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健康は人まかせではなく自分で管理する


はじめに

この頃、体の調子の悪い人から助言を求められることが多くなりました。相談される悩みはじつに多様なのですが、なぜかアドバイスはいつもほぼ同じ。ということで、時間の節約の為こちらに記すことにしました。ご参考になれば幸いです。

不快感というメッセージ

生命にとって必須の栄養素であるビタミンが発見されたのはおよそ112年前。この間微量栄養素の研究は著しく進展し、膨大なデータが蓄積された結果、栄養素と健康との間には非常に強いつながりがあることが明らかになりました。すなわち、タンパク質やビタミン・ミネラルなどが不足すると、さまざまな異常感覚や不快な症状が生じ、時には重篤な病すら惹起されてしまうという事実が浮かび上がってきたのです。したがって、もしあなたが何か問題を抱えているなら、まずは毎日の食事を振り返ってみてください。つまるところ健康な状態を取り戻すためには、栄養の過不足を調え、滞ってしまった代謝を改善する以外に方法はありません。不定愁訴と呼ばれる症候群は、其の実『お〜い栄養が足りないぞー!』という体からの警告なのです。


いちばんのもの

私たちが必要とする多くの栄養素のうち、あえて順位をつけるとすれば、まず筆頭にくるのがプロテイン=タンパク質です。なぜならタンパク質こそが髪や皮膚や骨や筋肉や内蔵など体のすべての組織の主な材料になっているからです。年齢や生活環境にもよりますが、一般の成人では1日に体重の1/1000、60kgであれば60gのタンパク質が必要だと言われています。それだけの量を摂らなければ、不断に壊れては作り直されている体のすべての細胞の新陳代謝が回らないわけです。そのうえ血液もホルモンも抗体も、さらには神経伝達物質やそのレセプターまでもがすべてタンパク質からつくられている以上、もしも不足したときにはあらゆる方面に影響が及びます。以前に専門家が『タンパク質をとりすぎている人は世界中にいない』と語っていましたが、実際タンパク質を必要な量まで摂るのはなかなか大変です。なぜならタンパク質は量だけではなく、質の方も吟味しなくてはなりませんから。そしてその質を評価する物差しがプロテインスコアです。これはタンパク質に含まれている必須アミノ酸の比率によって決まり、スコア100のタンパク質は摂ったアミノ酸が体内で100%利用されますが、スコア56のタンパク質だと56%しかそのアミノ酸が利用されません。出番のなかったアミノ酸は体の外へ排泄されてしまうので、スコアが低いということはそれだけ無駄が多いということになるのです。ゆえに百点満点のタンパク質であるプロテインスコア100に近いもので体重の1/1000を賄うのが理想なのですが、残念ながらプロテインスコア100の食品は卵しかありません。いくら体によくても毎日卵を十個食べるわけにはいきませんよね。ではどうすればよいのか? 手っ取り早くて楽なのは、市販されているプロテインスコアが100に調整された粉末タイプのプロテイン食品を利用することです。この方法だと例えば飲み物に1スクープ10gを入れれば、それで百点満点のタンパク質を10g摂ることができるので簡便この上なしです。また、手間隙かけることを厭わないという方であれば、献立を工夫して、一日に摂るすべての食べ物のタンパク質の量を計算するという手もあるでしょう。そんな面倒くさいことはやってられないという方もいるかもしれませんが、何も考えずに毎日テキトーなものを食べていると、間違いなくタンパク質は不足してしまいます。ただ、幸か不幸か、体はじつによくできていて、足りなくなれば自動的に筋肉や肝臓などのタンパク質を分解して欠けている分のアミノ酸を補ってくれるので、急激な体調の変化はなかなか現れません。これがビタミンとは違い、アミノ酸の欠乏症が問題になること稀な理由です。さりとて長い目で見るとそのような無理がいつまでも続くはずはなく、ツケは必ず回ってきます。くだんの不定愁訴の出番と相成るわけです。タンパク質の評価法ではほかにもアミノ酸スコアというものがありますが、より良くなるためにタンパク質を摂るのであれば、より厳格な基準であるプロテインスコアの方を目安にして下さい。アミノ酸スコアとプロテインスコアはともにタンパク質の品質を表すための物差しではあるものの、それぞれの評価は下記のように異なります。ご覧のように、たまご屋さん以外は皆アミノ酸スコアを採用したくなるはずです。


ビタミン・ミネラル

ふだん体の中のことを細かなところまで考える機会はあまりないと思いますが、じつは体内では想像を絶するほどの複雑な化学反応が間断なく起こっていて、その結果うまれた無数の微細な分子は血液の流れに乗って全身の細胞を駆け巡り、離合集散を繰り返しながら融通無礙に姿を変えて私たちの恒常性を保っています。きのうも、きょうも、あしたも、常に変わらぬ自分自身でいることができるのは、体の内部で分子たちが絶えず変化しているおかげなのです。そしてその化学反応の主役である酵素もまたタンパク質からつくられていて、なぜか重要な代謝を担っている酵素ほどアシスタントとしてのビタミンやミネラルを要求します。


『生命のしくみーその誕生から脳の働きまでー』より



ビタミン不足で脚気や壊血病になり、ミネラルが足りずに貧血が起こるという話を聞いたことがあるでしょうか。なぜ、微量栄養素が欠乏すると種々の疾病が引き起こされてしまうのかというと、それぞれの病気とかかわる代謝を受け持っている酵素の構造が、アシスタントの不足で不完全になってしまい、触媒としての機能を発揮できずに、化学反応が停滞してしまうのがその理由です。上の図でいえば、真ん中下の「酵素ー基質複合体」がうまく形成できない状態です。ちなみに、この酵素と基質が組み合わさっている時間はほんの一瞬で、平均すると千分の一秒から百万分の一秒の間くらいとのこと。逆算すると、なんとわずか一秒の間に千個から百万個もの生成物が生み出されているということになります! 体内にはこのような酵素が数千種類も存在し、それらがさらに複雑につながり、組み合わさりながら代謝は調節されていますので、まさに数えきれないほどの多種多様な酵素が、目にも留まらぬスピードで活動することによって体内環境は整えられていると言っていいでしょう。したがって、これら酵素たちがヘソを曲げないように、ビタミン・ミネラルはたっぷりと補給する必要があります。


ここまでのまとめ

  • 病気や心身の不調は栄養不足に起因することが多い。

  • 必要とされる栄養素の筆頭はタンパク質。1日にプロテインスコア100のタンパク質を体重の1/1000摂るべし。

  • 体の中の化学反応はタンパク質から作られる酵素によって調節されている。酵素が十全に働けるよう酵素の一部分であるビタミン・ミネラルを過不足なく摂るべし。



タンパク質・ビタミンの不足をチェックする

必要な栄養素の量は、一人一人で異なります。ビタミンCが500mgで十分な人もいれば、10g摂ってもまだ足りない人もいます。また同一人でも健康な時と病んでいる時ではその必要量はぜんぜん違うことでしょう。ここで厚生労働省による「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の1日あたりの推奨量・目安量と、いま私が摂っている1日あたりの主要なビタミンの量を比較してみます。

  • ビタミンA     推奨量900μg  私の量30,000μg  

  • ビタミンC     推奨量100mg    私の量3,000~5,000mg

  • ビタミンE      目安量7mg        私の量804mg

これほどの隔たりがあるわけですが、べつにこのせいで何か副作用があったとか、病気になったとかは未だありません。それどころかサプリで補うようになってからの方が明らかに調子が良く、歳のわりに元気に働けるのは多めにビタミンを摂っているおかげだろうなというのが率直な感想です。またこのやり方を勧めた身近な人たちが一様に元気になっていくのを眺めていると、じつに多くの人がタンパク質や微量栄養素が足りていない一種の栄養不良に陥っているということがわかりました。



では、ここから栄養が足りているのかどうかを自分で調べる方法を説明します。近ごろは栄養療法を標榜するクリニックも増えてきているので、そこで専門的な検査をしてもらうという手もあるのですが、残念ながら健康保険の適用外になるため高額の費用がかかります。ゆえに財布に優しいD.I.Y.といきましょう。まずは下の五つをサプリメントで補ってみて心身の変化を観察してみてください。

  1. タンパク質 良質タンパク質で体重の1/1000を摂る。足りないようであれば市販のプロテインで補う。

  2. ビタミンB群 B1が30mg~100mg

  3. ビタミンC 2,000mg~

  4. ビタミンE 268mg(400 IU)~

  5. ビタミンA 3,000μg(10,000 IU)~7,500μg(25,000 IU)

市販されている普通のマルチビタミンだと含有量が少なすぎるので摂ってもあまり変化を感じることはありませんが、これぐらいの量だともしも不足があれば補われることによって感覚や症状に変化が現れます。しばらく続けてみて不快な症状が緩和されるようなら、栄養不足がその症状を引き起こしていた可能性大です。つまり毎日の食事だけでは健康を維持するための十分な栄養素を補給できていなかったことになります。ただし、ここでも個人差は大きく、わずか数日で変化を感じ取る人がいるかと思えば、半年が過ぎ血液検査の数値がかなり改善されたのに全く何も感じないという人もいます。本当に人それぞれなので、心身の調子をみながら慎重に摂っていくことをお勧めします。摂り方は幾通りもあると思いますが、一例をあげてみます。まず日々の食生活でのタンパク質量を計算する。足りないようであればプロテインで補う。しばらく続けて問題がなければそこにビタミンB群を足す。またしばらく様子をみて何もなければ今度はビタミンCを足す。で、次はビタミンEという感じで。こうすれば途中何かが起これば、例えば吐き気がするとか、下痢をしたとか、何かいつもと違うことが起きれば、何を摂っていて、どれを足したときにこの不快感が起こったというのがわかりますので、その原因と思われるものをしばらくやめて様子をみることができます。またビタミンB群を摂りだしてから疲労感が軽減されて肌の調子がよくなったとかいう場合は素直にビタミンB不足であろうし、その後ビタミンCを足してみても全く変化を感じなかったというのであれば必要だったのはビタミンB群でCは足りていたのかもしれません。あるいはビタミンCの量がまだまだ足りないので効いていない可能性もあります。Cの必要量は人により100倍くらい違うという説もありますので、そういうときには試しにビタミンCの量を増やしていって最適量を探ります。そんなに大量に摂っても大丈夫なのか?と不安になる人もいるかもしれませんが、推奨量の定義さえ正確に知れば、全く恐れるには足りません。また、他のやり方としては、まずタンパク質だけを三ヶ月ほど摂って、一旦やめる。今度はビタミンB群だけを三カ月摂る。またやめて今度はビタミンCだけを三カ月というように、それぞれを分けて摂って、様子をみながら何が足りていないのかを調べる方法などもありますが、まぁ、やり方は好みに応じてアレンジして下さい。上記リストはすべて食品なので、よっぽどの量を摂らない限り、薬と違って副作用の心配はいりません。そうして試行錯誤を繰り返しながら、自分にとっての最適の量を、自分の感覚を頼りにして探します。ちなみにビタミンCはストレスを感じているときや体の調子が悪いときには大量に消費されます。ビタミンブームの立役者ライナス・ポーリングは風邪を引くと一日に40gものビタミンCを摂っていたとか。これは驚くことに厚労省の推奨量と比べると400倍の量です。今のところ、個々人のビタミンCの必要量・上限量を知ることは非常に難しいので、動物のデータなどから類推するか、自分の体で実験するかしか手はありません。ラット・モルモット・サルなどの動物で調べた数値を体重60kgの成人の場合に換算すると、ビタミンCの一日の必要量はだいたい2g~20gになるということですが、これは私が自身で行った実験とも符合しますので、一般的にはこれぐらいの範囲で試してみればいいのではないかと思います。


ご用心

水溶性のビタミンであるビタミンB・Cは過剰に摂っても排泄されるので副作用は起こりにくいのですが、脂溶性のビタミン、とくにビタミンAは摂りすぎると頭痛や吐き気などが出やすいと言われています。個人的に経験した副作用らしきものとしては、脂溶性のビタミンEを連日5,360mg(8000 IU 目安量の765倍)摂った時にムカムカして軽い吐き気を感じたことと、水溶性ビタミンですが、ビタミンCを20g(推奨量の200倍)ほど摂って軽い下痢をしたぐらいで、未だ深刻な副作用は実験的にかなりの量を摂っているにも関わらず経験したことがありません。ただし妊娠中や治療中の方は細心の注意が必要です。妊娠中にビタミンAを過剰摂取すると胎児に奇形が起こるとの報告がありますし、薬を多種類服用しているとビタミンがその作用を邪魔してしまう可能性もありますので。過ぎたるは及ばざるが如しで、とくに単一の栄養素だけを大量に摂ると問題が起こりやすいのでご用心ください。

また、上記のリストには脂質やミネラルが入っていません。必須脂肪酸のオメガ6系とオメガ3系のアンバランスや、必須ミネラルの潜在的欠乏が専門家からも指摘されていますので、もししばらく続けてみても特に変化が現れない場合、脂質やミネラルのことも考えなくてはなりません。

最近になって第六の栄養素とも言われるようになった食物繊維もまた、わたしたちの健康に大きな影響を及ぼしていることがわかってきました。腸内細菌のエサでもある食物繊維が不足すると、エサの代わりに腸管の壁を覆うムチンという粘液が標的にされたり、腸内細菌叢の良し悪しが脳の働きを左右したりすることが明らかになっていますので、もしも五大栄養素(タンパク質・ビタミン・ミネラル・脂質・糖質)を調えても改善が見込めない場合にはさらなる工夫がいるかもしれません。

なお、炭水化物(糖質)について言及していないのは、現代の食生活ではとかく摂りすぎる傾向にあり、不足よりも過剰の方を心配すべきなのがその理由です。日々の食生活から摂りすぎている糖質を減らすだけで、とくにビタミンなどを補わなくても心身の調子がよくなる場合があるのです。なぜかというと、体の中であり余ったブドウ糖はタンパク質や脂肪と反応して、さまざまなトラブルの原因になる終末糖化産物AGEsや過剰な活性酸素をつくり出してしまうからです。糖尿病の合併症がこわいのはこの為で、ご飯やパンや麺類などの炭水化物は消化吸収されたあと体内でブドウ糖になるわけですが、このブドウ糖、あの二日酔いの原因物質であるアセトアルデヒドの仲間なのです! ゆえにHbA1cが高い人や肥満気味の人は一度日々の糖質量チェックをお勧めします。もしも摂取が過剰であれば、糖質を適量にするだけで不定愁訴が消失したり、活力が漲ってきたりと嬉しい効果を実感するはずです。とはいえ、余ってしまうと害になりますが、もしも必要量が口から入ってこなくなると今度は別の問題が起こります。糖質はエネルギーになったり生体分子の材料になったりと重要な役目も担っていますので、もし足りなくなると糖新生といってタンパク質や脂質を分解して体内で自らブドウ糖をつくり出す経路が動き出します。いらない脂肪から優先的に分解されるのであれば好都合なのですが、必要な筋肉などもその対象になってしまうので、糖質制限もほどほどが肝要です。


おわりに

以上が栄養が足りているかどうかを自分でチェックするための基本のやり方です。もし質問や相談がありましたら、noteのメンバーシップをご活用ください。有料になりますが、個別に掲示板もしくはslackでの対応が可能です。また、これを機に栄養のことをもっと詳しく知りたいという方には、分子栄養学の祖である三石巌氏の諸著作が入門編としてオススメです。二十年程前に初めて氏の本を読んだときには目から鱗が何枚も落ちました。もう亡くなられてずいぶん経ちますが、本屋の棚には今も氏の著作が並んでいます。ぜひご一読ください。


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