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ようこそ 試練

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執筆者 bliss

「人生無駄なことは何一つない。不登校の経験があるから、今があるんだね。おめでとう。」

この言葉は、2022年11月、息子が一番苦しかった時に支えてもらったスクールソーシャルワーカーからいただいた言葉です。

長く不登校だった息子が、大学に合格しました。自分のつらかった経験を通して、「子どもについて深く学びたい」と自分で道を決めたことをスクールソーシャルワーカーに伝えた時のことでした。

その言葉を聞きながら、私は改めて母親になった18年間を振り返りました。その間には、試練というべき酸っぱいレモンもありました。しかし、今はそれらが転機となり、おいしいレモネードになりつつあることを実感しています。

When life gives you lemons, make lemonade.という英語の格言があります。人生がレモンをよこしてきたら、レモネードを作ろう、という意味で、試練も転機に変えていこうという格言です。このエッセイでは、私がどのようにレモンをレモネードに変えてきたかを書いていきたいと思います。

自分ではどうにもならないことが起きて

私にとってのレモンは2つあります。それはパートナーとの離婚、そして息子の不登校です。

これらのレモンを通して「人生には自分ではどうにもならないことが起きる」ということを学びました。それまでは、「自分ががんばればなんとかなる」と思っていたけれど、その考えが変わる大きなきっかけをくれた、この2つのレモンです。

子どもが3歳になった頃から、パートナーは仕事ができなくなってしまいました。ずっと家にこもってごろごろしているパートナー。一方、私は経済的な不安と、仕事・家事・子育てをワンオペでしなければならないことに、イライラしっぱなしでした。それでも、我が子から父親を取る選択肢は全くなく、結婚生活を維持する方法を模索していました。

ところが、息子が10歳の頃です。自分の誕生日にパートナーから「家を出ていきたい」という話がありました。なんという誕生日プレゼントなのでしょうか。「家が決まらないんだ」と愚痴をこぼすパートナー。私としては、そんなことを言われたって困るという日々が続く中、パートナーは私と子どもがいないときにこっそり引っ越してしまいました。

後から知ったのですが、実は、パートナーは離婚するつもりはなかったらしく、「別居して自分がいないと困ることを知ってほしかった」と話していました。私は、当時はその考え方についていけなかったこと、別居によりむしろ息子との二人の生活の方が楽しいことに気がつき離婚を決意しました。
 
もう一つの試練ともいえるレモンは、息子の不登校です。中学校でわが子の不登校生活がスタートしました。私は、わが子がみんなと違うことが受け入れられず、同時に自分の子育てを全否定された感覚に陥りました。悪循環でけんかにしかならない。どこに相談に行っても全くうまくいかず「むしろ私がいなければ、この子は施設に行ってもっといい子になるのでは?」と、どんどん脳内が負のループに入っていく毎日。そんなふうに私は自分を追い込み続けていました。

レモンを味わってわかってきたこと

人生で二つの試練とも言えるレモンの酸っぱさを味わった私ですが、驚くことに、それを経て、日常が少し変わっていくことにも気づきました。

一つは、パートナーとの離婚により、母子ともに笑顔が増えたこと。

いわゆる一般的な家族の形にこだわってきた結果、笑うことも忘れ、周囲の常識から外れないようしがみついてきた、ということに気が付いたのです。毎日が楽しくなると、いわゆる普通の家族の形ではないけれど、笑って過ごせる日々のほうがいいと思えるようになり、自分でそれを選択できることもわかりました。

そしてあんなにも落ち込んだ息子の不登校ですが、親の会や学習会、心療内科に通うようにもなり、気持ちを言葉にして吐き出し、泣くということを繰り返していると少しずつ、気持ちがラクになっていることに気づいたのです。もちろん時には自分を追い込んでしまうということもありましたが。

それを繰り返していく中で、気持ちが楽になる時間が少しずつ長くなっていき、悩んでいるのは自分だけではないと、視野を広く持って、周りが見られるように変わってきたのです。その過程で、弱みを見せられないプライドの高い自分を卒業して、「困ったときには弱みを見せてもいい」「それを受け止めてくれる温かい人がいる」ということを感じられるようになりました。「不登校」というキーワードがあったからこそ、多くの人と出会うことができ、私の人間関係が豊かになったのです。

そんなときに、コロナ禍となりました。このときに出会ったのが、シングルマザーズシスターフッドのセルフケア講座です。オンラインでのレッスンなんて、やったこともなく、全く知らなかったけど、おそるおそるスマホで参加するとおもしろい発見がありました。

画面の向こうにいる、私と同じようにシングルマザーになった人たち。それぞれみんな状況は違うのだけど、日本各地に仲間がいるんだという不思議な安心感がありました。そもそも、オンラインで人とつながりができるということが、私には驚きでした。

レモネードが出来てきた

シングルマザーズシスターフッドにはセルフケア講座だけでなく、さらに学びや貢献の機会があります。オンラインの楽しさを知った私は、さらなる学びや貢献の機会に飛び込んでみることにしました。すると、新しい出会いと、活動しながらオンラインスキルが身についていくことが楽しくて驚きました。大人になってこんなワクワクすることに出会えるとはと、感動しました。

気づけば私は自分を必要以上に責めることが少なくなり、時にそういう気分になったとしても短時間でやめるようになっていきました。また、我が子に余計なことを言うことが減り、一緒に外食をしたり、洗濯物を干すなどお手伝いをしてくれたりなど良好な親子関係に変化していきました。全国に仲間も増え、さらに豊かな人間関係が増えました。

それは、まさに脱皮し羽化したような感覚でした。

もし離婚と不登校というすっぱいレモンがなかったら、さまざまな活動をして新しい自分に出会うことも全国の仲間に出会うこともなかったわけです。

私の豊かな人生のためには、離婚も不登校も宝物のような大切なものだったのです。

これからも、私の人生にすっぱいレモンはやってくることでしょう。しかし、私は大きな2つのレモンから次のことを学びました。

「いろんなこと全てが人生の過程。渦中は大変でも、その経験があるおかげで、出会えた人がいる。その人に出会ったことで人生は、どこまでも豊かになる。」

私はこれからも、新しいレモンが来たら、今度はどんなことが学べるのだろうとワクワクしながらレモネードに変えていくつもりです。

そして、「レモンはレモネードにできる」ということを、こうしたエッセイをとおして、多くの人に知ってもらう活動をおこない、笑顔があふれる未来への種まきをしていきたいと思っています。

ようこそ 試練(bliss)

最後までお読みいただきありがとうございました。このエッセイは、シングルマザーズシスターフッドの寄付月間キャンペーン2022のために、blissさんが執筆しました。

寄付月間とは、「欲しい未来へ、寄付を贈ろう」を合言葉に毎年12月の1ケ月間、全国規模で行われる啓発キャンペーンです。シングルマザーズシスターフッドは寄付月間2022のアンバサダーにもなっています。

今年のキャンペーンでは「Turn lemons into lemonade.」をキャッチフレーズに、シングルマザーが試練を転機に変えたエピソードをエッセイにして、人生を前向きに進める一人ひとりのシングルマザーの生き方を祝福します。

ご共感くださった方はぜひ、私たちの取り組みを応援していただければ幸いです。ご寄付はこちらで受け付けております。




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