕を迎えるとき、見るものに与える衝撃たるや尋常ではない。 待望のDVDを鑑賞するにあたって心して頂きたいのは、必ず第1話から見ていくということ。途中つまずいても見続けていくこと。そして全部見終わってから、 今度はそれぞれのエピソードを見直して欲しい。 そのためにも BOX購入が必須だ。 通常の劇場映画などでは絶対に遭遇し得ない (なにしろ全10話もあるのだから) 感情の噴出を経験するだろう。
出演陣は、 クリストファー・エクルストン、サマンサ・モートン、エイドリアン・ダンバー、ジム・カーター、リッキー・トムリンソンなどなど英国映画界で活躍する布陣がそろっている。 日本ではハリー・ポッターシリーズの心優しき森番で知られるロビー・コルトレインの卓越した演技。 そして当代随一のクリエイター、ジミー・マクガヴァンの見事なまでのドラマツルギーに心して臨もう。

原題:CRACKER
製作:グラナダ・テレビジョン
クリエイター:ジミー・マクガヴァン
脚本:ジミー・マクガヴァン (1~4、6~7) / ボール・アボット (8~10) テッド・ホワイトウッド (5)
出演: ロビーコルトレイン/ジェラルディーン・サマービル/クリストファー・エクルストン/ローカン・クラニッチ/リッキー・トムリンソン/バーバラ・フリン

季刊:DVDレビュー、DVDレポートとして掲載
発行:AVエクスプレス
2003年刊行

スーパードラマTVの作品紹介
http://www.superdramatv.com/line/fitzall/

追記:
ロビー・コルトレインは2022年に亡くなりました。日本ではハリー・ポッターのハグリット役で有名と紹介されることが多かったが、私にとって彼の代表作はフィッツ。
現在に至るまで私のオールタイム海外ドラマベスト5には絶対入る傑作。
23年ほど前、マンチェスターを訪問した際、ここがフィッツの街と痛感したのも良い思い出。もちろんグラナダテレビにも行きましたよ!
玄関にはフィッツや「第一容疑者」のパネルが飾ってありました。
DVDBOX 発売・販売 ハピネットピクチャーズ
現在は廃盤
配信なし


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