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Aの告白-2

その後両親の留守を見計らって、私たちは交わった。兄が言っていたように行為のたびに感度は増していった。一卵性双生児のように相手のしてほしいことが言葉を介さずに伝わって、互いの接合部はしっくりと合った。どうしたら一番気持ちのいい状態で終われるか、開発していくのは楽しい作業だった。

だがその幸福な時間も長くは続かなかった。圭一は大学の医学部に入学するとコンパで知り合った他大学の女子大生と付き合うようになり家に帰らなくなってしまった。一度だけ家の玄関で兄と一緒にいるところに出くわしたことがある。化粧の濃い、髪の長い女だった。

「妹さん?圭一に似てきれいな子ね」

片方だけ眉を吊り上げて私に向かって言った。嫌な女。私は無視して自分の部屋に駆け上がった。

ある日たまたま家の自室にいた圭一を見つけて詰問した。

「お兄ちゃん。あずさのこと嫌いになったの?」

「あずさのことは好きだよ。妹として」私は兄に抱きついた。

「あずさ。僕たちは兄妹なんだ。こんなことはもうやめよう」

「あの女のせいね」私は怒りに震えながら言った。

「違うんだあずさ。聞いてくれ。」

「もういい」私はそう言って部屋を出た。

その後圭一は女子大生と同棲し学業はおろそかになった。留年を繰り返し放校となったが、彼女の父親の会社に就職するらしいと人づてに聞いた。私は医大に入ってから何人かの同級生や先輩と付き合ったが、誰とも長続きしなかった。兄以外の男性は考えられなかった。兄を自分のものにしたい。それも永遠に。そこで相談があると言って圭一を呼び出したのだった。父親に買ってもらったクーペを運転して彼女と同棲しているマンションまで迎えに行き兄を車に乗せた。

しばらく見ないうちに圭一の風貌は変わっていた。長髪が不潔っぽくなったしなんだかヤニ臭い。以前はタバコなど吸わなかったのに。私の知っている兄ではなくなってしまったことに落胆した。

「話ってなに」

「実は彼ができたの。お兄ちゃんに紹介したくて」

「それはよかった。あずさのことはずっと心配してたんだ」

圭一は大袈裟に驚いてみせた。嘘つけ、と私は小さく呟きながら車を発進させた。彼と待ち合わせたからと言って、郊外の人気のない墓地で圭一を車から降ろした。周囲を訝っている隙にひそかに用意したガソリンを兄の背後から浴びせた。すかさず火のついたマッチを放って急いで車に戻るとエンジンキーを回してアクセルを踏んだ。バックミラーに赤い炎と黒煙が映り、叫び声が聞こえた。

「さよなら、お兄ちゃん」

悲しいというよりも兄への思いが私の中で完結したという安堵の方が大きかった。この先兄とあの女が一緒にいるところ、あの女との子供を見なくて済む。自分のやったことは正しかったのだと言い聞かせた。

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