Google ClassroomとMoodle (1)
※ちょっと加筆しました。あと細かな誤字脱字の修正。2020/8/18 8:30
うちの自治体でもGoogle Classroomが導入されました。
悪くないんだけど、12年ほど前から、出身大学で所属していた研究室で導入しているLMSのMoodleと比べると、イマイチだなぁと思っています。
(ちなみに卒業・修了後もずっとMoodleの管理を任されている)
Googleが本気を出せばもっとすごいものができると思うのだけれど、今のところはLMSとしては最低限の機能のみの気がするのです。
MoodleはオープンソースのLMSで、1999年から開発されている。いわゆる老舗の部類です。
UIについてはGoogle Classroomほどモダンではないが、機能面では群を抜いていると思います。
ClassroomとMoodleについては
こういう記事があったのですが
比較対象はMoodleです
と言っている割にはMoodleとの比較がなかったので独自で比較してみようと思います。
※この記事に対する否定的なものではありません。「Google Classroomでできることの紹介」としては有用な記事だと思います。ただ、個人的には「Moodleの方が優れている面も多い」と思っているので「Moodleと比較している」といいつつどのように違うかについて触れていないことには残念です。「Google Classroomではこんなことができる」と紹介していることのほとんどはMoodleでもできます。その辺に触れられていないので、まるで「Moodleにはその機能がない」ように受け取られかねません。この記事は「Moodleに対するネガティブな印象」につながらないように公開するものです。「Moodleもすごいよ!」という感じです。
<G SuiteとMoodleとの比較>
導入の容易さについて
Google Classroomが教育機関で導入されているならClassroomの導入は簡単です。…当たり前ですが。
逆に言うと、校長とか、教育委員会とかそういうレベルで導入しないと機関としてはG Suite For Educationが使えません。個人用のアカウントでもClassroomが使えるようだけど、EURA(使用許諾契約書)では禁じているはずなので、おそらく契約違反になるのでやめたほうがいいと思います。
Moodleの方は、やろうと思えば個人でサーバー立ててそこにApacheとPHPとDB入れれば動くので、敷居は高いけれど、自由は利くかな。こちらも、教育機関で導入されているならそれを使えばいいんだけど。(その場合勝手に機能を追加するのは難しくなるかも)
UIについて
UIについてはGoogle Classroomの方がモダンな印象です。Webアプリの文脈で作られている感じですね。Moodleの方はよくも悪くも昔からのWebサイトの感じからは抜け切れてはいません。それでも昔に比べてほとんどの部分は今風には書き換えられているので、いわゆるAjax的な(表現が古い)動的な書き換え、順番をドラッグ&ドロップで入れ替えたりとかファイルをドロップして選択したりとかはできます。
というとあんまりUI変わんない気がしてきたのですが、なんだろうこの前時代感は。単純にデザインの問題かな。
こういうテーマを導入すればもしかしたらGoogle Classroomっぽくなるのかもしれないけど、高い…。あとPaypalが個人的に好きではないのでちょっと…。
カスタマイズ性について
これはMoodleがプラグイン形式で機能を追加できるので、優位性があるでしょう。あぁ、でも、個人でサーバー立ててる場合に限るかな。教育機関で導入している場合はサーバー管理者にお伺いを立てないと多分駄目。
LevelUp!というGamificationができるプラグインもあるので、ポイント集めてロックを解除する、みたいな「学習をゲーム化する」こともできます。
Google Classroomは本当に基本機能に絞られている感じがします。「まぁこの程度ができれば十分だよね」みたいな感じであえて複雑さを排除しているような感じすら受けます。これも考え方としてはありですかね。
Google Classroom … MacやiOS
Moodle … WindowsやAndroid
のような感じがします。カスタマイズしたいならMoodle、みたいな。
…と思ったら
アプリと連携もできるようなので、そのことも考慮に入れるとGoogle Classroomもカスタマイズ性はあるのかもしれない。連携がどこまでかは分からないけれど。評価とかとは深く統合はされてないんじゃないかなー(憶測)。
G Suite For Educationが組織レベルで導入されている以上、変な変更は加えられなさそう。
学習者の行動の追跡性について
これはGoogle Classroomより前にMoodleを使用していて気になっていたのですが、学習行動の追跡性についてはMoodleの方が優れていると思います。基本的にすべての行動についてログが取られているので個人個人に対してどの程度アクセスしているのか、とか何に頻繁にアクセスしているのかとかが分析できます。学習者の行動の追跡についてはGoogle Classroomの比ではありません。
学習者からの意見などの積極的なフィードバックだけでなく、潜在的に学習者が何を求めているのか、どのように改善していけばよいのかを行動履歴から追えます。
この辺は教育に対する理念の違いだと思います。Moodleは構成主義(学習は知識を単にコピーするのが目的ではなく、学習者が対象について、自分自身で(場合によっては学習者ごとに違った)理解をすることであるという主義)に基づいて作られているので、そうなっているのだと思います。Google Classroomからはそういう理念みたいなものは感じません。機能があるだけ、みたいな。
ここからは元記事で触れられていることに対する個人的な感想です。
<元記事に対する個人的な感想>
「スマートフォンベースで利用できる」について
Google ClassroomもMoodleもアプリがあります。
記事では
GCはiOSでもAndroidでもアプリケーションが整備されています
と、Moodleには無いような書き方ですが、Moodleにもあります。通知もきちんとされます。
○モバイルアプリ - MoodleDocs
https://docs.moodle.org/3x/ja/%E3%83%A2%E3%83%90%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%A2%E3%83%97%E3%83%AA
○AppStoreとGooglePlay
設定でONにする必要があるので、個人でサーバー立ててるならONにすればいいし、そうでなければサーバー管理者にお伺いを立てればいけると思います。
「講義資料管理が容易」について
G Suite for EducationであればGoogle Driveの容量は無制限で使えます
についてはその通りです。Moodleだとサーバー容量によります。この点はさすがG Suiteです。ただ、記事でも触れられていますが、講義資料の容量はそんなにないので、実質的には容量はほぼ問題にはなりません。
Moodleですが、YouTubeやGoogle Driveとのリンクも別段難しいわけではありませんので、そういう意味では「容易」かどうかについては語弊があると思います。もちろん、ClassroomとDriveはG Suiteとしてパッケージ化されているので一旦ログインしてしまえばGoogle Driveを無制限に使用できる、という点では「容易」かもしれませんが、サーバーに十分な容量があればMoodle上にも資料はアップロードできるのでMoodleも同程度に「容易」です。必要に応じてYouTubeやGoogle Driveへのリンクをすれば容量的な心配もしなくてもよいです。まぁ容量を心配したこと無いけど。
「課題・レポート管理が容易」について
これについては、Moodleの方が細かな管理ができます。
Google Formsを指して
問いに対して記述を求めることも、選択式の解答を求めることができる
という話をしているのだと思いますが、Google FormsのようなことはMoodleでもできますし、更に細かな設定や分析もできます。
細かな設定をすると、ちょっと難しくはなるので「容易」さはないかもしれませんが、単純な問いや解答を求めるだけなら十分「容易」だと思います。
また、Moodleの「小テスト」や「レッスン」モジュールなら自動的な採点や複数回のチャレンジ、条件による分岐(例えば解答の正誤による分岐など)もできます。Formsは本当に単純な機能のみの印象です。それを指して「容易」というのは違うような気もします。
ファイルの提出も要求できる
のもMoodleもそうですし、こちらも細かな設定ができます。
Moodleも課題に対する評価も予め設定しておくことができるので、ある程度は自動で評価することができます。CSVでダウンロードすることもできるので、肝心な部分はExcelとかそれこそGoogleスプレッドシートとかで管理することもできますしね。
Google Classroomでの利点は自動でコピーを作成して個々に配布、各々で違うものを提出したものを別々に採点して、またその個人に返す、みたいなことができる(フローとして準備されている)というところだと思います。
Moodleでも「インラインで注釈を加える」みたいなことでフィードバックを返せるようですが、使ったこと無いのでよく分からないです。
○提出物に注釈をつける - Moodle Docs
https://docs.moodle.org/3x/ja/%E8%AA%B2%E9%A1%8C%E3%81%AE%E4%BD%BF%E3%81%84%E6%96%B9#.E6.8F.90.E5.87.BA.E7.89.A9.E3.81.AB.E6.B3.A8.E9.87.88.E3.82.92.E4.BB.98.E3.81.91.E3.82.8B
「学生とコミュニケーションを取りやすい」について
Moodleには「フォーラム」という掲示板機能があります。自由な場所にいくつでも設置できるので、目的に応じて設置するとよいでしょう。
ただGoogle Classroomに比べて少し階層が深くなるのでアクセスはしにくくなるかもしれません。
コミュニケーションを「取りやすい」かどうかについても「機能がある」かどうかでいうならMoodleにもあります。
また、SNSみたいにMoodle内のメッセージ機能もあるので、コミュニケーションの「取りやすさ」で言ったらこっちも負けていません。また、このメッセージ機能、個人宛でも独自で設定したグループ宛にまとめてでも送れますし、メール登録していればメッセージが送られてきたことをメールで知らせてもくれます。
「教員に対して、あるいは学生に対して簡単にメールを送ることも出来ます」について
G SuiteはGmailが統合されているので、そこはメリットですね。ただ、Moodleのほとんどの通知はメールで飛びます。例えば、前述の「フォーラム」で書き込みがあったこともメールで知らせてくれます。この設定はのべつ幕なしに飛ぶわけではなくて「フォーラム」毎とか「自分の書き込みに対する返信」毎とかに設定できます。
ただ、メーラーではないので任意のメール送信はできません。でもメッセージで送られたものはメールでも送られるので、ほとんど似たようなものですけれど。
「ゼミ生に聞いたGCの利用感」について
ムードルでは、コピーして別の形式に転換して講義資料を保存していたけど、クラスルームは簡単に保存できて
とありますが、それはMoodleのせいではなくて単純に掲載のファイル形式のせいではないでしょうか。多分G SuiteのGoogleドキュメントやGoogleスプレッドシート、GoogleスライドをWordとかExcel、PowerPoint形式で保存していたってことだと思うんだけど(違ったらすいません)、それはMoodle側からG Suiteの方にリンク貼ればいい話で、多分実際Moodleではそうしてたんだと思うんだけど、ClassroomはGoogleドキュメントとかと統合されているのでClassroomから開けば外部アプリケーション用に保存しなくていもいいみたいな感じだろうか。まぁそれだって別形式で保存しなければClassroom以外では開けないのには変わりがないので違いはないと思うのだけれど…。Moodleでリンク貼るパターンでも、Googleドキュメントとかでしか開けないのはClassroomのときと変わらないはず。あえて別形式で保存するかどうかは選択肢としてはオプションで、GoogleDriveのファイルはネット環境さえあれば常に開けるから問題ないとは思います。
まぁ本当のところは分かりませんが。
結論
「まぁG Suite For EducationとMoodle両方使えるならいいとこ取りすればいいんじゃない?」と思います。LMSとして考えるならMoodleはGoogle Classroomではできない機能も一杯あるのでそれをどう使うかだと思います。MoodleはOAuth2.0使えるようなので、やればG SuiteのアカウントでMoodleにも入れるはずです。ただ、うちの自治体で導入したG Suiteの方でOAuth2.0の機能が切られてるので無理っぽいですけどね。Gmailも切られてるのでGSuite For Educationの存在意義自体を見失っています。Gmail使えないGSuiteって…。OAuth2.0が使えればG SuiteのアカウントだけでMoodleも使えていいかもしれないです。