見出し画像

「二人きりの夜には」で始まり、「きっとそれは恋」で終わる物語

二人きりの夜には、サブスクで何となく目に付いた映画を見る。帰り道にコンビニで買ってきた発泡酒やらおつまみやらが、テレビ前のローテーブルに無造作に並べてある。部屋を暗くして見るのは洋画のラブロマンス。ある女と男が出会い、次第に引かれ合い、恋に落ちる。そんな定番なストーリーであることが分かるタイトルに向けて、いつもと同じ動作で再生ボタンを押す。
ソファで寛ぎながら、感想を言い合いつつ酒とつまみを申し訳程度に口に運ぶ。話が進むに連れお互い口数が減っていく。話が終盤に差し掛かる頃に、さり気なく肩に手を回す。拒まれることはない。顔を近付けると「…映画、まだ途中だよ」と照れた反応を見せるが、これは本心ではない。それを示すように、強引に口を奪っても、抵抗することなく身体を委ねてくる。次に周りに意識を向ける頃には、映画はとうの昔に終わっており、タイトル画面に戻っている。これもまた、いつも通り。
「また結末見逃したじゃん」「あーあ、お酒もぬるくなっちゃった」彼女はお決まりの文句を言いながら、飲みかけの発泡酒の缶を冷蔵庫に仕舞う。続きを飲むことなんてないが、これもまたいつも通り。そんな彼女に後ろから腕を回すと、「ごめん、ちょっとお手伝い」とするりと抜けて廊下に向かった。
今夜はこのままゆったり寝落ちて、明日の朝にシャワーを浴びるだろう。それから眩しい外に出て近所のカフェで遅めの朝食を摂る。ちょっと散歩でもした後に各々の家に帰る。いつもの週末。いつものデート。
嗚呼、なんて恋人なんだ。
彼女が控えめに咳き込む声が聞こえる。
嗚呼、なんて恋人なんだ。
彼女が何かを吐いている音が聞こえる。
嗚呼、なんて恋人なんだ。
彼女が吐いているのはーーいや、聞こえない。そんなものは聞こえない。聞こえない。聞こえない。
私たちは完璧な恋人だ。
これ以上なく恋人らしい恋人だ。
私が抱いているこの感情は、絶対に、紛うことなき恋だ。
そうだ、そうでなければ困る。
そうでなければ、これ以上、これ以上どうすれば恋人になれるんだ。
どうすれば恋人になれるんだ。
どうすればこの感情は恋だと証明されるんだ。
どうすれば。
……彼女は。
どうすれば、彼女は花を吐かなくなるんだ。
テレビの青白い光だけが照らす部屋で立ち尽くす。
彼女が嘔吐く音だけが聞こえる、静かな夜。
彼女は今夜、どんな花を吐いたんだろう。
そんなことをぼんやりと思った。
楽にしてあげたいのに、彼女のことを本当に大切に思っているのに。自分にそれができないのは、果たして何の罰なのか。いや、そう思うことすらきっと自意識過剰だろう。単純に自分は生物的に欠陥品というだけで、そこに理由なんて大それたものは無い。
同じ行為をいつも通り同じように繰り返しても、自分だけがどうしても抱けないそれ。
彼女が抱けているそれ。
自分がどんなに欲しても決して手に入れられないそれ。
きっとそれは恋。

しおりさんには「二人きりの夜には」で始まり、「きっとそれは恋」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以内でお願いします。

#書き出しと終わり #shindanmaker

https://twitter.com/siori__reality/status/1674834145997094912?s=46&t=mTwfI7IIRXqkFF9Wxc85hg

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?