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鍼灸小説「道案内のシンシン」~その42:カリスマ

お昼ご飯を食べ終わった僕と野坂は

午後のメインイベント

北龍会創始者『本藤風蓮先生』の発表を見るため大ホールに向かった。

開始30分前だというのに既に会場は9割方座席が埋まっていた。

僕らは何とか後ろの端の方の席を確保した。

5分前になると立ち見がでるほど会場に人が溢れた。

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本藤先生は数百年続く鍼灸院の生まれで、鍼灸師になる事を子供のころから義務付けられたエリート中のエリートだ。

そんな本藤先生が異彩を放つのは

数多の執筆と講演、そして後進の育成に力を注いでいるところである。

実は鍼灸師は結構根暗で、内向的な人が多い。

ヒソヒソと腕を磨き、書庫に籠もっては古い文献で学ぶ。自分の身体で実験を重ね、患者さんに試しては小さな効果効能に幸せを感じる。

そんなオタク気質な人が多い鍼灸業界を

「暗い!」と一刀両断したのが本藤先生なのだ。

「もっと業界を明るくしないとダメだ!」

と言っては精力的に動く、そんな今までにいなかったタイプの鍼灸師なのだ。

加えて治療の腕も超一流で一回の治療費が数万円と高額にも関わらず全国から多くの患者さんが押し寄せている。

講演の途中で

「海外から参加させている方もいると思います。どなたか治療を受けたい方はいますか?」

と即興でデモンストレーションを買って出た。

すると1人の外国人が足を引きずりながら舞台に上がった。

本藤先生はその人をベッドに寝かせ脈を診た後、脚の動きを確認した。

そして鍼をお腹に一本打つと再度脚の動きを確認した。

「これで良し」

と自信満々で治療を終えた本藤先生に会場全体がキョトンとした。

会場のリアクションの薄さに本藤先生は少しイラッとした様子で「今の動作確認で患者の変化に気づけないようでは望診力が無い証拠だ!」と会場に向かって声を張り上げた。

望診(ぼうしん)とは目で見て患者さんの状態を判断する技術のことである。

僕と野坂も必死で目を凝らして見ていたが患者さんの脚は少しだけ動き易くなったように見えた程度だった。

舞台に上がった外国の方も不思議そうな顔をして「サンキュー」とだけ言って座席に戻っていった。

講演が終わり皆、狐に摘まれたような顔をして拍手を送った。

終わると同時に僕は急いで会場の外に出て、デモンストレーションを受けた外国人を探した。

本当に鍼が効いたのか真相を知りたくなったのだ。

人混みの中キョロキョロと探していると階段を降りて行く姿を見つけ後を追った。

「エクスキューズミー!ハウドゥユフィール?ユアフット?」

とカタカナ英語で尋ねてみた。

すると

「foot??oh!My leg?」

「イエスイエス!ユアレッグ!」

「that’s good.my leg hurt for 2weeks.so painful 😣but Mr Motofuji treated me and my leg was recovered. that’s amazing! 」

「ワオ!ザッツグッド👍」

何とかカタカナ英語で意思疎通が図れた。

どうやら2週間くらい凄く痛かった脚が、先ほどの本藤先生の鍼で治ってしまったそうだ。

(あの一瞬で本当に効果があったんだ…恐るべし平成のカリスマ!

僕は驚きを隠せなかった。

つづく

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シンシン 「サポートが加われば鬼に金棒 拙者に丸ごとバナナでござるよ!」 比呂  (そこは愛刀とうがらしじゃないんだ…)