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新人プロデューサーから見た『七草にちか』というアイドルの話

「努力し続けることが出来る凡人」

それが『七草にちか』という少女に出会い、初めて抱いた印象だった。

本稿にはSHHis関連コミュについてのネタバレが含まれております。
閲覧の際はご注意ください。

こんにちは、SINSIです。
このたびはアイドルマスターシャイニーカラーズ6周年おめでとうございます!!

6周年記念ということで現在は様々な企画が開催されており、今回はその一つである「シャニマス感想コンテスト」に参加をするべく、筆を執らせていただいております。

そして本稿のタイトルにもあるとおり、筆者はシャニソンのリリースをきっかけにシャニマスという作品に触れ始めた新人プロデューサーです。
なので本稿をお読みいただくにあたって、基本的には″追えていないコミュが多数存在している″ということだけはあらかじめお見知りおきください。

(※本家のシーズ関連は、にちかW.I.N.G.とイベントコミュのみ読了)

本稿では主に、筆者が「七草にちか」というアイドルに出会ってから、約半年ほどの間に感じたことを中心にお話させていただきます。

それでは、最後まで楽しんでいただければ幸いです。



■平凡な少女をプロデュースしようと思った理由


彼女との出会いは『アイドルマスター シャイニーカラーズ Song for Prism』(以下、シャニソン)を始めようとした際、「とりあえず推しキャラを一人決めてみよう!」と思い立ち、公式サイトなどを見て回った結果たどり着いた「サクッ!と知れるシャニマスアイドル」を見たことがきっかけでした。

こちらの「サクッ!と知れるシャニマスアイドル」シリーズでは、初期ユニットであるイルミネーションスターズに始まり、追加ユニットであるシーズに至るまでが投稿【※】されています。そして、ショート形式の動画ということもあり、タイトル通りどのようなアイドルが所属しているユニットなのかを短時間でサクッ!と知ることができます。

(※こちらの動画はコメティック実装以前のものなっているので、コメティックの紹介動画は執筆時点では未投稿となっています)

そして、投稿されている動画の中でもひときわ異彩を放っていると筆者が感じたのが、「七草にちか」と「緋田美琴」の二人が所属しているアイドルユニット「SHHis」(以下、シーズ)です。

紹介動画の中では、他のユニットたちが和気あいあいとした雰囲気を醸し出しているのとは正反対に、物語の重さや、アイドルたちのストイックさを前面に強く押し出したその姿に一目で心を奪われてしまいました。

冒頭でも述べましたが、にちかを「努力し続けることが出来る″凡人″」と称するのならば、反対に美琴からは「努力し続けることが出来る″天才″」といった雰囲気を、紹介動画からは感じ取ることができます。

現状ではどう見ても交わっていなければ、互いに走り続けること(努力)を止めないことで、永遠に縮まることのなさそうな二人の心や、アイドルとしての距離感(実力面)が、この先どのようにして縮まっていくのかにとても興味が湧きました。

ここで少しだけ筆者個人の好みの話をさせていただくと、筆者は基本的には作中において強い立ち位置に居るキャラクター(いわゆる強キャラ)や、クールな性格をしているキャラクターを非常に好む傾向があります。
なので本来の好みに則るのであれば、筆者の好みに一番合致していそうなキャラクターは「緋田美琴」ほぼ一択といっても過言ではないと、公式サイトを見ている段階では考えていました。

実際のところ、本家シャニマスをサービス開始日から遊び続けている友人たちや、本作のことを知らない友人らに対して本作の公式サイトを見せ、「(筆者の)好きなキャラってこの中のどれだと思う?」という質問を複数人に対して尋ねてみたところ、驚くことにその全員がもれなく「緋田美琴」を指差したというエピソードがあります。
いや隣の子だよ!!なんで全員惜しいんだよ!!

ではなぜ、筆者の好みとはまるっきり正反対の方向を向いているであろう「七草にちか」の方に興味を引かれてしまったのか?
それは動画内に含まれていた、一つの台詞がきっかけでした。

誰が見てくれるんですか、私のことなんか…………
道で立ってるだけじゃ、ただの人ごみなんですよ私……!

七草にちか W.I.N.G.より

…………えっ。

だって動画の冒頭では「七草にちか、ごーうーかーくーーー…………!」とかめちゃくちゃ明るい声で言ってるんですよ彼女。
こんなの興味を持つなって方が無理じゃないですか?283プロに合格したあと一体なにが起こったんだ。

しかも、先述した紹介動画ではにちかは美琴について言及をしているのに対し、美琴からはにちかついての言及が″一切ない″んですよね。【※】
こんなの絶対に″よくあるアイドルの物語″にはならないじゃないですか。

″普通の女の子″の物語のはずなのに、皮肉なものですよね。

(※厳密には美琴からにちかに対しても触れてはいるのですが、「今は高校生」といったことや「一緒にユニットを組んでいる相手」といった、表面的な部分への言及となっています)

明らかにこれから苦難の道を歩むことになるのだろう、ということが見て取れる演出を目の当たりにしたことで、筆者はより一層とその先に待ちうけているものを彼女と共に見てみたいという気持ちになりました。

七草にちかのアイドルとしての輝きではなく。
七草にちかが困難を乗り越えるその時に放つであろう、人間としての輝きが見たい。

その一心から、彼女をプロデュースする日々が幕を開けるのでした。


■その言葉が自分を傷付けているって知っていたから


ここからは「何故、彼女を好きになったのか?」という部分に焦点を当て、お話をさせていただきます。

本稿を読んでくださっている読者の方は、恐らくではありますが「七草にちか」というアイドルのことをお好きな方が多いのではないでしょうか?

では、皆様が七草にちかという一人の少女を好きになった理由は一体どのようなものだったのでしょうか?心の中だけで構いませんので、よろしければ思い返しながら読み進めていただければ幸いです。

見た目が好き。
声が好き。
性格が好き。
何となく好き。

「好き」という言葉を一つとっても、抱えている理由や思いのたけは人それぞれになることでしょう。

ちなみに筆者が七草にちかに対して明確に好意を持ったのは、シーズ初めてのイベントシナリオ「oo-ct. ──ノー カラット」(以下、ノーカラット)のワンシーンでした。
(※筆者はシャニソンの方を先に触れたため、厳密にいえばノーカラットではなくalone+aloneの方なのですが、そちらの読了後にすぐに原点である当シナリオに触れたので、今回は本家の方で表記させていただきます)

たびたび登場する、賛否が分かれていそうなにちかが毒を吐くシーン。

すみません!!このシーンで彼女のことを好きになりました!!!

正直なところ、人によっては不快感を覚えるだろうなぁ……と思うくらい、七草にちかという少女はあらゆるものに対して毒づきます。
筆者もノーカラット冒頭の漫才コンビに対して毒を吐くシーンでは、心がすさんでいる子だな……といった印象を受けはしました。しかし、シーズの物語自体が明るいものではなさそうなことが事前に分かっていたので、まあこんなものだろうとその時は読み流してしまいました。

その後も二人の物語は展開していきます。相方である美琴が自らの思い描くステージに向かって、恐ろしいほどに真っ直ぐと向き合い続けているのとは対象的に、にちかはそんな美琴に追い付くことができていない自分に対して苛立ちを感じていました。

そんな中に訪れるのが、テレビに登場している他のアイドルユニット(モブ)に対して毒づく場面です。

……うわー、やっばー!
こんなんでテレビ出ちゃうとかほんと終わってるよねー!

七草にちか oo-ct. ──ノー カラットより

………あぁ。
この子が今まで吐き出していたのは、全て自分に対しての言葉だったんだ。

そのことに気が付いた瞬間、一気に心の距離が近づいたのを感じました。
そして同時に、自分は惹かれるべくして七草にちかという一人の少女に惹かれたのだろうと確信しました。

あらかじめ述べさせていただくと、彼女の行為はお世辞にも褒められた行為だとは思っていません。
しかし、彼女の真面目さや実直さから生まれてしまったであろう悪感情を否定することは、筆者にはできませんでした。

にちかの中に生まれてしまった悪感情って、何かに対して本気で打ち込んだ経験をお持ちの方なら共感できる部分も大いにあるのではないでしょうか?

自分は苦しんでいるのに、あいつは楽しそうにしている。
自分は上手くいかないのに、あいつは上手くいっている。
自分は評価されないのに、あいつは評価されている。

言葉にしてしまえばたったの二文字。
しかし、その裏には底が見えないほどの″奈落″が広がっている。

「嫉妬」

16歳の少女が一人で抱えるにはあまりにも大きすぎるほどの感情を、七草にちかという少女はその身に内包していました。【※】

これ、本当に痛いほどに共感することができるんですよね……。
今となってはお恥ずかしい話ながら、筆者も彼女と同じくらいの時分に似たような経験をしたことがあります。彼女の痛々しいまでものひたむきさに対し、いつしか自らを重ねて見るようになっていました。

(※彼女の実姉である「七草はづき」は、妹がアイドルになることに対してあまり肯定的ではないことも、彼女にとって大きな負担になってしまっているのだと思います)

そして先ほど、筆者から皆様に以下のような質問を投げかけましたね。

では、皆様が七草にちかという一人の少女を好きになった理由は一体どのようなものだったのでしょうか?

この質問に筆者自身が答えるとするならば、筆者が七草にちかに対して好意を抱くようになった理由は彼女への「共感」です。

繰り返しになってしまいますが、彼女の悪癖とも呼べる毒舌は憧れである「八雲なみ」を始めとした、自らの思い描く理想のアイドル像への実直さから来ているものです。

そして何よりも、七草にちかという少女はただ夢想するだけではなく、自らの足で夢に向かって歩き続けることができるだけの人物ということは、彼女のW.I.N.G.編にて証明されています。

たとえそれが″借り物の靴″で、自らの足が傷付くことになろうとも。
不格好なほどに真っ直ぐに。

故に、ノーカラットを読み終える頃には、筆者はすっかり彼女のことを好きになっていました。


■月が照らすは実在性の偶像


七草にちかというアイドルのことを語るとなれば、やはり外せないのが彼女の声優を担当されている『紫月杏朱彩』氏(以下、紫月氏)についてでしょう。

筆者が本作に触れ始めてからほどなくして、『THE IDOLM@STER SHINY COLORS 5thLIVE If I_wings.』(以下、5thLIVE)のBlu-ray発売日がやってきました。
既にシーズはもちろんこと、他のユニットの楽曲もヘビロテするくらいにどっぷりと本作にハマっていた筆者は迷わずBlu-rayを予約し、購入しました。

ちなみに5thLIVEの″テーマ″がどういったものだったのか、なぜ賛否両論となる意見が散見されていたのかは、この時点で筆者も耳にしていました。

念のために、5thLIVEをご存知ではない読者の方に向けて簡単にご説明させていただくと、本公演を一言で説明するならばまさに「挑戦的」ともいえるライブでした。

5thLIVEは二日間にわたって開催された公演でしたが、DAY1およびDAY2においてのテーマがガラッと異なっており、相反するテーマを掲げたものとなっています。

DAY1では「アイドルとしての最後のライブ」を、
DAY2では「これからもアイドルとして歩み続ける」未来を描くといったものでした。

このテーマが何を意味しているのかというと、彼女たちがアイドルとして存在していることは当たり前ではなく他にも選択することができる数多の未来が存在しているという事実の提示をしたのが本公演のDAY1です。

しかし、DAY2ではそんな数多に存在している可能性の全てを投げ捨て、アイドルであることを選び続けてくれたということが描かれました。

シャニマスがテーマとして掲げている「実在性」という要素を、5thLIVEというあまりにも巨大な舞台装置を利用し、見事なまでに描ききっていますので、本公演が未視聴な方は両日とも視聴することを強くオススメいたします!

さて、少々熱が入り話題が横道にそれてしまいました。

まさか初めて視聴することになったライブがシーズのラストライブ(設定上)になろうとは思ってもいなかったわけなのですが、そんなことを忘れてしまうくらいに本公演は素晴らシーズなライブでした。

もうね、現実に居るんですよ!!にちかと美琴さんがそこに!!!!

緋田美琴の声優を担当されている『山根綺』氏(以下、山根氏)は、もう本当にイメージ通りと言いますか、内なる浅倉透が「居るじゃん美琴さん、そこに」と、思わず表に出てきて筆者の気持ちを勝手に代弁し始める程度には、とてつもない破壊力をお持ちでした。

そしてにちか担当である筆者の大本命となる紫月氏は、七草にちかでした。

厳密にいえば、「紫月杏朱彩氏の中にアイドルとして大成した七草にちかの姿を見た」といえば、読者の方にお伝えすることができるでしょうか?

七草にちかという少女は作中にて、自身のパフォーマンスに対して自信を持つことができないという描写が頻繁に登場します。
しかしライブで見る彼女は、憧れの存在でもある美琴のパートナーとして見事なまでにその隣に並んでいたのです。

こんなのさ、一曲目から泣いちゃうじゃん。

そして筆者が感極まっている間にもライブは進行していき、バックダンサーの方を交えた「Fashionable」や、お馴染みの楽曲である「Fly and Fly」などが披露されていきます。
ちなみにここだけの話なのですが、「Fashionable」でシーズのお二人がダンサーさんの肩に肘を置くところ、めっちゃ羨ましくないですか???
シーズの肘置きになれるコミュの実装、待ってます。

そして遂に、シーズがライブで披露する最後の楽曲にして、シーズ最初の楽曲でもある「OH MY GOD」の順番がやってきました。
いうなれば、リアルシーズのお二方のパフォーマンスが本家本元ではあるのですが、シャニソンから本作に触れ始めた筆者にとっては、ゲーム内のシーズのパフォーマンス(MV)がオリジナルでした。

ゲームを遊び始めてから何度も見ている映像でしたので、実際のところ現実のパフォーマンスではどこまで再現されているのだろう?といった気持ちになり、見ているだけなのに非常にドキドキしたことを鮮明に覚えています。

「OH MY GOD」のイントロと共に会場は緑と赤のサイリウムで埋め尽くされ、舞台上に再び現れたシーズの二人がパフォーマンスを開始します。

お馴染みとも言える「Let's go!」の掛け声と共に、にちかと美琴の手のひらが重なり、会場と筆者のボルテージは早くも最高潮に達しました。
興奮のあまり、そこから先は記憶がありません。

「OH MY GOD」のハイタッチする演出が好きすぎる……。

ただ一つ言えることは、そこに本物の七草にちかと緋田美琴の姿を見たということです。

5thLIVEを通じて、シャニマスにおける″実在性″の一端を垣間見た。
本公演はそんな気持ちにさせてくれる素晴らしいライブでした。


■セブン#ス・コードのその先で


そして本稿で最後にお話しさせていただきたいのが、シーズ最新のイベントシナリオである『not enough』についてです。
本シナリオではシーズの二人に舞台のオファーが届き、その役柄を通して二人の精神的な成長が描かれています。

画像は「not enough」のキービジュアルでもある緋田美琴SSR「AWAKE」より。

初めて本シナリオを読み終えた際、筆者は名作揃いであるシーズのシナリオの中でも一番の満足感を得ました。
それには「not enough」というイベントシナリオが、初めてシーズの″二人だけ″に焦点を当てて描かれた物語だからということに関連しています。

シーズ初のイベントシナリオである「oo-ct. ──ノー カラット」に始まり、彼女らの物語ではシーズの二人だけではなく、美琴の元パートナーである「斑鳩ルカ」の存在も同時に描かれてきました。

確かに彼女は、シーズというユニットを語る上では切っても切れない存在であることに変わりはないのですが、本シナリオで初めて彼女のことが描かれていなかったことに対し、筆者はある種のメッセージのようなものを感じました。

冒頭でも申し上げたとおり、「not enough」というシナリオで主に描かれているのはシーズの精神的な成長です。
彼女たちの物語では、「シーズの二人に互いに向き合って欲しい」というプロデューサーの願いも終始に渡り描き続けられていました。

そして、その願いの一端が成就したのが本イベントシナリオです。

本シナリオの冒頭で描かれる、にちかに貰ったサンドイッチの感想を話す美琴。

「not enough」を読み始めてまず驚いたのが、美琴の方からにちかに対して歩み寄ろうとする姿勢がハッキリと描かれていたことです。
上記の画像の場面でもそうですが、美琴さんがにちかの手作りサンドイッチを食べてるんですよ!?あの美琴さんが!!!

ノーカラットにて、はちみつ漬けのレモンを貰った際には「バッグの横に置いてあった差し入れに、その日はなんとなく手が伸びた」と話していました。しかし、今回は前日に直接差し入れを受け取っているかのような描写が!!!うっ……今までのシーズのシナリオとは思えないくらいの幸せな雰囲気に思わず胸が締め付けられる……。

そしてその直後に描かれる、プロデューサーから舞台の台本を受け取った翌日のレッスンでの場面。ちなみに二人は台本を受け取ってはいるものの、この時点ではまだ舞台の出演依頼を受けるかどうかは決まっていません。

レッスン前日に受け取った台本に目を通す美琴。
そして翌日のレッスン室での二人の会話。

このシーン、
もしやるなら、どんなふうに……

緋田美琴 not enoughより

にちかの「私も美琴さんならどんなふうに踊るのかなって~」といった発言を顧みるに、上記の発言は美琴″も″にちかならどんな風に踊るのかを考えていたってことですよね!?
「セブン#ス」を乗り越えた先に見える景色……絶景すぎるな……。

そして極めつけはこちらの台詞。

「やりたいって思っているのかも」

み、みみみ、みこっ、美琴さんがっ!!にちかと同じ舞台にしゅしゅ、出演したいって!!!!!
もうね、ここまでシーズのことを追いかけてきた皆様なら恐らく同じ気持ちだと思うのですが、この一言の報われた感……ヤバくないですか?

今までのシナリオを読んでいても分かるように、緋田美琴という人物はアイドルであることに関しては愚直なまでの一途さを見せます。

筆者はシーズのシナリオを読み始めた際、自身にとってあまり興味のない事柄においても、アイドルという仕事において必要なことならば黙って受け入れるといった、ストイックな印象を彼女から感じていました。

そして正直に申し上げると、筆者としてはにちかよりも美琴が抱えている問題の方が根深そうな印象を受けていました。なので、シーズのシナリオではまずはにちかの成長が描かれていくものなのだろうと考えていただけに、先に美琴に対して大きな変化が訪れたことに驚きました。

後日、にちかの誘いによって七草家で舞台の練習を行うことになった美琴でしたが、にちかの提案により練習前に軽く何かを食べることになりました。

筑前煮を一緒に食べようとにちかに勧める美琴。

にちかにとって美琴はパートナーとしてだけではなく、一人のアイドルとしても尊敬以上(神格化にも近い)の念を抱いている相手でした。
しかし、そんな美琴を″自宅に誘う″という行為からは、にちかの中でも美琴の存在が当初よりも身近なものになっているのではないか?ということが感じられ、本シナリオを読み始めてから何度目かのガッツポーズを一人でとってしまいました。

本シナリオにおいて、にちかと美琴の仲が大きく進展している裏付けとして、ここで前回のイベントシナリオであった『セブン#ス』の話を少しだけさせてください。

画像は「セブン#ス」のキービジュアルでもある緋田美琴SSR「STAGE」より。

「セブン#ス」のラストシーンでは、ルカとのイベントを終えた美琴がにちかの元に帰ってくる様子が描かれます。
幼き日、家族にとってのアイドルだった頃を思い出しながら、ビールケースの上で一人踊るにちか。そんなにちかを見つけた美琴は、彼女に対して問いかけます。

―――――乗せてくれる?
私も、そこに―――――

緋田美琴 「セブン#ス」より

タイトルにもなっている「セブン#ス」という名前は、音楽用語である「セブンス・コード」が元ネタとなっていると筆者は解釈しています。
簡単にご説明させていただくと、セブンス(四和音)というコードは三和音の中に一つ、あえて濁る音を混ぜることでオシャレな響きにした和音です。
そして濁る音が混ざっているということは、言ってしまえばセブンスというコードは「不協和音」でもあるわけです。

しかし、本シナリオのタイトルは「セブンス」ではなく「セブン#ス」となっており、タイトルの「#(シャープ)」が最後の文字(つまり四和音の最後の音)に付いていることから、不協和音のようだったシーズの二人が協和音のように互いに調和した状態になったことを示しているのではないかと筆者は考えました。

そして先ほどの「乗せてくれる?」という美琴の台詞も本シナリオのタイトルにかかっており、美琴が舞台に上がることで「#」が付き(音の高さが上がる)、シーズの二人が協和した状態になったとも解釈することができます。
残念ながらビールケースという舞台は二人にとっては小さく、すぐに舞台からは転げ落ちてしまうのですが、本シナリオでは彼女たちにとっての大きな一歩を踏み出した瞬間がようやく描かれたともいえるでしょう。


■そしてたどり着く「not enough」


では、話を再び「not enough」へと戻します。

舞台のレッスンをこなしていく二人でしたが、意外なことにも先に頭角を現し始めたのは美琴ではなく、にちかの方でした。

しかし、演出家の思い描くリリアの姿にはまだ及ばない。

にちかが演じることになる「リリア」は大富豪の娘として生まれ、両親からも溺愛されて育ちましたが、彼女にはある秘密がありました。
それは″16歳の誕生日を迎えたその日に死を迎える″という、解きようのない呪いがかけられていたことです。

七草家の家族構成を加味して考えると、リリアという役柄は七草にちかという少女とは真逆の性質を持っているように見えます。しかし、16歳の誕生日に死を迎えるという呪いには、W.I.N.G.での優勝が叶わなかった世界線のにちかをどこか彷彿とさせるものがありました。

演出家の言葉には、緋田美琴という人物を見抜いているかのようなふしもある。

そんなリリアに対し、美琴が演じることになる「マーレイ」は永遠の命を持つ美貌の魔女でした。
無機質とも言える雰囲気を身に纏ったマーレイは、どこかシーズ結成直後の美琴の姿を彷彿とさせます。

そして、マーレイを演じる美琴の所作に対し無機質さを感じた演出家は、彼女に対して「その人(役)として生きてほしい」と伝えます。
長い時間をかけて完璧な所作を追求し続けてきた美琴に課せられた、″人として生きる″という新たな課題。

リリアとマーレイという役を通じて、ここからはシーズの二人が自身と向き合っていく様子が描かれていきます。

プロデューサーからも何かのコピーの様だと称されていたにちか。それはアイドルになってからも変わらず、憧れである八雲なみや緋田美琴の後を追いかけ続けているようにも見える。
「心の動きを感じること」を求められる美琴。抱えている問題点は違えど、シーズの二人に共通しているものはある種の空虚さなのかもしれません。

そして「できないことをできるようになる」という課題に対し、美琴は自身が苦手とする料理に挑戦してみようと思い立ちます。
そうです。美琴は本シナリオの冒頭でにちかと一緒に食べた、あの「筑前煮」を思い浮かべていたのです。美琴さん可愛すぎません???

にちか助けて。このままだと俺、美琴さんのことを好きになっちまう……。

まさか「筑前煮」という単語に感動する日が来るとは思わなかった。

しかし、日常的に料理を行わない美琴の自宅に調理器具があるはずもなく……。見かねたにちかは「うちで、作りませんか……?」と声をかけ、舞台は再び七草家へと移ります。

ここで起こるのが、シーズの二人がこれまでに何度も繰り返してきたであろう″日常の逆転″です。アイドルという土俵に限るならば、美琴がにちかに対して何かを教わるという場面が来ることはあまりなかったことでしょう。
しかし、今回二人が行う行為は歌でもダンスでもなく、料理です。

日常とは全く異なる土俵に立ったことにより、その立場が普段とは逆転することになります。一緒に料理を作るだけといった、一見すると些細な出来事のように思えましたが、この出来事が後の二人に大きな影響を与えることになります。

レッスン前の会話。親元を離れて長い美琴だが、家族との関係は良好のようだ。
対するにちかは姉と二人暮らし。不仲というわけではないが、些細なことでの衝突も絶えない。

舞台のレッスンが始まり、にちかはリリアとしての演技を続けながらも、先ほどの美琴との会話を思い出します。
ここで描かれているのは、家族にも愛されており、自分の好きなことに対しても真っ直ぐと突き進むことができる緋田美琴と、生きるために多くのものを犠牲にしてきた七草にちかという少女の完璧なまでの対比です。

そして、まるでそのことを嚙みしめるかのようにリリアの台詞が続きます。

私は、何もかもを持っているんだから、
それを使って何が悪いの……!


恨むなら天に向かって恨めばいい
何も与えてくれなかった、天に……!

リリア(七草にちか)  not enoughより

リリアの言葉に導かれるようにして、少女の心を一つの感情が支配します。

それは今まで彼女が考えたこともなかったであろうもの。
それとも、無意識のうちに考えまいと心の奥底に押し込めていたもの。

「嫉妬」

そして、意外なことにもその矛先が向かった相手は……美琴だった。

にちかの瞳に映る美琴の姿は、アイドルとして完璧な存在でした。
そして、その思いは今も変わらず彼女の中に在り続けることでしょう。

しかし、舞台の練習や一緒に料理を作るといった経験から、あの″美琴にも苦手なことがある″ということに、にちかは気が付きます。
それはきっと、にちかの中で最も″神様″という存在に近かった彼女が、実はずっと自分の近くに居たのかもしれないという感覚。

真っ白な空間の中にアイドル姿のにちかが一人映る演出がとても美しい。

今までは美琴の引き立て役に徹していた彼女が遂に、「必要、なのかな」と自問し始めます。長きにわたり自分自身を傷付け続けてきた少女が、自分も宝石なのかもしれないと気が付いた瞬間でした。

「not enough」のことを書き始めた冒頭付近で、筆者は本イベントシナリオがシーズのシナリオの中でも一番の満足感を得た、というお話をさせていただきましたが、まさにその言葉の全てがこのシーンに詰まっていると言っても過言ではありません。

筆者に限らず、にちかのプロデューサーを勤めている方々は、彼女のことが好きだからこそ担当アイドルとして選んだわけじゃないですか?
はっきりと言ってしまえば、我々からしたら彼女以上に魅力的なアイドルなんてものは存在していないんですよね。

しかし、彼女はその不器用なまでに真っ直ぐな性格が災いし、今までは自分自身を愛することを頑なに拒み、目を背け続けてきました。
そんなのって悲しすぎるじゃないですか……悔しいじゃないですか……。

だから、にちか自身の口からこの言葉を聞けた時は心から嬉しかった。

にちかの演技が演出家の求めていたリリアを顕現させた。

切実に何かを求めるリリアの姿は、まるで今のにちかの姿を鏡に映しているかのようでもありました。今までの彼女は八雲なみや緋田美琴の姿に憧れ、模倣することを続けてきたからです。
しかし、今回の舞台をきっかけに″一人のアイドル″として成った今の彼女ならば、必ずや七草にちかという器を自身の理想で満たすことができることでしょう。

一方、美琴は依然として自身に課せられた課題を解決できずにいました。
ここで再び立場の逆転が起こることになります。美琴はにちかを頼り、台本の読み合わせをする約束を取り付けます。
にちかが過去最高に美琴さんに頼られてるの良すぎる、めっちゃ。

しばらくしてからにちかより約束の時刻に遅れるという連絡が入り、当初の予定よりも間が空くことになりました。

にちかとの電話を終えた後、楽しかったと独り言つ美琴。
こ、これは間違いなく二人で作った筑前煮の思い出……!うああああ録音してにちかに聞かせてあげたいいいいいいいい。

番組の収録が終わり、美琴に電話をかけるも連絡が取れずに焦るにちかでしたが、ある予感を感じて自宅へと向かいます。にちかの予感は的中し、美琴が待っていたのは″できないことができるように″なった場所。七草家の扉の前でした。

にちかに対し、開口一番に「夢の中で彼女(マーレイ)としてちゃんと生きていた」と伝える美琴。
約束の時間を待っている間、彼女は一人で演出家に課せられた課題に向き合っていました。そして課題に向き合う際、恐らく彼女の脳裏に浮かんでいたのはマーレイの姿ではなく、パートナーであるにちかの姿。

世界で一番尊い筑前煮すぎる……。
このシーンを初めて見た時は思わず胸がいっぱいになってしまい、言葉が出なくなりました。

そして続く美琴の台詞がめちゃくちゃ良いんですよね。

にちか、よかったね……。
このシーン、山根さんの優しい声色が最高すぎるので全人類に聞いてほしい。

「変な味がしたら食べない方がいいと思う」という、実に美琴らしい正論。
しかし、その後には「一緒に舞台に立てなくなっちゃう」という言葉が続きます。

かつての美琴でも似たような発言をすることはありそうですが、それはあくまでも仕事に対して穴を空けないようにするために出た言葉だったことでしょう。
しかし、今の美琴は違いました。

台本を渡された当初にはまだはっきりとした実感はなく、「やりたいって思っているのかも」という曖昧なものでした。舞台のレッスンが始まり、にちかと共に過ごす時間や与えられた課題をこなしていくうちに、少しずつではありましたが美琴にも大きな変化が生まれていたのです。

「できないことを、できるように」

それは新しくできることを増やすという単純なものではなく、もっと本質に近いもの。彼女の場合は料理という媒介を通じたことにより、パートナーであるにちかの心に対して本当の意味で向き合えるようになったのでした。

続く美琴の言葉も優しさにあふれており、とても良い……。

そして迎えた舞台当日。
会場は沢山の拍手に包まれ、二人の公演は大成功に終わったようでした。

プロデューサーの台詞からも舞台が盛況だったことがうかがえます。

シーズのその後も描かれ、バラエティ番組で大活躍(?)する美琴。
そして、そんな美琴の姿を見て反応するギャル風の女性たち。何気ない日常会話ではあるのですが、このシーンも個人的には「not enough」における名場面の一つだと思っています。

今度好きな曲教えてくれよな……。ちなみに筆者は「Fly and Fly」と「Bouncy Girl」が好きです。

そして最後は、リリアとマーレイの言葉で締めくくられます。

「一緒に」の部分だけはリリアとマーレイではなく、にちかと美琴の台詞になっている演出がにくいですよね……。

こちらは「not enough」各話のタイトルなのですが、第6話からエンディングにかけて大きな変化が起こっています。
「1+1」から「1.0」へ。今までは同じユニットでありながらも、バラバラに歩んできた部分があった二人でしたが、本シナリオの最後にて本当の意味でパートナー同士になったという表現なのだと思います。

そして、本シナリオのタイトルである「not enough」。
直訳すれば「足りない」という意味になるこちらの単語ですが、この言葉は本シナリオのあらゆる場面にて見受けられました。
純粋にその意味だけを受け取るのならば、マイナスイメージに偏ってしまいがちな言葉ですが、最後にシーズの二人にとって前向きな言葉に変わったことで、とても美しい終わり方をしたシナリオだと感じました。

そして足りないからこそ、
彼女たちの物語はこれからもずっと続いていくことでしょう。

シーズに乾杯ー!!

ここまでご清覧いただき、ありがとうございました。

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