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リミナル

物語の結末にセンチな喪失を付随させるか、盲目的な絶頂を付随させるか、思想の違いなんてそういう麓の話の筈なのに、いつからか断絶をもってでしか思想を保つことが出来なくなる。潜る程に浅くなる夜の幻に、名前をつけても安心材料にはならないのに。几帳面な正義では何も生まれず、きみがきたないと感じた濁りの全てが生命を堪え流れているのよ。

僕の本懐を捨ててきた街、必ず風化して必ず淘汰されるからエモくてノスタルジーで綺麗な思い出、フィルターの外れた生きた証の構築ども、使い古したヒットチャートで興を廻る、救ってくれた言葉の矛先はいづれ転変する、嵐が来る前に壊した風来で、君は、きっと、誰にも夢中にはなれないね。ヘイトは死骸に込めて砂浜に埋める、因数分解は禁忌だから埋め合わせはとびきりのエピソードトークで、結末が見えるなんて端くれの愛では尊ぶことが出来ず、草臥れた夏を終わらせて、肉を炙って地に晒す。君は不幸な私が好きだっただけだよ。
 ねえ特別だけを貯えて誰にも共有できなかったね、ねえ破壊願望だけが電波を彷徨って何処にも届かなかったね、本当の無謬を極めてしまったら、露出すら出来なくなってしまうの。

命日をこするために人生があって、せっかちで余韻すら味わえないから踏襲もできないんだよ、人様の記念日を呪いたくないからと溜め込んだ後書きたちが冷蔵庫の奥で腐っている。数ミリの絶望を気にかけた間に瞬いた命をリムーブでなぞっていく、喉の奥がずっと締まっているのに、頸を差し出して意識を砂糖で飛ばしている。雲の隙間から見えた畑は青いだけではなく、擦り潰した生命の匂いが立ち込めていた。欲張るなりに捨てるなり壊すなりを躊躇わないことが進化で、神様になっていくほどに置き去りになったあいらしい感情を肉体を経験を追想すること、卒業式の次の日の教室のような、清掃前の客室のような、僕抜きで決められた時効のような、それが世界の徳になるならば仕方ないんだけど、とても寂しい。



海が寄せては返す漣は、胎内の音に似ているらしい。君が死んでから何年目の夏、夏の花が好きな人は夏に死ぬなんて言うけれど、そしたら僕はきっと君の季節に死ぬことができないね。あなたが遺せた結晶なんて瞬きのうちに見えなくなるんだから、キスの一つも余らせないで欲しかったな。

ヒール履かなきゃ成り立たない恋なんて辞めちまえよ、浴衣着て泣きじゃくるで今を台無しにするなよ、なんて何度言い聞かせてもやめられなかったが蜜の月だって譫言で食い潰しちゃったんだ。花園は完璧な手入れを施されてこそ美しく花が咲き誇る。死ぬならきっと刃物がいい、傷みすら判らずに死ぬほど甲斐のない死では僕等が生きて傷ついた意味が消失してしまうから。お化粧しないと家から出られなくなるコンプレックス植えつけたの君なのに、メイクの下で腫れる目元には気づいてくれない。

人生を投げ打ってまで手に入れてもらいたいなら、それなりの魅力を身につけなければと、人は心を磨き、知性を宿すんだが、小賢しさで多満を大義に出来てしまった(もしくは思い込んだ)果てでは、死なば諸共なんて無常を振り翳して、いつか独りで死んでゆくのだろうか。
蛇蝎を愛するカルチャーの平和ボケっぷりが抽出されたピントの合っていないネガのような堕落を尻目に、潤いを保ちいのちを貪っているこの甲斐性すらも穢れた垢が蓄積されているかのような錯覚だ。コーラを飲んで喉を燒く、レコードが擦れた雑音が今の私なら、虚しさとは完全形で、空洞は埋めるのではなく調律して初めて意味をなす。


今何してるの?って言えた君がだんだん薄らいでいく、夏がくすぶって湿度がなくなることを、快適というか掴みどころが無いと感じるか、そういう感覚の違いが耐え難い断絶を生み出す、東京メトロの土曜日の夜には香水の匂いが立ち込めている。ひとつひとつの香りに名前があって、そんな単語を通過した嗅覚が気持ちいいを啓蒙するんだから、ふやけた膠のままで触れていてね。




2023.10.05 しおゆす生誕祭
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