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深海探査艇まとめ

 とあるToggetterまとめで日本\(^o^)/オワタみたいなの見て、何だこれと思ったので書く。導入とか、ない。元JTC僻地工場の設計技術者として俺は怒ってる。いや、怒っていた。

 この記事は怒りをぶちまけるために書いたこの記事のために準備した資料とまとめだが、もう日本尾張守とかくたばっちまえって思ってて、どうでもいいからもうこの記事の内容もどうでもよくなった。だから無料で後悔しようと思う。


僕が読み取ったもの

深海探査艇ってなに?

深海探査艇ってどういうもの?

 深海を調査するための船。深海というのは大体200mより深い海のことをいうらしい。 (深海 - Wikipedia)
 海は地球の表面積の2/3くらいを占めているが、深海の探査自体が難易度が高いのでよくわからないことが多いらしい。地上は空から写真撮れば行けるけど、海上はそうはいかない。海に船浮かべて音でも出せば何かがスキャンできるかもしれないが、人工衛星や飛行機に比べて船はゆっくり走るので、それもなかなか難しい。
 その中で深海探査は超深い水の中の海底の様子を調べるのがそのミッションになる。深海の特徴は上に引用したWikipediaにある通りで、下記のような特徴がある。

  • そもそも水圧が高い。

  • 光が届かない。光源をもっていかないと先が見えない。

  • 酸素が減るので生き物の生存に適さない。それでも生き物はいる。生き物凄い。

  • 海を深く潜っていくとあるところで水が交じり合わない所が出てくる。深層水という。

  • こういう難しさがありながら、メタンハイドレートとか、その他これまで地上で見つかってない資源が眠ってるかもしれない期待感がある。

  • 深海の生物も多分そんなよくわかってない。

こういう夢溢れるけど困難な環境を探査する船である。因みに船には戦艦、巡洋艦、駆逐艦というような「艦」を使う船と、掃海艇、巡視艇、深海探査艇とかの「艇」を使う船と、一般商船とか漁船で使う「船」があるが、「艦」と「艇」は官庁が使う船で、そのうち、「艦」はデカくて戦闘能力がある船で、「艇」は小型の戦闘能力のない船のことをいうらしい。僻地工場の先輩が教えてくれた。

深海探査艇の特徴ってなに?

 深海を潜るので耐圧条件が厳しい。
 水は空気の1000倍重く、10mの水深で大体1気圧の圧力がかかるので、例えば6000mまで潜ろうとすると大体600気圧の圧力がかかる。因みに1気圧は台風のニュースでよく聞く1000hPa。
 その辺走ってる自動車のエンジンの中は燃焼するときにはシリンダの中の圧力が100barとかになってると思うので、エンジンの中の圧力より高い。従って、有人の深海探査艇は特に設計条件が厳しい。

 その次に、海に長時間潜るので、潜ってる間は内燃機関を使った動力、電力供給ができない。原子力を使えばいいじゃんって、そんなデカい深海探査艇作る気かいっ!!て話になり、現実的じゃない。
 なお潜ってないときは内燃機関で自力走行したり、母艦に運ばれたりするらしい。
 だから電池で動く。稼働時間は電池により支配される。電池が切れるとマジでヤバいので、多分色んな設計が二重化されているはず。

 有人の深海探査艇は、人命を危険にさらさないことが最優先になるので、恐らく安全に配慮した冗長性を持たせる設計が沢山必要になり、製造前の安全についての審査もかなり大変そうだと思う。だから、有人でやらなくていいようなミッションには無人探査機 (ROV) っていうのも使われるらしい。将来的にROVが自動運転して勝手に海底探査とかしてくれたら面白いなって思う。

日本の友人深海探査艇の歴史

 Wikipediaからまとめた。結構大変だった。見る方もテーブルになってないので大変だが、NOTEでテーブルかけるかよくわからないので辞書っぽくした。読むのが大変だが申し訳ない。

以上が日本の有人の深海探査艇の歴史の小まとめだ。特徴をまとめるとこんな感じだと思う。

  • 戦後はずっと10年に一度の建造があった。

  • 三菱神戸が建造回数で言うと最多。川重神戸も頑張ってる。どちらも潜水艦を作れる造船所だ。

  • しんかい6500から耐圧殻の材料が高張力鋼からチタン合金になった。

  • 耐圧条件が厳しいしんかい6500からは耐圧殻の形状が球形になった。

深海探査艇の構造設計の難しさって何?

 僕が想像する深海探査艇の難しさを書いてみる。主に構造部分から考えてみる。何故なら昔圧力容器を設計したこともあるからだっ!!

 しんかい6500レベルになると外圧が約650気圧になる。
 これよりデカいのは、ディーゼルエンジンの燃料噴射圧の約2000気圧であり、これはかなり熱い。激熱である。
 このクラスになると主に問題になるのは加工の難易度である。
 一般的に、円筒状の容器と球状の容器だと、球状の容器の方が力をかけても壊れにくいと思われると思うが、その通りで、円筒状の容器に外圧 p がかかるときの円筒容器にかかる応力 (大体力を力がかかる面積で割ったやつだと思うとよい) は、円筒の半径 r と肉厚 tで

$$
\sigma = \frac{pr}{t}
$$

で書ける (薄肉近似したやつ。こちらを参考 初心者でもわかる材料力学26 薄肉圧力容器の応力(円筒圧力容器、球型圧力容器、圧力容器全般) (kazubara.net))。つまり、 半径がデカくなり、肉厚が薄くなると応力がデカくなり、ブッ壊れやすくなる 。当たり前のことを言ってるようだが、大事なのは、応力は円筒の半径と外からかかる圧力に比例し、肉厚に反比例するってことだ。
 つまり、しんかい2000からしんかい6500にしようとすると、深さが3.25倍になり、かかる圧力も3.25倍になるので、何も考えないでやると次のような対策のうちのどれかが必要になる。

  • 肉厚を3.25倍にする。

  • 強度が3.25倍ある材料にする。

  • 耐圧殻の半径を1/3.25にする。

  • もしくは上記の合わせ技にする。

もう一つのオプションが、形状を変えることで、円筒形を球形にするとなんと応力が半分になる。

$$
\sigma = \frac{pr}{2t}
$$

 この式をどう解釈するかというと、球とか円筒形の形状は、曲がってることで形状を保持しようとするが、円筒は一方向にしか円周で繋がってないけど、円は二方向で円周で繋がってるので、2倍強いくらいに思っておけばよい。
 逆にこの2方向で同じ半径の円周で繋がるという条件がネックになり、 形がちょっと変形したりしてるとそこがウィークポイントになるので、非常に高い加工精度を要求される 。これを達成するために、しんかい6500ではプレスでチタン合金を半球にして、それをレーザー溶接するという贅沢なつくりになっていたらしい。

 そしてチタン合金っていうのは一般的に加工性も溶接性もあまりよくなく、その中でも加工も溶接もしやすいものを選んだらしい。
 なんか色々と自分で考えて書いてたが、 色々とネットを探したらなんとこちらに旧JAMSTECと三菱の中の人が書いてくれた大変ありがたい総論がある ので、詳しいことはそっちで見た方がよい。もとのTogetterのまとめで書いてあるのより専門家が書いたやつなので正確だ。僕が2時間で書くようなNOTEよりはるかに資料的に正確であるし、内容もきちんとしている。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kansaiks/214/0/214_177/_pdf/-char/ja

耐圧殻がブッ壊れるとどうなるか

 こちらに耐圧試験をしたときの写真があった。どうも水深13200mに相当する水圧をかけたらしい。テストをどうやったかわからないが、陸上で水槽の中でやるとなると、この耐圧殻を丸ごと沈めて1320気圧掛けられる圧力容器を作らないといけない訳だが、どうやら本当に1320m分の圧力をかけられる水槽を作って圧壊試験をして、本当にチタンの耐圧殻をブッ壊したらしい。正に国家プロジェクトの威信をかけた試験だと思う。
 破断面をみるとわかるように

 すると、Ti6Al4Vの引っ張り強度は895MPa以上なのだが、僕の適当な手計算では球殻の内側の引っ張り側の応力は442Mpaであった。
 これはどういういみかというと、一般的に部材は引っ張りに弱い。従って、その強さを評価するには、ある材料の棒切れを両側からぐいぐい引っ張ってやって、どのくらいの力でブチ切れるかのテストをする。その結果 Ti6Al4Vは895MPaという応力がかかるとブチ切れる ことがわかった。これは大体1cm2に895kgの錘を載せるのに相当する。
 一方で、 しんかい6500の定格深度で受ける圧力により発生する応力は、耐圧殻の内側でざっくり手計算で442MPa である。
 素人考えでは、ブッ壊れる定格の応力の895MPaより半分くらいの442MPaくらいしかかからないから大丈夫だと思うだろう。しかし、それは疲労も考慮に入れるとそういう考えは脆くも崩れ去る。世間のパイプ材などは安全率は5倍くらいみてるものだ。
 常識的には機械設計では安全率を5倍くらい見ておくものだが、2倍程度しかなく、これは疲労計算的にはちょっと危うい。 JTC僻地工場時代に僕の部下がこういう計算をして出してきたらちょっと色々とヒアリングする と思う。それでも結局大丈夫そうなのだが、疲労がかかるとちょっと不安がないことはない。退役した後には耐圧殻を色んな角度でぶった切って断面の顕微鏡写真を眺めて疲労について研究したら面白そうだ。なかなかこういう極限的な使い方をされてる真円度の高い材料はないと思う。

 更に、この耐圧殻に覗き窓と、人が出入りするための開口部をつけなければならない。これが曲者だ。
 大体ものというのはこういう接点からブッ壊れるのだ。そしてそれぞれの接点について材料選定から形状の設計までかなりの工夫をしている。特に覗き窓が内側にすっぽ抜けたら乗組員の生存はほぼ絶望的である。設計者として自分の設計のまずさで人死にがでるのは何よりも避けたいものであり、これを設計した人は最初の試運転が終わり、暫く就航実績が出るまで心の休まる暇がなかったのじゃないだろうか。少なくとも僕なら3回潜るまでは安心しない。

まとめ

 しんかい6500はすごい。とてつもなく凄い。
 材料をチタン合金にする胆力、設計、製造検討、製造、試験すべてが凄いものだった。唯一の救いは、外圧場というのは、球形にしておくと割と強度を保ちやすいことだ。一番いい例えが、鳥類とか爬虫類とかの卵で生まれる生き物の卵が割れるときだ。
  ひよこは小さくて力が弱いのに、卵の殻を割って出てくる。しかし一方で、人間が卵の殻を割って中身をフライパンで目玉焼きにしたり、卵かけごはんにしようとすると、角にそこそこの力でぶつけないと割れない。 これは材料力学的に根拠があるものである。そういった利点があるので、個人的には内圧場よりはやりやすいと思っている。
 といったところで、こんなものは材料調達の時点で1年待ち、球形の成形も工作機械から作るような代物であり、正に国家プロジェクトと呼ぶにふさわしいものだったと思う。

 国家プロジェクトとはどういうものか?
 それはある意味で再現性のないものだ。
 例えば今東京タワーを建てられるだろうか?
 似たようなものはたてたれるが、色々な事情で当時の工法でやるのはかなり難しいだろう。金がかかりすぎる。
 しかし、 東京タワーはもう技術的には建造はかなり難しいですと聞いて、日本は後進国になったと思うだろうか?そう思うのはただのナイーブな感性の持ち主であって、その言説に耳を傾ける価値は一銭たりともない。ひたすらにバカにするのみだ。
 こんかいのしんかい6500もそういったものだと認識してもらえれば幸いだ。

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