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ほたるのひかり

この曲を、聴いているとあっ!帰らないと!
と思いませんか?

ちょっと、切ないメロディー。

夕方から、夜にかかるそんな瞬間。

子供達がバイバイ、また明日ねと、
帰る姿が見えてくる。

これは、日本独特の習慣であり、
体に染み付いたメロディー。

私が接客業で働いていた時、
店の閉店前の10分前に流れるメロディー。

ほたるのひかり。

お客さんは、何も言わなくても、
レジに並んだり、帰ったりしていた。

そんな、ある日の事。

明らかに、日本人ではない人達が、
店に入ってきた。

しばらくワイワイと大声で笑っていた。

そして、閉店前のあのメロディー。

ほたるのひかり。

が流れはじめるが、その人達は、
気にも止めずに、まだはしゃいで、
買い物を楽しんでいた。

ヤバい…。これは日本独特の文化…。

このメロディーの意味を知らないんだ。

考えてみれば、当たり前の事。
ただの日本の童謡のメロディー。

それが、閉店しますよーと言う合図だとは、
全く思いもしないのだろう。

閉店まであと、5分…。
まだ、気付かずに買い物を楽しんでる。

これは、かなりマズイ。
私は、店長を任されていた…。

だが…英語は…出来ない。

閉店まであと、1分…。
冷や汗が止まらない…。
どうしよう…どうすればいいんだ…。

すると、一人の従業員が、走って、
そのお客様達に話をしている…。

そのお客様達は、オッケー!テンキュー!
と言うと、バーイ!と帰っていった。

その従業員に、お前…英語できんの?
と聞いたら、えっ!店長、英語できないの?
と返された…。

お…うん…英語は…できないんだ。
お前は、なんで英語できんだよ!
早く教えろよ!オレ、マジで焦ったんだぞ!

従業員は、
だって、私オーストラリアに留学してたから。
ペラペラまでは、いかないけど、多少は、
しゃべれるんだ。
ってか、帰って欲しいってだけの英語ぐらい、
しゃべれないとヤバいじゃん。
お客さんが英語で話しかけられたら、
どうすんの?ってか…どうしてたの?

とちょっとバカにした感じて聞いてきた。

そん時は…そん時だよ…。
あっそうか…お前を、呼べばいいんだ!
店長は忙しいのです…だから仕方ないのです!
あの…さっきの会話を教えて…下さい。

まさか、ほたるのひかりが通じない人達が、
いるなんて、考えもしてなかった…。
私は愚か者です…店長失格です…。

また、来るかもしれない…怖い…。
だから、閉店なので、帰ってください的な、
そんなのを、英語で教えてくれ!
この通り…お願いします!先生!
と頭を下げた。

従業員は、えーっ!マジで!ウケる!
と笑って、はいはい、りょーかい!
と、紙に大きく英語で、書いて、その下に、
カタガナで言い方を書いてくれた。

ん?これはどう言う意味の英語?

と聞くと、えー!読んでたらなんとなく、
わかるでしょ。単語とか意味察してよ。

お前、オレを甘く見るな!
オレは、英語の単語すら意味不明だ!
ちゃんと、日本語の言葉も書け!


はいはい、本当、それでも店長?
これは、こう言う意味ですよー。
と日本語の意味を小さく書いてくれた。

読みづらっ!なんだよ、バカにしてんの?

はぁ…店長は、なーんにもわかってないな…。
もしも、今日みたいな事があったとする!

店長がこの英語を読んだ所で、
ちゃんと通じるかわからないじゃん。

だから、その時に、この紙を、
見せれば、相手はわかってくれるでしょ?

余計な事を大きく書いてたら、
相手がわかりづらいでしょ?

だから、肝心な英語を大きく書いて、
その他は、小さく書いてあげたんだよ。

私、頭よくない?私が店長してあげようか?

なるほど…お前…頭いいな。
納得した…いやー参った。
お前、店長してみないか?
オレが勧めてやるよ!
お前が店長した方が、よっぽどいい。
その才能がもったいない。

そう、真面目にこたえると、

店長!ほんとーにわかってない!
店長だから、ここで働いてんだよ?
みんなそうだよ?辞めないでここにいる。
それは、店長だからだよ?
やめてよ、そんな事言うの。
店長辞めたら、みんな辞めちゃうよ。

と笑って励ましてくれた。

いや、マジな話なのだが…。
オレ…店長ってガラじゃないぞ?
お前達は、それでいいって言うのか?
それ、信じてしまうぞ?
そして…泣いてしまうぞ…。

と少しウルウル泣きそうになっていた。

その従業員は、
バカウケして、他の従業員を呼んで、
泣きそうな情けない私を晒し者にした。

そして、みんなで、その日の出来事を、
私の恥ずかしい一面の思い出し笑いが、
止まらず、爆笑しながら、帰った。

ほたるのひかり。

切ないメロディーだが、
私には、
そんな出来事を、思い出し、
照れ笑いさせてしまう、
素敵なメロディーなのであった。

あの時の英語、なんだっけなー。
全然覚えてない…単語すらわからん。
ホント、よく店長、出来てたな…。 

ちなみに、あの英語ができた従業員は、
私の後の店長として、ずっと働いてくれている。

今度、閉店間近に行って、
ほたるのひかりを無視してみようかな。
笑いながら、英語で教えてくれるかな…。

他の知らない従業員に不審者として、
扱われて終わるだけか…やめとこ。


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