〝常識〟に向き合う

1.(1) 学生だった頃、シアター711という下北沢の小劇場でタイトルは忘れたが信仰宗教の教組が主人公の劇を見た。

〝原価がタダ同然のこの壺を100万円で売ったのが悪いって、そんなの程度の問題でみんな似たり寄ったりじゃないか。
僕はこれが信者の悪霊を取り除くと本気で信じて売っているんだ。何が悪い…〟

確かそんなセリフだったと思う。

それを聞いた時、当時、司法試験の勉強を始めたばかりだった自分は〝ビジネスと詐欺の境目とは一体なんだろうか〟と考えたことを今も思い出す。

(2)世間で言う詐欺とは人にウソの事実を伝えて相手を騙すこと。

一方で詐欺罪(刑法246条)が成立するには

①相手にウソの事実を伝える行為があること。
②それによって相手は勘違いをする。
③その勘違いに基づき、相手が金銭等の財産を渡す。
④その結果、相手に財産上の損害が生じる。
⑤①〜④それぞれに因果関係が認められること。
⑥故意(自分が詐欺をしている認識)及び不法領得の意思(自分のものにしてしまおうという気持ち)認められること。

を満たす必要がある。

必ずしも詐欺と詐欺罪は同じではないということ。

事件にもよるであろうが、一般に詐欺罪の立証は難しいとされ、特に主観に関わる⑥の故意を立証するのは困難を極めるとされる。

(3)だから自分の行動は詐欺罪にあたらないから安泰かというとそうじゃない。

その場合でも問題が大きくなって被害弁護団が結成され、報道されると、世間から詐欺師呼ばわりされ、商売が出来なくなる。

本人がウソをつくつもりがなく、刑法上の詐欺罪に当てはまらなくても、相手が裏切られたと感じ、それが世間から見ても異常であれば詐欺呼ばわりされるわけだ。

そしてビジネスと詐欺の境目は社会的な常識が関連しそうだ。

2. 磁気治療器の預託商法で問題となっているジャパンライフ。

預託商法とは、高配当・元本保証などをうたい、土地やモノや家畜などのオーナーを募り、その管理・運用のための出資金である預託金を集めるもの。

警察当局は特定商取引法6条違反(不実の告知)の容疑で捜査をすすめるという。

不実の告知とは事業者が消費者と契約を結ぶ際に、重要事項について客観的事実と異なる説明をすること。違反すれば懲役3年以下又は300万円以下の罰金(同法70条)となる。


おそらく被害額が1700億円〜2400億円と大きく、世間での反響も大きいので、詐欺での立件が厳しいが取り敢えずは特商法で引っ張ろうと考えているのではないかと思う。

そのジャパンライフが事実上破産した。債権者集会の中で、債権者達からの責任追及に対し、山口会長が「私はあなた方に良い商品と健康を与えてきた。その恩を忘れたのか。」と怒ったという。


すこし新聞を読んだだけなので詳しい事情は分らないが、おそらくは元本保証で確実に高いリターンが得られるかのような説明を投資家におこなって、始めはきちんと配当金を払い続けていたが、途中から配当が滞り、それに怒った投資家が元本を返してもらおうとしたら倒産して、会社にはお金が残っていなかった、みたいな。

そんなとこだろう。クロサギでそんな投資詐欺の話があったような。

山口会長はひょっとしたらクロサギの世界みたいに悪質な投資詐欺を専門とする詐欺師なのかもしれない。
逆に冒頭の教祖様のように、本気でお客様の幸せを考えていたのかもしれない。

3. (1)ただ一つ言えることは、両者とも社会通念から大きく外れていると考えられること。

社会通念とは社会一般で成立している常識という意味だが、これがなかなかやっかいな代物。

法律は国会議員の過半数で成立する。その国会議員は選挙によって国民から選ばれた人達。

よって法律の目的や趣旨にはどうしても社会通念が入って来ざるを得ないし、その解釈の根拠もその社会通念を前提に職業裁判官が合理的に行うことになる。

だからその社会通念を大きく外れることは、過半数の国民の意思に逆らうということ。

同調圧力の強い日本という国では社会通念に逆らうことは社会的な死を意味する。

このことはこの国でビジネスをする経営者は強く胸に刻まないといけない。

業界の常識が作られたのも、そこの大手なり監督官庁の発言や考えが基になっているが、最終的に多くの業界関係者の納得が担保されているから。

そしてその納得感の根拠は社会通念だったりする。

特に自社の属する警備業界は監督官庁が公安委員会。

なので、もちろん警備業が歩んできた歴史的背景も影響しているが、他の業界と比べても良くも悪くも統制が厳しい。


当然、社会通念に基づく行動の要請が強くなる。

(2)その一方で昨日の旭酒造に関するブログに書いたように、業界の常識にとらわれていてはこれからの時代を生き残ることは難しい。

だから、業界の常識に捉われない経済活動をやることもやむを得ない場合もあるだろう(もちろん、法律を破るのは論外だが)。

ただ、その際にその業界の常識は果たして今の社会通念から見てどういう位置にあるのかを留意しておく必要がある。

特に業界の常識と社会通念が近い場合は、細心の注意が必要となる。

常識に捉われないことと、常識を軽視ないしは無視することとは全く違うということ。

それもまた経営者がやるべきリスク管理だと思うのである。

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