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私なら「大丈夫」

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執筆者:うずらのたまご

「大丈夫。大丈夫。」

その頃の私は、毎朝の通勤電車の中で、この言葉を呪文のように唱えていた。混み合っている車内の小さな隙間に、ちょうどいいくらいの小さな深呼吸をしながら。

今の会社で働き始めて1年経つ頃。

もう1年経ったはずなのに、仕事の仕方に自信が持てなかった。同僚が残業する中、終業チャイムと同時に帰ることに引け目を感じ、それでも容赦無く降ってくる大量の分析作業と納期に押しつぶされそうで、いつも心が緊張していた。

当時同居していた元夫に合わせる形で「土日休みで残業なし、18:15までに子どもをお迎えにいける」という条件を最優先に今の職場を選んだ。自分のキャリア設計は二の次だった。そこも含めて最終的には自分で決めたはず。

「本当にこれでいいの?」と、ふとした瞬間に浮かぶ迷いを「大丈夫」という言葉でかき消した。

ある日、全社員向けに、新プロジェクトのアイデア募集の告知があった。経営層へのピッチコンテストを経て、採用されれば起案したプロジェクトを担当できる。

「これだ!」と思ったものの、その頃は元夫と別居をして、幼い息子と二人暮らしになったばかりだったので、新しい環境下で応募案を仕上げられる自信がなかった。

それでもどこかで諦められなかった。

学生時代にワクワクしながら学んでいた自分が、前の職場で夢中になって仕事に打ち込んでいた自分が、そして、息子の人生が豊かであってほしいと想う母親の自分が、「本当にこれでいいの?」と問いかけてきた。

「よくない。ちゃんと自分の足で前に進まないと。」

締切まで1か月を切った頃、「今が自分のキャリアに向き合う時だ」と覚悟を決めた。

17時の定時まで働き、そこから子どものお迎え・夕食・お風呂・寝かしつけを終え、深夜残業にならない22時まで通常業務の続きをした。

そこから、終わっていない家事をし、いつも24時くらいからコンテストに向けたリサーチを始め、ビジネスアイデアを夢中で考えた。くだらないアイデアしか出てこなくても、手と頭を止めなかった。止めたくなかった。

一人で煮詰まってきたら、恥を覚悟で知り合いに頼って壁打ちしてもらった。自分の至らなさにも向き合おうとプライドは捨てた。

すると、最初は若干鼻で笑われながら相談に乗ってもらっていたアイデアが、ちょっとづつ磨かれ、ある時からこんなコメントをもらうようになった。

「……これ、合格するんじゃない?」

ピッチコンテスト当日。保育園の送り迎えの道中で何百回と練習した10分間のプレゼンテーションのセリフは全てそらで言える。

「大丈夫」

その一言を自分に言い聞かせて、発表を始めた。

あれから2年経った今、私は、自分が提案したプロジェクトのリーダーをしている。

「大丈夫」は、もう自分を誤魔化す言葉ではない。

自分のキャリアを切り開く信念の言葉だ。

正直なことを言えば、今も悩みは尽きない。プロジェクトを進める中で、次から次へ生まれる困難は、応募時の苦労の10倍以上ある気もしている。時折、心のろうそくの火が消えそうになる時もある。

でもそうした時に、振り返るのだ。チャレンジし、努力をし、結果を掴み取ってきた過去を。その実践者は間違いなく、私自身であることを。

だから、私は大丈夫。

時々忘れてしまいそうになるからこそ、何度も自分に声をかけたい。

さあ、今の行動も未来の私の誇りにしていこう。

私なら、大丈夫。

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