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近所のにいーちゃん

物心がついた頃から、
隣のアパートには、
かあちゃんが、
唯一心を許したおばさんがいた。

おばちゃんには、
いつもかあちゃんの
愚痴や相談を聞いてもらっていた。
そして二人共、酒豪であった。
夜遅くまでどんちゃん騒ぎしていた。

おばちゃんには、
無口で寡黙の父ちゃんがいて、
私より遥かに年上の
すんげーヤンキーの、
ねぇーちゃんと、
にいーちゃんが
いた。

正直、この家族が怖かった。
あの父ちゃんも、
何考えてるかわからない、
ただらなぬ気配を感じる。

ねえーちゃんは、
すんげーどヤンキーで、
私に会うと、優しくしてくれた。
世間一般の礼儀を教えられた。
けど、泣き虫な私をいつも喝を入れる。

にいーちゃんは、
ねえーちゃんに負けないぐらい、
もうかたぎの人じゃないだろと
思うほど、ガラの悪い人だった。

私は一番このにいーちゃんが怖かった。
会えば、悪い事ばかり教えられた。

小学校入って、お祝いだと、
その一家の家に招かれたが、
タバコ嫌いのかあちゃんが、
よく耐えられるなと思うほど、
一家でタバコを吸っていて、
部屋中もくもくと、くもっていた。
そして、みんなして酒を飲んでいる。

カオスだ。

私はびびってるにも、かかわらず、
酒を勧めてきたり、
タバコを勧めてきたり、
もちろん拒否してるのだが、
それが面白いのか、しつこくすすめる。

そして、びっくりした出来事がある。
あの、ねえーちゃんは中学生で、
そして、にいーちゃんは高校生だった…。

嘘だろ…。
ねえーちゃんは制服を着てたから、
高校生かな?とは思っていた。

だが、にいーちゃんは、
制服など着てなかった…かと思った。
だが、原型どこいった?
と言うほど改造された制服を着ていたのだ。
これは、もう制服ではない。

そんな、にいーちゃんが、
バイクを乗り回していたのだが、
私を乗せてくれた。

もちろんヘルメット等ない。
にいーちゃんの細いベルトを、
思いっきり握りしめて目をつぶる。

どうして普通に運転しないのか…。

クネクネとバイクを倒しながら、
右へ左へと蛇行運転をする。

そして、きわめつけは、
マフラーの威力だ。
鼓膜破れるって思うほど、
爆音でふかすのだ。

町内一周パレードしてきました。

もう、体がカチカチで、
耳はまだキーンと鳴っていた。

にいーちゃんは、
タバコを吸いながら、
どうだ!気持ちいいだろ!
と自慢げにこれまた改造された、
バイクを爆音でふかしながら聞いてくる。

うん…すごかった…。
すごすぎて、何が何だかわかんなかった…。

にいーちゃんはニッと笑い、
またバイクでどこかへ行った。

にいーちゃん高校生だよね?
本当に高校生?うそだよね?
みんな高校行ったらあーなるの?
こえーって…と、
ガタガタブルブル震えたのだ。

そんなにいーちゃんが、
高校を卒業して、大工になった。
てっきり、ヤクザになるかと思った。

ある日、
にいーちゃんが珍しく、酔っ払っていた。
大工の人達は、にいーちゃんより強かった。
にいーちゃんが少し弱音を吐いた。

外で遊んでいたら、
にいーちゃんが酔っ払って帰ってきた。
そしたら、こっちに来て、

アイツらやべーよ。
オレよ、なめてたわ。
高校の時は、無敵だって思ってた。
誰にも負けないって思ってたんだわ。

だけどよ、
オレはただの小心者なんだ。
だから、強がって吠えまくってた。

今は本当に思い知らされてるよ…。
なんてオレは弱いんだって…。
オレの威嚇なんて全然通じない。
心が強いんだよなぁ…。

ちょっと待ってろよ。
と、にいーちゃんはいなくなった。

すると、チョコをくれた。

お前、これから大変だぞー。
お前は、見かけてだけの人間にはなるな。
心を強く持っていればいいんだ。
自分を強くすれ。

酔っ払ってて、酒臭いにいーちゃん。
何かを悟ったようにそう言うと、

帰っていった…。

その後ろ姿を見てたら、
にいーちゃんが振り返り、

お前、泣き虫だけど、
泣けるってすんげーいい事だぞ!
お前は大丈夫だ!
そのままグレずにいけよ!

と言うと家に帰った。

私は、なんかむずかゆくなって、
もらったチョコを食べる。

甘いはずが、中から苦い何かが、
ドロっと出できて思わず吐いた。

ウイスキーボンボンだった。

これが、大人になるって事なのか…。
そう思いながら、また一個ほおばる。

チョコをかじり、身震いをし、
無理やり噛み砕いて、一気に飲み込んだ。

それから、熱が出て寝込んだ。

にいーちゃんのバカ…。



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