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初めて訪れた日

橙書店。わたしが一番好きな場所。
店主の田尻さんの近著『橙書店にて』を少し読んではページを繰る手を止め、大好きなあの空間を思い出すー

扉を開け、まずは右手の弱者の本棚へ。背表紙をくまなく眺め、気になるものは手にとりあらすじに目を通す。奥の翻訳コーナーでも同じことを。そのほか4つほどの本棚もざっと見て、最後にまたはじめの2つの本棚を行き来する。そうしてゆっくりじっくり本を選ぶ。当時大学生だった私に最も幸福な時間をくれるのが橙書店だった。

でも、初めて訪れた日の記憶はぼやっとしている。
年を重ね、もっと薄れてしまうのが怖くて、あらん限りの記憶をここに書き留める。


熊本に越して来たばかりのころ、移転する前の店舗をひとりで訪れた。扉を開けるのは少し勇気がいった。外からも見える背の高い棚には、外国の子どものモノクロ写真がディスプレイされていた気がする。中央の大きなテーブルには後の私が熱中することになる新潮社のクレストブックスが並べられていたっけ。一通り見たあと、みしみし上った2階で見つけた小さな古本を購入した。女の子のイラストが表紙で、雑誌のようなページ構成だったと思う。


それからしばらくは足が遠のいていた。
おとぎ話の延長で本がすきだったころ。
弱者の本や海外の本が多く、当時のわたしはぴんとこなかったのだろう。

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