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無実の印。

今現在、リハビリの真っ最中である。

うまく動いてくれないが、それが愛おしく、
よし、よし、お前はよくやってるよ。
なんて、誉めて伸ばす方法をやってます。

たまに、病室のベットで寝ながら、
腕を上げたり下げたりして、
私なりのリハビリをしているのだが、
病衣ってなんですぐ、まくれてしまうのだ。

腕が、あらわになってしまうのである。


私の腕には、根性焼きがいくつもある。

今どき、根性焼きなんて知らない人も、
いるかもしれない…。

いわゆる、タバコを押し付けて出来た火傷跡。

私は、タバコは吸わない。

じゃあなんで、そんなもんあるのか。

それは、とある濡れ衣のせいである。

その証として残された跡なのだ。

先に言うが、私は不良ではなかったし、
ひねくれた思考の不器用で、人との距離感が、
わからない、ちょっと変わった人間である。

それは、高校3年。

夜間高校は4年まである。
学校の4年の先輩のサトルと言うヤツがいた。
サトルとは、仕事が一緒で仲良くやっていた。

だが、サトルはいわゆる族に入っていた。

誰かれ構わず、メンチをきり、
変な歩き方をしていたのだ。

髪の毛を七色に染めて、
ふわふわリーゼントをしていた。

特攻服をいつも着用していて、
漢字で何か書いてあるが意味が分からない。

そして、額にM字の剃り込みと眉毛がない。

そんなあべこべな私とサトル。

学校と仕事以外では、関わりはなかった。
私には、そんな族には興味ないし、
別に、近くにサトルと言う人間が、
いても、さほど意識してはいなかったのだ。

今みたいに、携帯電話もない。

そして、実は我が家にも電話はなかった。

母親は耳が聞こえないから、
必要としなかったし、電話回線ひくだけで、
とにかくお金が、かかったからだ。

ほとんど公衆電話で済ましていた。

もし何かあった時の電話番号は、
母親が唯一心を許していた、
近所のおばさんの、家の電話番号を、
いつも利用していたのだ。

だから我が家に用ががあれば、
おばさんが我が家に来て、電話だよ!
と私がおばさんの家に行き電話を引き継ぐ。

その日、サトルは仕事を休んだ。

仕事から帰ったら、
いつものように、おばさんが来て、
あんたに、電話が来てるよ!と教えてくれた。

急いで、おばさんの家に行く。
おばさん家族も慣れたもんで、
私が来ても、何もなかったかの様に、
それぞれ、自由にくつろいでいた。

電話に出ると、知らない人だった。
どうやら、私はケンカをふっかけられていた。

まくし立てる様に、私を罵倒して、
今からすぐ来いや!おんどれ!
とお呼びがかかり、はい、わかりました。
と電話を切り、おばさん家族に礼をした。

指定された場所に自転車で行くと、
サトルがボコボコになって倒れていて、
その周りにたくさんの族の方々が囲っていた。

ん?あれ?サトル?なしたんだ?
確か…今日は仕事休んでたよな…。
これから、学校なのに、なにやってんだ?
と自転車を止めて、置いといた。

そんな、キョトンとした私に、
その族の方々が怒号を浴びせながら、
私に向かって来るではないか。

先程の電話の相手と思われる人が、
メンチをきりながら、話しかけてきた。

お前!サトルに何やったんだよ!おら〜!
どこの族のもんじゃ〜われ〜!
わかってんのか!おい!
なめたマネしやがって〜テメェ〜!
よくも、のこのこ来やがったな〜あぁ!

と、呼ばれたから来ただけであり、
のこのこと来た訳ではないのだが、
どうやら、勘違いをしているらしい。

私は、
呼ばれたので来たのですが?
サトルがあーなったのは、なぜでしょう…。
私とは全く関係なく、身に覚えもありません。
これから、学校なので、失礼します。

と、立ち去ろうとすると、
今度は私が囲まれてしまった。

えーっと…。先程も言いましたけど、
サトルとは、仕事と学校が一緒なだけで、
後は全然、無関係なんですが…。
あと、私は見た通り族には入ってません。
では…他を当たって下さい…。

と言っても、無言でメンチをきるだけで、
私の言葉を聞いてない?と思えるぐらい、
静まり返って、私を包囲していました。

あ?今なんつった?
テメェ嘘ついてんじゃねーよ!おぉ!
じゃあ、証拠みせろや!
あ?こら!なめんじゃねーよ!

…証拠なんてないですけど…。
どうすれば、信じてもらえます?

お前が嘘ついてない証拠だよ!
サトルはテメェの名前呼んでたんだぞ!
おいコラァ!どう説明するだよぉーおぅ?

…なぜ、サトルがそんな事言ったのか、
全くもってわかりません…すみません。
勘弁してもらえないですか?

じゃあ…根性焼き!自分でやれや!
そしたら、信じてやるよ!おぉ!

…オレたばこ吸わないんですけど。

おい!コイツなんかほざいてんぞー!
そんなの、通用する訳ねーだろ!あー?

…じゃあどうすれば、いいんすか?

おい!お前らコイツに根性焼きってヤツ、
教えてやれよ!もちろんコイツの腕だぞ!

と羽交締めにされ、袖を捲られ、
いくつものたばこが、私の腕に押し付け、
ジュッ!と音と肉の焼けた匂いがした。

そこには、十字架の模様の根性焼き。

最後に、族のトップの人が、私に、
火のついた、たばこを渡してきた。

ほれ!嫌でも、やり方わかっただろ?
お前がタバコで、ケジメつけろや!

私は、渡された、たばこを持つと、
何の迷いもなく、腕の十字架を無視し、
何度も、腕の至る所にたばこを押し付けた。

もう、そのタバコは揉み消した様に、
火が消えていたが、構わず押し付けてた。

私は、どこかのネジがぶっ飛んでるので、
それで納得してもらえるなら、いくらでも、
やってやる。自分を傷をつけてもいいのだ。
自分という存在自体どうでもよかったのだ。

痛みとか、そんなの生きてりゃ誰でもある。
自傷行為に近いかもだが、それで解決なら、
どんな事でも、迷いもなくやってしまう。

多分、死ねや!と言われたら死んでたな。

こんな、火傷の痛みよりも、
罠にハマったサトルの事の方が、
痛くて、悲しくて、辛いだろう。

そう思えたし、周りの族の方々にも、
礼儀として、このぐらいしなければと、
いくつかの、根性焼きを入れたのだ。

族の方々は、
サトルを連れてどこかに、行ってしまった。

残された私…やれやれ解放された。
学校行く前に、着替えないとな…。
羽交締めされたから、服が汚れてしまった。 
作業着だから、いいけど…。
洗濯したいし…うむ…やっぱ帰ろう!

一旦、帰り着替えようと、
腕を動かそうとすると、動けない…。
多分…根性焼きのせいで炎症して、
腕がパンパンになってウジウジしてた。

サトルは大丈夫か…オレよりも、
かなりやられてたもんな…
ありゃ、骨の何本か、折れてんな…。

そう考えながら、なんとか着替えて、
服が、根性焼きの火傷の腕にひっついて、
気持ち悪かったし、これ服脱ぐ時、
ウジウジが絶対に張り付いて、乾き、
いっぺんにバッと脱がなきゃヤバいな。

ま、しゃーないか!おっと!
学校遅刻する!自転車フル回転だな!
と、なんとか夜間学校に行った。

サトルは、
学校にも仕事にも、来なくなった。

サトルはなぜ、私を名を呼んだんた?
そして、サトルは誰にやられたんだ?

あれ以来、電話も来ないし、
サトルとも会ってないのだ。

そんな、根性焼きの跡を見るたびに、
不思議な感覚になるのだ。

うむ…なぜ、十字架にしたんだろう…。

何かの美学なのか、習わしなのか…。

良く見たら、きれいな十字架だな…。

あっ!そう言えば、
サトルの特攻服の、マークみたいなの、
十字架にヘビが巻かれてたヤツだった…。

なるほど…
その族の印ね…すんげーだっせーの!


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