長イキはオモコロ合宿で風呂に入ることができたのか

集団で寝泊まりをすると決まって、風呂に入るというイベントが発生する。

おれはとにかく他人にちんこを見られるのが嫌なので、いかにしてみんなの目を盗んで風呂に入るかということばかり考えてしまい、そういった寝泊まりをまともに楽しめた記憶がない。

いちばん古い記憶でいうと、幼稚園の頃、お泊り保育というのがあって、強制的に風呂に入らされるのだが、あまりにも嫌すぎて、当時覚えたての言葉「みずぼうそう」を使い、全園児の中でおれだけ風呂に入らないことに成功したのをおぼえている。

毎年、オモコロ合宿というインターネットの住人たちが集団で寝泊まりをするというイベントがあるのだが、今年もなんとか呼んでいただけた。

おそらくオモコロ合宿の参加はこれで4回目くらいなのだが、過去3回どれも風呂に入らなかった。
いや、厳密に言えば、風呂に入ろうとしたが、誰にもちんこを見られないで入るタイミングを逃してしまったというのが正しいだろう。
入る意思はあった。
夜中に入ることも、早朝に入ることも考えた。しかし、どの選択肢もちんこを見られないという確証を持てなかったのであった。

おれは毎年必ず2日目のアクティビティを「直帰」にする。
オモコロ合宿は2日目に班ごとに分かれてさまざまなアクティビティをするというのが恒例なのだが、直帰とは、文字通り、アクティビティに参加せずにそのまま帰ることである。
直帰はだいたい、家庭の事情があったり、仕事や用事がある、などやむを得ない理由で選ばれることが多い。
おれの場合は、もちろん「風呂に入らないから」である。風呂に入らなかったとしても、次の日の昼くらいまでならまだ清潔だと考えているので、体臭の期限が切れる前に家に帰るというのが最も倫理的な行動といえるだろう。
それゆえおれは毎年直帰を選んでいた。

しかし今年は違った。

直帰を選んでいたはずなのに、吊り橋ウォークの班に入れられてしまった。

とんだ誤算である。

今年ついに、オモコロ合宿で風呂に入る必要がでてきてしまった。

なんたる絶望。

夕方。

ライターたちが外で焼いた肉を食べているのを横目に、おれは自分の部屋で寝転んでいた。

ずっと風呂のことを考えていた。

今か…?

今ほとんどのライターが外に出ていて、室内には調理室で作業している者が数名いるだけ。

好機(チャンス)なのか…?

しかし、夕方の時間に万が一にも入浴者と遭遇したら、夜の時間帯に遭遇するそれよりもちんこを見られる確率があがってしまう。
夕方の時間に風呂に入る者は、風呂に入るのがたいへん好きで、旅行へ行けば「もとをとる」といって何度も風呂に入るようなタイプの人間が多いと推測する。
そのような積極的入浴者は、風呂に入る際にちんこを丸出しにしていることが多く、自分のちんこを見られることはもちろん、人のちんこを見ることにも抵抗がない。
我々のような消極的入浴者はちんこをタオルで隠し、背中を丸くして浴場に入り、最速で最短で体を洗って出ていく。
最悪、風呂で誰かと出会ってしまったとしても、積極的入浴者ではなく、消極的入浴者なら被害を最小限に抑えられるであろう。
ゆえに、積極的入浴者がいる確率が高い夕方の時間帯は避けるのが無難であるだろう。

しかし今ライターたちが外でメシを食っているという事実は変わりなく、好機であることは明白ではある。
どうするべきか…

などとうだうだ考えていると、雨が降ってきてしまい、ライターたちがぞろぞろ部屋に戻ってきてしまった。

風呂に入る好機を逃してしまった。だが夜は長い。
ここは取り乱さず、冷静に、確実に、ちんこを見られずに風呂に入る策を練ろう。

大部屋に戻ると、ライターののぎへっぺんが「風呂どうしようかな、おれは朝に入ろうかな」と言っていた。

おれはうれしくなった。

この男も、ちんこを見られたくないのだと確信した。
こんなところに仲間がいたんだ、と少し心が温かくなった。
その後、彼がちんこを見られずに風呂に入れたかは定かではない。ただ、仮に風呂に入ってなかったとしても責めてはいけない。
消極的入浴者たちはいつだって風呂に入りたくないのだ。

夜。

風呂に入る機会を伺っていたが、ひっきりなしに人が風呂に入っては出て入っては出てを繰り返し、どう考えてもちんこを見られずに入ることは難しい状況にあった。

おれは考えることをやめて、意識を失うように、眠ってしまった。

朝。

起床。5時くらい。

みんなまだ寝ている。

今しかない!!

急いで、風呂のある地下へ向かった。
階段も二段飛ばしで降りていった。

息も絶え絶えで脱衣所に入る。
ざっと見た感じ、着替えが置いてない。つまり誰も入っていない。

ものすごいスピードで上着を脱ぎ、ズボンをおろし、ちんこを丸出しにした。
あまりのスピードにちんこも追いついてなくて、残像みたいになっていた。

浴場の扉を開ける。

あたりを見渡す。

内風呂、洗い場には人はいない。

よし。

外は?
露天風呂は…?


…いた。

なんか、だれかいた。

視力0.01なので、顔はまったく見えないが、だれかがいた。

最悪だ。

会釈されたような気がしたので、社会性を維持するためにこちらも会釈で返した。

外にはいる。

もうだめだ。終わった。内風呂にさっと入って、さっと出よう。
内風呂に入ろうとしたが、体洗わずに風呂入ってはいけないという暗黙のルールがあったことを思い出し、内風呂入る前に体を洗うことにした。

急いで体を洗った。
外にいる者がこちらに戻ってきてしまうかもしれない。
いそげ、いそげ。
目にも止まらぬ速さで、ちんこの先まで洗い切り、さあ、内風呂に入るぞといった手前。

ガラッ

もう一人誰か入ってきた。

顔は見えない。

急いで踵を返して、
洗い場に座りなおした。

その入浴者はこちらに目もくれず露天風呂のほうに行き、外にいる入浴者と話し始めたようだった。

もはや、これまで。
終劇である。

おれは風呂に入ることを諦めた。

いそいで脱衣所に戻り、ものすごいスピードでパンツをはき、上着を着た。

あまりの速さにちんこが追いついてなく、

残像みたいになっていた。




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