Sparkling Wide Pressure / Fake Spells(bandcamp self release)

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bandcampに於いて、
僕のようにコレクトを継続していると、
いったいどのようなきっかけで知ったのか全く覚えていないようなアーティストも居ると思うが、
Sparkling Wide Pressure(以後SWP)もそのうちの一人であり、
リリースは現在トータル54作品で、
2008年の初回リリースから12年継続して年間最低は四枚はアルバムをリリースしていることになるが、
これだけの滂沱なリリースと作風と質を維持していることは驚異的なことだと感じる。

スパークリング・ワイド・プレジュアこと、
現在37歳である彼はテネシー州のサウンドアーティストであり、
フランク・ボー(Frank Baugh)という本名名義ではペインターとしての顔を持つ。
ペインターとしての画風は少し淡いピンクの質感が多く印象的だが、
SWPのリリースにおいてはアートワークは自由でもっと伸び伸びとしている印象だ。

肝心のサウンドといえば、これがなにやら形容しがたく、
彼の印象は基本的にギタリストだとずっと感じているが、
ギターを基軸に派生するサウンドマテリアルは、たまに挿入されるボーカルも含めて、
非常にフリーフォームかつ、それでいて写実的で、雑多なのに物凄く聴きやすい、という感想に落ち着かせてもらおう。

無数のアルバムをレビューするのはかなり労力が要るので、
bandcampにおける6月18日の全米黒人地位向上のための寄付キャンペーンのタイミングで、
リリース通知を確認できた「Fake Spells」に絞らせてもらう。(だがしかしリリースの日付は2020年2月3日となっているのは不可解ではある)

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初夏のさなかではあるが、
蜃気楼が浮かぶようなボイスサンプルのループが印象的な「Calling Circles」をイントロダクションに、
全体的にものすごく夏の質感が強いと感じる。

続く「Once Inside Open the Door」。
詩的なワードにはなるが「夏のもや」というような言葉が浮かんでしまったが、
一聴してこの楽曲を聴いて感じたのは、
かつて日本でも国内盤が発売された「Rebecca Gates / Ruby Series」で得られるさわやかな高揚感と似ているということだ。

スポークン的なボーカルも主体ではなく、ピッチ加工を繰り返すように基本的に楽曲の一部でしかない彼のスタイルだが、
この2曲目に関すれば、かなりこれまでよりエモーショナルには感じられる瞬間があり、
ときどき、現在より若い頃のビル・キャラハン(Smog)のような語り口をあっさりもってしまうし、
ローファイ寄りながらも、サウンドの説得力から
一人きりで楽曲を手掛けていたマルチトラック期のシンガーソングライター達の、
誰よりも抜きんでるような気がしてしまうが、
SPWはとくにこれといって物凄く歌の要素が強いものはこれからも作らないだろう。

2曲まで言及させてもらったが、それ以降の楽曲については、
良い意味で特に記憶に留まることなく、多少のストレスも伴なうことなく
気が付くとレコードの針がレーベル面付近に達しているような心地になってしまう。

bandcampページのジャンルタグの表基順序は「experimental」「abstract」「ambient」とあり、
(僕は個人的にbandcampのジャンルタグほど重要な表明はないと思っている)
「experimental」については形容できない音楽性はなにもかもこのタグに落ち着くのはしかたないが、
みっつ目のキーワードタグである、アンビエントミュージックとは、もしくはアンビエントという、
音楽への姿勢そのものへの問題であり、
音楽を構造としてとらえるか、現象としてとらえるかの差であって、
筆者自身の場合は、やはり現象と捉えることが多いので、
音楽が現れているのだと感じることはアンビエント的な姿勢だと言える。
そしてSPWの音楽自体もただ現れては自然に消えていくようなものに感じる。

もしこのレビューをきっかけに気に入って貰えれば、
一作づつアルバムを買うよりも、
75%オフであるフルディスコグラフィーを少しお小遣いを貯めてでも、買われることをおすすめしたい。


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