会社の安全を従業員におすそ分け

一部の隊員に対し、固定給を実施した時、ついにルビコン河を渡ってしまったと思ったものだ。それくらい警備会社にとって固定給というのは警備員に優しく、会社には厳しいものといえる。どういうことか?

一般的に警備員の給与は日給月給主流だ。日給月給とは賃金を日額で決め、1ヶ月間に働いた日数をかけ、毎月一定の期日に支払う方式のことをいう。それは実質的に例えば材料費や販売手数料等売上に比例して増減する費用である変動費といえる(まあ理屈上はそうなのだが警備員も人間なので…。とりあえず今回は純粋な変動費と見なしておく)。

他方、固定給は出来高・能率・出勤日の割合いに関係なく一定額で支給される給与・賃金のことをいうので家賃や減価償却費などの生産量や売上高の増減とは関係なしに発生する固定費と評価できる。

つまり、仕事がないときにでも、少なくとも契約期間中は給与を支払いつづけなきゃいけない点で会社にとってはかなり重い費用といえる。どんな事情があろうとも月々に一定上の売上を上げないと赤字になってしまう。損益分岐点が上がってしまうわけだ。

損益分岐点とは収益と費用が等しくなって、損益がゼロになる売上高のことをいい、それを表す式は固定費÷(1ー変動費率)で示される。

例えば年間売上高1億円、人件費(日給月給)8千万円、その他諸経費1千万円(変動費500万円、固定費500万円)、利益1千万円の警備会社があったとする。この場合の人件費は変動費と評価できるので変動費率は8500万円分の1億円で85%。

この会社の損益分岐点は500万円÷(1-85%)=約3333万円。

他方、年間売上高1億円、人件費(固定給)8千万円、その他諸経費1千万円(変動費500万円、固定費500万円)、利益1千万円の警備会社があったとする。この場合の人件費は固定費と評価できるので変動費率は500万円分の1億円で5%。

この会社の損益分岐点は8500万円÷(1-5%)= 約8947万円。

(ちなみにこの数字は弊社とは全く関係がありません、念のため)

もちろん、日給月給と固定給の場合の違いを示したかったのでかなり極端な例で計算したし、実際はもっと会計上は複雑で事業展開次第によっては人件費比率や社会保険の適用範囲が違うし、他の諸経費の額はもっと上がる場合がほとんど。また一部考慮に入れていない費用もあるのでこの計算においては一概にこの計算が少し正確性に欠けることは認める。

とはいえ、一般的に警備会社として少し大きいか、ありがちな規模の会社で人的警備会社の人件費の平均7割〜8割を考慮にいれてざっくり計算するとこの例でいえば日給月給から固定給に変えるだけで年間約5614万円の売上を稼がなきゃ赤字になってしまう結果となる。

これは何を意味するかと言えば、会社の安定を従業員にお裾分けする。つまり会社が自らの身を削って従業員の待遇を上げていることを意味するのだ。

それくらい日給月給を固定給にすることはリスキーなのだ。でも一定額以上の契約金額の値上に応じていただける取引先が少ない以上、こうでもしないと今の時代、ヒトは集まらない。ヒトが集まらないと警備業は成立しない。

経営者としては相当悩ましい…。

でもそれをマイナスばかりに捉えても仕方がない。むしろ、これによって従業員は安心して業務に専念してもらえるわけだから、質の向上につながるだろう。また日給月給の選択肢も残すわけだから、従業員にとっては働き方の選択肢が増えて、いいことだと思う。

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