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都会に隠棲する賢者の物語。〜映画「パーフェクト・デイズ」

 本年初の劇場鑑賞は平日夜の回のシネコン。客席には自分一人しかいなかった。おかげで上映中誰にも遠慮せずにスマホのライトつけておおっぴらにメモをとれましたw

 役所広司演じる公衆トイレ清掃員。初老で東京下町のアパートに独り暮らし。さぞわびしい暮らしかと思ったら、動作のひとつひとつがきびきびとしてて朝から仕事に燃えてる感いっぱい。

 なにげない日常をたんたんと描く系の作品と聞いていたので、退屈なやつかなーと懸念しながら観始めたけど、編集もテンポよくスピーディーで飽きさせない。

 いやー、それにしても都内にはいろんな公衆トイレがあるもんだ。

 主人公の洗練されたムダのない仕事ぶりはプロそのもの。長い修練、豊富な経験でとぎすまされている。横顔は矜持に満ち、ときに柔和な笑みもよぎるがその眼光は鋭さも秘めている、

 トイレ清掃は基本ひとりでの作業。柄本時生とのエピソードをのぞき、映画には職場の人間関係はほとんど出てこない。

 こういう仕事は人と接するわずらわしさがない反面、誰の助けも借りられず責任はすべて自分にかかってくる。それも主人公の真摯な職務ぶりの理由かもしれない。

 「仕事は楽しそうにやってると本当に楽しくなるんだ」みたいな言葉を聞いたことがある。たしかにダラダラやってるとよけいしんどくなるのかも。

 ま、映画の裏テーマが渋谷の公衆トイレPRなので、きちんとした働きぶりを見せるのは当然かも。どんな職場でも現実に取材でカメラが入るとなれば、いつもよりマジメにやりますよねw

 ひとつ気になったのは主人公の所作があまりにも凛としすぎていて若干違和感があったこと。部屋にひとりでいるときなどはもう少し力が抜けてるものだと思うけど。きっとこれは意図的な演技プランだろう。

 余計な口は一切きかない主人公の寡黙さは、ネット上に空しい言葉があふれる現代への批判にも思えるり

 何気ない日の光や影、物言わぬ植物の息づかいに喜びを見出し、文学や音楽、写真を楽しむ、自分なりの満たされたライフスタイルがうらやましい。半世紀近く前のラジカセでカセットを聞いたり町の写真屋さんに現像を頼んだりは現実にはむずかしいだろうけど。

 淡々と日々の日課をこなし、ささやかなことを幸福とする姿勢は村上春樹作品の登場人物を連想する。都会に隠棲する賢者の物語。

 東京のなにげない風景も魅力的に撮られている。早朝の場面が多く通行人も車も少なめ、すがすがしい空気感がスクリーンに満ちている。

 ほかに誰もいない劇場でたっぷりと作品に向かい合え、新年早々幸福な映画体験だった。

 本年初の書き込みです。今年はもうちょいがんばって投稿するつもりなので、どうかよろしくお願いいたします。

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