あやっぺ先生との別れ
「まんがライフオリジナル」2024年2月号をもって「ギャル医者あやっぺ」は最終回となります。
まずは、これまで応援してくださった方々に心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。
あやっぺはおれを漫画家にしてくれた作品であり、キャラクターです。
あやっぺ先生と共に生きた6年間はとても幸せな時間でした。
稚拙な文章ですが、少し「ギャル医者あやっぺ」の思い出を書いていこうと思います。
2017年7月25日。オモコロの4コマでギャル医者あやっぺは生まれました。
そのとき私は「レントゲンの写真をSNOWで加工している」というネタを思いついて、それなら医者はギャルがいいんじゃないかと、あの外見にしました。正直あやっぺという名前もその場での思いつきですし、4コマの一発ネタのひとつという認識でした。自信はそこまでなかったです。
「漫画はキャラクターである」
漫画家志望なら編集者から口酸っぱく言われることですが、「キャラものは面白くない」という偏った思想を持っていた当時の自分は、ひたすらに一発ネタばかり描いていました。
奇しくもキャラものに対する嫌悪を抱いていた自分があやっぺのようなキャラクターを生み出すことができたのは、あくまで一発ネタであるという認識であったからだと思います。もしこの時、キャラもので一発当てようなどと下心をもっていたならばあやっぺは生まれていなかったでしょう。
当時のオモコロ編集部からの「続けてみないか」という言葉も背を押して、試行錯誤しながら毎週1本ずつあやっぺを描いていました。
そしてーーー
けんさんをして「あの日インターネットが揺れた」と言わしめた、ギャル医者あやっぺ第4話が更新されました。
この日、初めて漫画家としての手ごたえを感じました。
その後、竹書房から声がかかり、「ギャル医者あやっぺ」は商業連載を始めるわけですが、おれは「始まった」瞬間にすでに「終わり」のことを考えていました。
始まりと終わりはワンセットという考え方なので、おれは人と出会った瞬間に別れを想像しますし、連載が始まれば終わることを考えます。旅行の初日に、家に帰ることを想像しますし、命が生まれれば、死ぬことを考えてしまいます。
なので、ギャル医者あやっぺが商業連載始まった当時、終わることばかり考えて相当つらかったです。周りからは「おめでとう」「いつかはアニメ化だね」なんて声をかけてもらってましたが、心の中は「終わる」ことで支配されてました。
始まらなければ、終わることなんてないのに、なんで始まってしまったのだろうとひどく苦しみ、もがいていました。
そして何より、いちばんきつかったのは、あやっぺとの別れを想像することでした。
最初はただの絵だろと思っていたのですが、苦しい時もうれしいときも、いつもあやっぺがそこにいて、いつしか我が子のような・・・いや、我が子であり、親友でもあるそんなすごく大事な存在になっていました。
あやっぺはかわいくない!と言われれば「かわいいだろ!!!」って怒るし、
あやっぺの担当編集のいーじまさんが最初「あやっぺは実際にいたら嫌ですけど…」っておれに言ったときも「おれはこんな医者がいたらいいなと思って描いてます!病気になってもあやっぺ先生みたいな医者がいたら救われるなあって思って描いてます!いたら嫌なんて、そんなこと言わないでください!!」
と強く嚙みつきました。
後にも先にもいーじまさんに強く当たったのはあのときくらいです。
最近、ありがたいことにラジオやイベントに出させてもらう機会が増えておれ自身のパーソナルな部分を見せることも増えてきたのですが、エゴサなどしてると「長イキは見てる分にはいいけど、実際に近くにいたら嫌」と言われることが多いです。
思えばおれは、あやっぺと同じだったんだなぁと書いていて思い出しました。
すみません、話が逸れました。
そんなあやっぺの別れを考えて苦しんでいましたが、「おれが死ぬ瞬間まで連載していれば、別れのつらさはないのでは」と考えるようになり、100年続く漫画を目指してあれこれ手を尽くしました。
インスタやTikTokに漫画を流したり、イベントで単行本手売りしたり、年賀状企画をやったり、とにかくあやっぺをスターにさせてあげるためにがんばりました。
しかし、その願いは叶いませんでした。
「次にくるマンガ大賞」にノミネートしていただいたり、名だたる先生方にSNSや単行本の帯などで紹介してもらったりと、チャンスはたくさんいただいたのですが、
自分の力不足で、あやっぺをスターにさせてあげることができなかったです。
連載の終了は、キャラクターの死を意味します。終わってもあやっぺを描き続ければいいでしょうと思われるかもしれませんが、市場価値のないキャラクターを描き続けることは死よりも残酷なことです。
漫画家としての洗礼を受けました。
これまで漫画を残してきた偉大な先輩たちのほとんどは、この別れを経験し、大きな風穴を開けてきたのです。
おれの好きなアニメのセリフがあります
覚えておけ、このドリルは宇宙に風穴を開ける
その穴はあとから続くものの道となる
倒れていった者の願いと
あとから続く者の希望
ふたつの思いを二重らせんに織り込んで
明日へと続く道を掘る
『劇場版天元突破グレンラガン螺巌編』より
あやっぺとの別れはつらいですが、この経験が、自分にも、周りの人にも、そして作品を応援してくれた人たちにも何か良い影響を与えることが少しでもできたのなら、良かったのかなと思います。
自分はもちろんこれからも漫画を描き続けます。
ギャル医者あやっぺに関しては、もうギャルたちの「うぇ~い」が聞けなくなるのはさみしいですが、おおむね満足です。
ただ、もう少しだけ、子どもたちに届いてほしかったなという気持ちはあります。
子どもの頃は医者=怖いってイメージだったので、こんな自由でふざけた医者がいたら子どもの頃の自分も喜ぶかなあと思って描いてました。
連載が終わっても、単行本や電子書籍はありますので、もし良かったら子どもたちに読ませてあげてほしいです。
また、打ち切りみたいな書き方してますが厳密には打ち切り宣告されたわけではなく、自然な流れでそろそろ終わりましょうかって感じになりました。未熟な自分を何年間も連載させてくれた編集部、そして漫画を読んでくださった読者の方々には感謝してもしきれません。
ほんとうにありがとうございました。
なんかくっせえ文章になってしまいました。
ギャグ漫画家のくせに笑いに昇華できず、漫画にもせず、こんなところでぬちゃぬちゃと水分を含んだ文章をつづっていて恥ずかしい限りです。
以上ですかね、「ギャル医者あやっぺ」最終巻も春頃発売されると思いますので、よければそちらもよろしくお願いします。
長イキアキヒコ先生の次回作にご期待ください!!!!
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