煙草

「ふぅー、、、」

喫煙スペースに移動した俺は、1人でいつもの煙草を吸っていた。

やはり自己加害と分かっていても煙草は好きだ。(コンビニの安めのやつ)

思えば吸い始めたのは成人して少し経ってからだった。高校の友人数名と割り勘して煙草を買い、いっせーので吸った。

俺を含めて4人だったが、1人は煙くて咳き込み、1人は無理だと言ってすぐ灰皿に押し付けた。

結局、俺ともう1人の女子だけが真顔で煙草を吸っていた。

ピー音が付くような薬物は違法だが、煙草は合法だ。それは何故だろうか。

タバコや酒は一時的な快楽、つまりマスタべーションに似たところがある。マスタべーションは1週間に正しい方法で数回だけであれば害はないと聞いたことがある。しかし、煙草は肺を、酒は肝臓なんかにめちゃくちゃ悪い。それに、癌や生活習慣病にもなりやすい。何より依存性がある。そう考えると、薬物との違いはあまり無いようにも見える。まあ、専門家ではないからなんとも言えんが、、、

ちなみに俺はヘビースモーカーでは断じてない。これでも1日二、三本と決めているのだ。

害があると知っていて現代人はなぜ煙草を吸うのか。

これは俺個人の見解だから不快に思われるかもしれないが、逃げるためにあるのだと思う。

昔、中世のヨーロッパでは産業革命が起こり、労働者たちは大変な労働を環境が良いとは言えない場所でしており、賃金も低かった。そんな時に辛さをまぎらわせてくれたのは酒である。

酒で仕事のつらさや苦しさ、アンフェアな世界への憎しみを一時的に忘れたかったのだ。当時の風刺画を見ると、それがよく分かったりする。

当たり前だ、そんな環境にいたら誰でも逃げたくなる。

ピー音が付くような薬物も、昔は貿易されていたくらいだ。

人間は逃げ場が無ければ生きていけない、俺はそう考えている。飲まず食わずで戦える不死身の兵士など、いやしないのだ。

無論、違法薬物を吸えば後には戻れなくなる。依存性から抜け出すことは容易なことではないらしい。

なぜ依存をするか、それは社会が依存を余儀なくさせていると捉えてもおかしくないのでは無かろうか、と俺は考えたことがある。

例えば、何故自棄酒という言葉がある?自殺防止のポスターがある?自傷行為がやめられない人間がいる?それらのBecauseを辿っていくと、多くが辛い現実から逃げるためにしているのだ。

この国は資本主義だ。貧富の差は当たり前のようにある。家柄やコネで楽々に金を得られる人間もいれば、人並みを超えた努力なしには金を得られない人間もいるし、中にはどう頑張っても産まれ持ったものや奪われたもののせいで金を得られずに見捨てられる人間もいる。

俺は3つ目に当たる。

長々と語ってしまったが、この世界はおかしい。何故産まれ持ったものや奪われたもののせいで未来を奪われなくてはならないんだ。

それを俺は、学生時代からずっと感じていた。

どうして好きなように生きれないのだろう。

たった一度の人生だ、少しは楽しく行きたい。

俺は我慢して健康を得るより、好きなことをして不健康になる方がマシだと思っている。

どうにもならないと分かりつつも、こんなことを考えてしまうとは、、、

これは俺の勝手なルサンチマンに過ぎないというのに。

そんなことを考えていると、喫煙スペースの扉が開いた。

さっきの軍服の女だ。よく見ると目は蒼くて髪は黒い。そして長い。

「そこの君、少しお尋ねしたい。」

帽子を少し深く被り、長い黒髪を縛っているらしい。そして目は日本では珍しい碧眼で、アニメで出てきそうな軍服を着ている。

「なんや?」

俺は吸いながら適当に相槌をうった。

「名前と、失礼だが年齢を教えてくれないか?」

、、、

なるほど。確かにそやな。

俺の見た目は、肩にロングパーカーを羽織り、白いニットに黒のスキニーと普通のものやけど、髪は長く、後ろで茶髪を縛っており、前髪をピンでとめている。

そして、背が低い。そのためか、小学生女児に間違われたことがあるくらいだ。初対面なら無理もない。

「厭 翠。25歳や。」

相手の女は少し驚きつつも、表情を変えずに言った。

「疑ってすまない、君が未成年だったらどうしようと思ってな。私はリベラ・フェミル。退役軍人だ。もうすぐ28になる。人からはレウと呼ばれているから、そう呼んでもらって構わない。」

なるほど、レウさんやな。

「ええんすよ、慣れてるんでね。ほな、レウさん。俺からも質問ええか?なんかあんさん、見覚えあんねんけど、ネットとかでなんか活動してます?」

そう、たしかなんかのイベント中継で見かけた気がする。

「ああ、私はコスプレを趣味としていてな。たまにイベントに出るから、その時にあったのかもな。まぁ、本職は道場経営者なんだがな。」

ほぉん。確かになんか強そうだ。退役軍人って言ってたしな。それに、聞くとレウさんはさっき管理人が言ってたひとつの道具が軍刀らしい。さらに言えば剣道と居合の経験があるようだ。

「君たちは私が守る。安心してくれ。」

これは心強いな。

そして俺はそばの灰皿に煙草を押し付けると、レウさんに向き直った。

「ひとつ聞いても?」

「構わない。」

「ほかの奴らはどこにいったかしってます?もうこの部屋から出てしまったんすかね?」

「いや、あの場から離れたのは君と私だけだ。それに、私は君を追ってきたから君がタバコを吸っていただけと分かっているし。なにより、私一人じゃ一人一人話しかけていくのは時間がかかる。」

「そーすか。そいならそろそろ、他の人に声掛けてみません?なんにせよここに置いてくことはできへんし。」

「そうだな。私も協力しよう。」

俺は煙草を灰皿に捨て、レウさんと喫煙スペースを後にした。



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