まず経営者が見るべき現実

1. 哲学者であり、評論家でもある東浩紀氏が、日本の社会運動には親鸞的な要素も見られると何かの本の中でおっしゃっていた。

つまり、幕末のええじゃないか騒動といい、学生団体シールズによる国会前の運動といい、長らく続いた秩序が崩壊する危機が生じた時、ある言葉をみんなで唱えれば救われるという親鸞の南無阿弥陀仏的な要素が日本の社会運動には多々見られる、と。

社会に不安が広がった時、ワンフレーズによる言霊的な共同幻想に浸り、思考停止して現実から目を背け、安心感に浸りたいという大衆心理。

一般人ならそれも仕方ないかもしれないが、国民の生活を守るべき政治家が票欲しさにそれに同調してしまってはこの国もおしまい。

2. それは経営者も同じ。理念を語ることは結構だが、現実もみないとそれは自分だけでなく、取引先や従業員等の利害関係者にも多大なる迷惑をかけてしまう。

では経営者にとってまず見なければならない現実は何か。財務かどうか難しいところだが、まずは自らの存在理由にあたる部分、つまり会社の所有者である株主との関係だと思う。

特に中小企業は所有と経営との未分離が経営者自身が特徴で、会社のオーナーである場合が多いので他の株主の株式保有の割合との関係で自分の経営判断がどこまで確実にかつスピーディーに出来るか把握しておくことは大切なことである。

そのためには、株主の意思決定機関である株主総会の意思決定事項・決議事項について知っておく必要がある。

まず、株主総会の意思決定事項についていうと取締役会を設置しない場合、会社法に規定する事項および株式会社の組織・運営・管理その他株式会社に関する一切の事項について株主総会で決議することができる(この形態は一般にほとんど見られないので以下、取締役会設置会社をについて述べる)。

他方、ウチもそうなのだが、取締役会を設置している会社の場合、代表取締役が、広く業務に関する権限を持ち、例外的に取締役会で一定の重要事項につき権限をもつ形となる。

なのでこの場合、株主総会においては会社法に規定する事項や定款で定めた事項につき、決議をすることができるにすぎず、ほとんど出番がなくなる。

3. では経営者は考える必要ないかというとそうではない。

それは何かというといくつかあるが、一番重要なのは取締役等の役員の選解任(今回は取締役に絞る)というものである。

経営者は一般に代表取締役のことをいうが、代表取締役は取締役の中から選定しなければならない(会社法362条3項)。

そして取締役は株主総会で選任される(会社法329条1項)。定足数として株主の議決権の過半数か、3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上にあたる株主の出席が必要であり、その出席した株主の議決権の過半数で決せられる(会社法341条)。

なぜドラマ「ハゲタカ」の会社やファンドが株式の過半数をめぐって壮絶な争いをするのか。それは経営権の奪取のため。経営権の奪取とは一言で言えばトップの人事権を握るということ。

つまり、定足数の有無に限らず過半数のさえいれれば、トップの入れ替えは思うがままというわけだ。

逆に、経営者、特に自分のようなオーナー社長からすれば最低でも株の過半数を確実に手に入れておきたいところ。

経営基盤が揺らぐような会社は取引先も社員も近寄らない。だからまず経営者がやるべきことは株式を一定以上確保して自らの地盤を固めるということ。

4. もっといえばいざという時、へんな人間に株をとられても大丈夫なように拒否権付株式、いわゆる黄金株も発行しておくといいかもしれない。それは今検討中といったところ。

このように中小企業社長は自分だけじゃない、多くの方々を巻き込む立場にあるので、権利関係の部分は何をおいてもきっちりしておきたいところだ。




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