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41鍼灸小説「道案内のシンシン」:初恋の②

十時半になり、いよいよ峰鷹さんの発表の時間となった。

60人は入れる会場は8割がた埋まっている。

壇上には峰鷹さんがビシッとスーツ姿で立っていた。

以前と変わらず綺麗で、それでいて昔より聡明な感じが僕を一層ときめかせた。

久しぶりに見る峰鷹さんにウットリしていたら

チーン!

残り一分を知らせる鐘が鳴った。

「それでは、これにて発表を終わります。ありがとうございました!」

深々とお辞儀をする峰鷹さんに僕はいの一番で拍手をした。

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それに続くように会場は拍手に包まれた。

拍手が止むと同時に会場にいた人たちが一斉に出口に向かって歩き始めた。

皆お目当ては隣の大ホールで行われる藤首先生の発表だ。

空っぽになった会場に野坂が大量の資料を小脇に抱えて入って来た。

(なんて不憫な…しかたない聞いていってやるか)

僕は藤首先生の発表を諦め壇上近くの席に移動した。

野坂は資料をホワイトボードに貼り付け黙々と発表の準備に取り掛かっていた。

「陶山君?」

突然声をかけられビックリして振り向くと、そこには峰鷹さんが立っていた。

「え、あ、は、はひ!陶山でふ!」

僕は突然の峰鷹さんの登場に驚き慌てて返事をした。

「久しぶり!野坂君の発表を見に来たの?」

「えぇまぁそんな感じです…」

「私もここ座っていいかな?」

「え、あ、はい。どどど、どうぞ!」

しどろもどろな僕を気にも留めず

爽やかな笑顔とともに峰鷹さんが僕の隣の席に座った。

「それでは鍼灸大学、野坂先生による発表を始めます」

壇上で野坂が深々とお辞儀をして発表を始めたが

僕は峰鷹さんが隣にいるせいか心臓がドキドキしてしまい野坂の発表が全く頭に入らなかった。

チーン!

残り1分を知らせる鐘が鳴った。

幸せな時間は一瞬に感じるというが…まさに、その通りだった。

壇上の野坂を見ると、まだ資料の半分しか終わっていなかった。

チーン!

発表時間終わりの鐘が鳴ったが野坂は凄い早口で資料の後半部分を読み始めた。

チーン!チーン!

終わりを急かせる鐘が鳴る。

それでも野坂は必死に資料を読み上げていた。

もはや早口すぎて怪しい呪文を唱えているようだった。

チーン!チーン!チーン!チーン!

早く終われと言わんばかりに連続して鐘が鳴った。

野坂は何とか資料を読み終えパパッとお辞儀をし資料を回収して壇上を降りていった。

「見てるこっちがハラハラするね」

峰鷹さんが僕に話しかけてくれた。

「本当ですね。野坂は昔っから夢中になると時間のこと忘れちゃうんですよー」

「そうなんだ。私なんか逆に時間のことばっかり気にしすぎて、発表が二の次みたいな感じになっちゃって失敗したってさっき反省してたよ」

「そんなことないですよ!峰鷹さんの発表は素晴らしかったです!拍手も凄かったですし!」

「本当!嬉しい!ありがとう」

峰鷹さんはパァーっと表情を明るくさせた。

(それに素敵でした…)

僕は心の中で呟いた。

「あ!次の会場に移動しなきゃ!またね陶山君!」

そう言うと峰鷹さんは慌てて会場を後にした。

「陶山〜」

野坂が不安そうな顔をしながら駆け寄ってきた。

「お疲れ野坂!」

「陶山〜俺の発表どうだった?大丈夫だったかな?」

「えーっと凄かったよ(早口が)、それに(呪文みたいで)衝撃的だった。」

「本当!準備した甲斐があったよ。なんか発表終わったらお腹空いてきたな。一緒にランチ行こうぜ!」

「お!いいね!」

つづく






シンシン 「サポートが加われば鬼に金棒 拙者に丸ごとバナナでござるよ!」 比呂  (そこは愛刀とうがらしじゃないんだ…)