そこにいる - soko ni iru 1 and 2(Compilation of Give me little more 1 and 2)

イントロダクション

長野県にある松本駅を降りて、表通りを真っ直ぐいくと、
現地にゆかりのある草間彌生の画風によって彩られたバスが走り、
飲み屋に挟まれた大通りをたまに荒い運転で走行するスポーツカーは松本走りと形容され、
メインストリート正面から右手のやたら渋めの絶妙なラインナップのエフェクターをそろえたオグチ楽器の店員から、
「君のような人はライブスペースGive Me Little More(通称ギブミー)に行くと良い」と告げられ、
僕の足先は左手の縄手通りに傾いて、その明らかにただの民家であった戸口をくぐることになる。

パンデミック下において現在、ゆっくりとイベントを再開するも、あらゆるライブスペースは未だ苦境に置かれているが、
ギブミーもその一か所のうちであり、
こと長野県においてはギブミーのような雑多でオルタナティブな音楽性をほこるライブスペースは貴重で全国的に見てもかなり面白いものがあるので、
世相が落ち着いたら是非、足を運んでもらいたい。
今回、6月5日に実施されたbandcampのアーティストへの還元キャンペーンに際して、
「そこにいる - soko ni iru 1」と「そこにいる - soko ni iru 2」という、
ギブミーに所縁のあるアーティストを収めたコンピレーションアルバム(CD化すると2枚組の勢い)が届けられたので、
頼まれてもいないが各1曲ずつライナーノーツを書くことで貢献したいと思う。

このコンピレーションのキーパーソンの二人であるギブミーリトルモア店主、新美正城さんと、
ギブミーから徒歩5分のオルタナティブレコードショップMarking Records店主、RikoさんについてはメディアサイトTURNの記事が詳しいので参照してもらいたい。
http://turntokyo.com/features/givimelittlemore-markingrecords/

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そこにいる - soko ni iru 1 (Compilation of Give me little more)

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01.The Instant Obon - よさこい土左衛門

人生の節目ごとにキセルのメンバーに遭遇することがたびたびあるというのはおそらく僕だけだろう。
初回は17歳のときだったか、広島駅から尾道へのライブ出演を控える辻村兄が広島市では有名なおにぎり屋むさしの店舗前で、
辻村弟に向けて「むさしのおにぎり美味いらしいから食べへん?」と電話で尋ねている背後におなじく僕はおにぎりを買うために並んでいるのである。
その頃のスピードスターからのメジャーデビューはすっかり過去の印象だが、
やっぱりこのコンピでの名義インスタントお盆こと辻村兄さんが松本市内に居ることはギブミー界隈にはエポックメイキングなニュースのひとつである。
当時はそんなことが起きていたのはつゆ知らず、同市内の中古レコードショップほんやらどうでひさびさに「近未来」などを買い直していたが、
メジャー以降もカクバリズムに精力的に在籍し、プロデュースワークを手掛けたmei eharaさんなどはもうすぐ広い認知を得そうだし、
僕は辻村兄のマルチプレイヤーとしては実はドラミングに非常に味わいがあるのではと感じているので、こちらのソロ名義も末永い活動を希望する。
楽曲自体はお盆というより、三味線のリフを基調とした人力ダブソングで、いきなり正月を迎えなおすような勢いの曲。

02.TANGINGUGUN - 消えた

ギブミーを説明するには新美正城率いるTANGINGUGUN(タンギンググン)は最重要バンドでありながら、あまり力をこめない紹介を心がけたい。
現在はギターボーカル新美正城、ベースボーカル平林沙織、ドラムの関雅文の編成なのだが、
そこにやはりどうしても同バンドにおいてシンセサイザーを担当していたイッセーくんの話を加えないといけないのだろう。
バンドにおいてはHermann H.&The Pacemakersのウルフ的な存在といったら少し語弊があるが、
イッセーくんは楽器を担当していたというよりは完全にそういったマスコット的存在であったし、
この先、タンギングの活動に関与しないのはきっとこれまでのビジュアルイメージでの支障をきたすのかもしれないと思いながら
どうせ彼らの仲は良いと思うので、イッセーくんは仕事上がりにギブミーで延々と瓶ビールでも飲んでいろとも思っている。
華奢なわりに鉄壁のベースラインを弾きこなす沙織さんのエピソードとしては、
韓国ツアーにおいて、エレキベースがトラブルで鳴らなくなり、テック担当として沙織さんの実父が日本から韓国へ電話をかけて修理を指導したそう。
コンピ収録曲「消えた」はダブっぽい打ち込みのリズムを取り入れて、沙織さんボーカル主体の曲であるが、
普段はその老けこんだ風貌の割には純朴な歌声をもつ新美さんとのツインボーカルや、
のほほんとしたまささんこと関雅文さんの人柄をあまり反映していないような生ドラムのリズムキープが光っているので、
バンドの最新作「安い呪文」は同bandcamp内でも配信中であり(Ryan Powerがマスタリングを担当)、この他にも音源やライブをぜひ聴いてみて欲しい。

03.Herbraids - Forest

マーキングレコーズ店主でもあるRikoさん、ゲストハウス東屋のスタッフであるさっしー、
そして豊富な音楽経験を誇るチフミさんによるガールズライオットバンド、Herbraids(ハーブレイズ)。
彼女たちはギブミーを中心点におくと、ごくごくその近所で生活をつづけている。
既存リリースのデモ音源に比べると、もっとも音源として彼女たちの一体となった音楽性を再現できているトラックが提供されている、
ライブではコーラスやメインボーカルをとっかえひっかえ、リズムマシンを主体にベース、ギター、キーボード(ときにバイオリン)のパフォーマンスが好評。
ギブミーでのイベント後に携帯電話を紛失したらしいチフミさんから電話がかかってきてその際に「わたしの番号を登録しておいて」と言われ、
それからもこちらからは特に用事はないものの、僕の携帯のメモリにチフミさんの番号があるのはじわじわとくる。
そんなチフミさんのアメリカ在住時でのワークショップ経験なども興味深くギブミー前の路上であぐらをかきながら聴いていたが、
そういえばRikoさんと新美さんのお気軽な別プロジェクトのパンクバンドでギターを逆さにかまえて弾いてくれという依頼があった気がするがいつかやってみたい。

04.nu - 厳しい子

ライブイベントの打ち上げに参加する際には堂々と「わたし1000円しかありません」としたたかに自己申告するナルミちゃんの愛称で界隈で親しまれるnu(ニュー)。
きびしい正社員生活をそれなりに謳歌しつつ、昼休憩は息抜きに喫茶店で過ごしているところにばったりと遭遇したこともある。
音楽活動はまだ序盤の最中であり、そもそものリスナーとして鉄のような根性があり、
自主で印刷した心に残る数々の名演ライブリポートを載せたフリーペーパーやZINEをお布施のように買って頂きたい。
そんなハードコアリスナーが創る音楽というのはやはりセンスに裏打ちされたものがあり、
「厳しい子」という楽曲はアパートの自室でプチ絶望したいち女子の(翌日にはどうせ綺麗さっぱりしているくせに)
感情がうまくあらわれたトラックになっている。
ノートパソコンを所持していないからデスクトップパソコンを持ち運んでライブ演奏しようかなと言いだしたのは、
それはそれで実現して欲しかったが、ライブパフォーマンスもてんやわんやしながらやり遂げる感じはナルミちゃんらしいです。

05.LAP - me

福島県郡山市のバンドRebel One Excaliburのメンバーのソロ名義で、
低音含有率高めのミニマルテクノトラックを提供したLAPはSoundCloud上やbandcampでもその他のリリースが充実しているようだ。
あらゆる音楽形態がボーダレスに交差するギブミーの雑多な実態をとらえた様子はこの楽曲以降、顕著に感じられるかもしれない。
そういえばギブミーのイベントはバンド達が出演する時間帯のボリュームよりも、
転換のDJタイムの方がミキサーやスピーカーのピークを振り切ってかなり爆音に設定しているので、
このようなクラブチューンもそれほど立派なサウンドシステムで無いながらも、荒々しく浴びるように聴けるだろう。
ある日のイベントではレコード針をレコードにふいに乱雑にこすってしまったり、
45回転用のアダプターがターンテーブル上に落ちる音までもが物音ノイズとなって鳴り響いてしまっていた。

06.Tokyo Harakiri Underground - Tokyo Day Trip

イントロが鳴り響いて、サウンドのノリからなんとなくTM NETWORKだとか90年代前半の日本音楽シーンを彷彿としてしまったが、
歌詞においては「インドのおのぼりさんと銀座のおのぼりさんが~村上春樹と月亭方正が~」などと一体なんだというのだ。妙に耳に残ってしまう。
バンド紹介文の一部に「外国人から観た間違った日本のイメージを体現したバンド名」とあるが、
音源すらもそういう感じであり、確かに日本の一部の音楽が国外で持てはされるのは総じて文化に深い理解がない故の勘違いを伴う現象なのだ。
多分こういう音源では落ち着きをはらっているがライブでは暴れ放題していそうである。

07.JKCLUB - yami

ジャンク・エレクトロユニットというふれこみのJKCLUB。
日本のスラングで言えば女子高生クラブなのだろうかと思ったがJ=自由でK=かけがいのないクラブだそうです。
心が汚れていました。すいません。
こちら「yami」という楽曲も曲順を入れ替えてシームレスに聴けば、
先述のLAPとイベントに組まれていても違和感のないラインナップにはなるが、
パーカッシブなループフレーズや、ハンマービート気味のビートシーケンスが飽きさせない展開と工夫を散りばめていることがわかる。
少しだけ異種テクノユニットSpace Africaのような心地よい薄めのサウンドの質感をレイヤーに感じる。

08.Sho Sugita - scratched by the nails of time's subtle claws

Sho Sugitaなる名義に誰かと思えば、
プロフィール写真を参照すると、
明らかにこの界隈では西洋人に見える風貌からかスティーブンと呼ばれている男性と同一人物であった。
スティーブンことSho Sugitaは新美さんと共に安曇野に観光にやってきたが、
夏場の信濃松川駅周辺で「ラーメン屋無いすか…」と前日に遊び過ぎてくたびれ果てた二人はひたすらiPhoneで周辺のグルメを検索していたが、
そんな洒落た店などあの周辺にはあるわけはなかったのだ。
池田町のハーブにまつわるやばそうな話も聞いたこともおもしろく印象に残っているが、
Sho Sugita名義としては別途、松本のエレクトロ音響シーンを収めたCD-Rコンピ「Bricolage」にもこれより長尺な楽曲が収録されているので、
こういう楽曲が気に入った方はマーキングレコーズの取り扱いになるので、そちらのショッピングサイトでお買い求めいただきたい。
その他の活動としては日本語詩集の英語翻訳の仕事も素晴らしく、そちらもマーキングレコーズの実店舗には在庫があるはずだ。
あとつぶれた顔の飼い猫が可愛すぎて、インスラグラムは猫の写真のみのアカウントがありますよ。

09.GENEI - close

「DOPEなHOPE」というギブミーにおけるキャリアを問わず誰でも気軽に出演できる新人専科のイベントは、
その出演後はあらゆる主要イベントラインナップに配置されることが多いが、どうやらGENEIもそんな経緯をもつ一人。
スローモーションするような情景がシンセサイザーやドラムマシンの低速BPMによって紡がれて、
家で真昼間まで寝過ごして、パンイチでだらだらとトイレと布団との往復を繰り返すような明るい閉塞感を感じる1曲。
もしこれがギブミーで流れていたら、ライブスペースからカウンターに逃れて、そのまま表に出てしまいそうな気分になる。

10.レペゼンパンツ - oyster

キャッチコピーはストレンジラウンジトラックメーカーというレペゼンパンツ。
テクノ的アプローチのTR-808の音とちょっと良い意味でアホっぽいフレーズがオリエンタルで愉快な気分になれる。
テイスト的には意外と「そこにいる Vol.2」に収録されているテクノ宇宙人おしゃべりアートの音楽性にマッチするのではないかと感じ、
お互いにイベントを組んでみたり、トラック提供などをしてみては良いのではないかと下世話なことも考えたりしてしまう。
おしゃべりアートがテクノ宇宙人を自称するならば、こちらはパンツを代表しているのであるのだから、
そういった意味でも相性は良いかと。

11.マッスルNTT - レモングラス

マッスルNTTのマッスルNTTであるところのよしだあさお氏は活動フィールドは静岡県の浜松であるが、
ギブミーでの何かの打ち上げに居合わせていたので、

松本市での仕事で間借りしているマンスリーマンションでの騒動なども面白おかしくきいていたが、
よしだあさお氏がニューヨークにて行ったアンビエント主体のラップトップソロライブでは、
そういったトラックよりもふいに挿入したリズム楽曲のほうでニューヨークのアフロたちが急に踊り狂いはじめたという話も良かった。
マッスルNTTのような音楽性からは想像できないかもしれないが、色々と多才な人ではあるのだろう。
打ち上げでは新美さんに「マッスルNTTさん今度ギブミーでDJやってよ~」なんて依頼されていたが、
どうせなら僕もレコードを回してみたかったと今ハンカチを噛みしめている。

12.おいら - はるだから

Rikoさんの大学時代の後輩ということでコスモス鉄道は僕のなかで認識をもっているが、
イントロのエレアコのストローク音を一聴して、これはたぶんコスモス鉄道だろうなと予測できるのは僕もなんだか感慨深い。
そのコスモス鉄道のメインソングライター兼ボーカルの金沢里花子さんのおいら名義でのソロ音源。
弾き語り主体だが、一部バンドメンバーがバッキング楽器を担当。
春うららかな縄手通りの川辺の桜たちを横切りながら、今でもなんとなくやめられないタバコを買いに行く女子の姿が浮かぶ1曲だ。
金沢さんのような素朴な歌声と言うのは実はなかなか自分の身近には居なかったので、
当時から頼まれてやっていた名古屋のSSWの仕事でバッキングボーカルを担当して欲しくもあったが結局、色々実現できなかった。

そこにいる - soko ni iru 2 (Compilation of Give me little more)

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01.Nicholas Krgovich - 20 Something

カナダはヴァンクーバーのポップマエストロ、ニコラス・ケルゴヴィッチ。
当コンピレーションにおいてはニコラス・ケルゴヴィッチに限らず全体的に国外からはカナダ勢の参加者に限られるが、
実際のところはギブミーにはもっと多数の地域にまたぐ海外バンドやミュージシャンが出演している。
楽曲に関しては温かいローズピアノのような音色と背後に鳥のさえずりが配置された雨の日に家で過ごす時も合うようなハートウォーミングなトラック。
ボーカリゼーションにおいては非常にソウルミュージックが好きなんだろうな、という印象を受ける。
国内ツアーではテニスコーツや国内レーベル7epのサポートを受けツアーを行ったそうだ。
松本駅前で海外の方がギターケースやドラムを運んでいる様子などをふと見ると、
音楽が好きな人はああ、彼らは今夜あたりギブミーでライブがあるんだろうなと本当に思うものである。
また世界が落ち着いたらそういった光景を取り戻して欲しいものだ。

02.Marker Starling - Hue And Cry (I Am Robot And Proud Remix)

トロントのボニープリンスビリーのような風貌のマーカー・スターリング。
2015年リリースのアルバム「Rosy Maze」収録曲のリミックス版を提供している。
親交のほどは知らないが同じくカナダのフィールドで活躍し、
こと日本でもエレクトロニカ界隈には多大な支持のあるI Am Robot And Proudのリミックスワークになるが、
サーチしてみたところ他の公式音源には未収録だと思われるのでどちらのファンにとっても貴重かと思われる。
原曲よりもタイム感は短くなっていることがそれを感じさせないまとまりがあり、
モバイルで気軽に持ち運びながら聴けるような1曲になっている。

03.ボブ次男 - ボブ次男の夢

バイトに明け暮れて、たまにレコード買っては聴かずにユーチューブを観る次男。
昨日、確かにあのダンスホールで少しの量のコロナビールとヨラテンゴなんかで来たる夏に浮かれてたはずなのに、
なんて思いながら、またさえない気持ちでバイト先に向かうローカル駅近くで電柱に向けてiPhoneカメラを向けている。
今のところボブ次男における唯一の代表曲であり各サブスクリプション配信で先行リリースされているが、
コンピレーションの流れに含まれると聴きごたえを増している。
ギターとルーパーのみで繰り広げられるライブパフォーマンスにはローファイポップの現場感覚を体現するものがある。
レコーディングはギブミーリトルモアで新美さんによって行われた。

04.おしゃべりアート - 21世紀のこども

テクノ宇宙人としての独自の生態系を持ち音楽活動をするおしゃべりアートはある日、
そもそもテクノが好きではなかったという身もふたもないことを言っていたような気がするが、
ファーストアルバムを発表後、Phewをゲストに迎えたリリースパーティーを刊行し、
そういった経緯を踏まえると、
Phewのけっして浮かれはしない歌の調子のような、かといって暗い印象でもなくあっけらかんとした感触もあり、
80年代のニューウェーブ的な独自のボーカルスタイルやサウンドをアルバム曲よりも昇華できているかのように感じられる。
楽曲としては昭和期の娯楽雑誌で妄想されたような未来絵図が描かれている。
ローカル電車をジャックしたイベントを行ったり、Youtubeチャンネルを開設、デビューアルバムがマーキングレコーズでベストセールスをあげるなど、
知ろうとすれば話題に事欠かないが、なによりもこうして立派な音源を作れていることを僕自身も誇りに思う。

05.伊藤圭 - hardlive

マーキングレコーズのRikoさんが「伊藤圭さんもとうとう山から降りてくださって…」
というようなことをカウンターで言っていた日があって、
その方は人間ではない希少動物かなにかなのかと思ってしまったが、
海外でレコーディングされたトランプのような歌詞カードを含めた丁寧な作りのカセットテープを1本出しており、
松本市内の喫茶店サムシングテンダー(ちょっと凝ったお焼きが食べれる)の店長をキーボードに、
キセルの辻村兄貴もバッキングドラムに迎えたあらゆる猛者を従えたオリジナルライブバンドは、
なかなかにフォーキーでほっこりするものがったが、
こちらの提供曲は打って変わっては力強いサックスとファンキーなギターカッティングが見受けられ、
普段の曲長とは違うコンピならではのアクセントソングになっている。

06.コモド大真面目 - いろなあろわな

どちらかと言えば柳沢耕吉としてコロナ渦においても日夜、ドネーション形式の遠隔インプロセッションを繰り広げ
僕自身は参加はできなかったが過去に縄もんセッションなるワークショップセッションを過去に開催していたり、
ギタリストとして錚々たるジャズプレイヤー達や実験的な演奏家との共演歴をもっている印象が強いのだが、
こちらはコモド大真面目としての、中学からの友人との共作されたらしい1曲。「いわなあろわな」はかなり素朴でフォーキーな佳曲であり、
自身を「あろわな」としての現実への感想が少しジャパニーズオルタナ的な進行で語られる。
実はとっつにきにくいかに思われがちなインプロビゼーションミュージックへの深い理解と純真な歌心というのは、
音楽そのものへの姿勢としては根本的には共通した通念があると思っているが、
そういった共通の理解を一般リスナーに広めるためには今後もインプロ界隈や僕も含め努力を続けていくべきだと思っている。
柳沢さんとは出張演奏から松本市内に帰ってきたタイミングで遭遇して松本駅前で少しだけ世間話をした覚えがあるが
このような所感を述べる機会があるとは思わなかった。

07.yumbo - 実在する世の中

こちらの仙台発の大所帯バンドについては国内では僕が説明を述べるほどではないと思うが、
松本市においてはyumboを地元に呼びたいミュージシャンや、ギブミーの新美さんも企画をサポートしたという、
同市内のモールホールにおけるTara Jane O'Neilの来日イベントの際に対バンとしてyumboが迎えられた。
そちらのライブでは大所帯の上に、楽器編成をリアルタイムで変更するというのは音響のほうもかなり苦労したらしいが、
メインソングライターである澁谷さんの楽曲を多数のメンバーで解釈して多義的に表現するというのはやはり他に類をみないものがある。
長野県でyumboのディスコグラフィーが手軽に手に入るのはギブミーとマーキングレコーズだけだろう。
尚、yumbo自体は60曲以上にも及ぶアーカイブ(しかも未発表が3分の2)をbandcampに4作に分けて放出したようなのでそちらもチェックして頂きたい。
こちらの楽曲はギブミーでのライブ録音テイクを採用しており、
世の中は自分の存在の範疇とは否応なしに常に存在するが、なぜ知りたくもないそんな事柄を報せてくれるのかという感想を抱く。

08.daborabo - Navire commune

ダボラボこと山﨑美帆さんは画家やイラストレーターとして松本市内の喫茶店サムシングテンダーで個展を行ったり、
マーキングレコーズのロゴマークを描いたのも実は山﨑美帆さん。
聴いたあとにその事実に気づくと楽曲は彼女のかわいいだけじゃなく儚い画風に通じるものがあるような気はするが、
こんな作曲をするということはあまり知らなかったことではある。
個人的にはsawakoさんの作品とチャイルディスク関連の作品を彷彿とさせるようなエクスペリメンタル寄りの楽曲ながら、
鍵盤ハーモニカなどのサウンドの質感はかわいいものがあり、
そこはやはり画に通じるものがあるかと結局は納得している次第。

09.三井未来 - 王国

自力で仲間たちと家を改装したというDIYライブスペース「井戸の底」主催である三井未来。
男性版、青葉市子のような語り口で始まるが、
あまりそういった形容は実の本人には通用しないだろうし、
三井君の感性と言うのは音楽的バックグラウンドを伴わない神秘性を帯びており、
普段は昔のゲーム音楽しか聴かないというようなことを言っていたのが印象深い。
サウンドワークにおいて、教会で歌っているようなシチュエーションをイメージするのだと言い、
弾き語り主体のなかにもあらゆる音が散りばめられており、
雲間が割れて天使が揺らいでいるようなサウンドに深みや奥行きを感じられ深化をとげている。

10.ほいぽい - NARROW FIELD

ギターとヴァイオリンのユニットである「ほいぽい」のこの楽曲を聴くと、
同コンピにキセルのメンバー楽曲が存在するせいか、
そういった京都の界隈を感じるテイストだし、のほほんとした歌声もかなりのキセルフォロワーであるような気がする。
ドラムやベースも二人のメンバー間で多重録音しているのかもしれないが、
ボーカルの処理以外はあまりローファイにはなり過ぎず、少し例えはしたが充分にオリジナリティはある。
まばゆくも少しせつない秋の心地になれるようなバイオリンの重なりとほのぼのとした歌声と歌詞は少しだけかげっている。
全体的にこういったミドルテンポの楽曲は少なく思えるのでインターバル的に聴けるのは有意義かもしれない。

11.WPX(alone) - 境界を越えて

あまり過去形にはしたくないが長野県在住時に唯一、僕がリマスタリングを担当したアーティストであり、
そちらの作品はサブスクリプション配信されているが、
WPX(alone)とあるように、普段の活動名義はアローンを外したWPX(ワイパックスと読む)の名のもとに行われ、
10代の凄腕ドラマーやボーカルも別のシンガーに任せ、自らはギタープレイに徹する印象が強く、こちらの本人による弾き語り音源は貴重に思われる。
ティーンエイジャーや自分より若い才能に自らの音楽性を託す姿勢も素晴らしいものがあるが、
そういった彼らとは違い色々と経験したなりの哀愁を感じるのでたまにはこういうのもやってほしい。

12.ベアーズマーキン - 真空状態(studio version)

地元のこういう優良ポップバンドが集まるのもギブミーの懐の深さのひとつであり、
その他にも当該コンピには収録されなかったが地元勢ではヒーターズなどのバンドも印象に残っている。
どちらも関西のボロフェスタなどには余裕で出演していそうな印象だが、
ベアーズマーキンと共に人気が昇る東京のバンドCHIIO(ベアーズマーキンと同じような男女編成)などと対バンイベントを組めるのは、
日中のみならずギブミーにおいても営業マンのような役職を果たすTANGINGUGUNであったイッセーくんの計らいが大きいのではと思う。
ちなみにそのイッセーくん初めての主催イベントで僕はなにかの気の迷いで音響担当を名乗り出たが、
僕がミキサーの高域を上げすぎて、リハーサルにおいてバンド勢は全編もれなく壮大なハウリングを起こしたイベントだったが、
本編は新美さんが終始、僕の横にやってきて鬼のように監修および指導してくれて音は割れずに済んだ。
あれ以来、僕はマスタリングの仕事なんかでも高域のフォーカスポイントをゆっくりと時間をかけて落とし始めている。

13.The Rainy - あなたの海

ややメンバーチェンジを経て、現在は安定しているらしい東京のバンドThe Rainy。
「心の戦争をみてきました」という歌詞が痛烈な印象を残す2nd EP「あなたの海」からのタイトルトラックを提供。
シューゲイザーの系譜を謳われているが、そういったサウンド重視の多くのバンドよりは、
人の痛みをよく知っているんだろうな、と感じる先述の歌詞やそもそもの楽曲の良さが光る。
けっして古臭いと言いたいわけではなく、
タイムスリップした昔の大学生がソングライティングを行い現代のサウンドを手に入れているような印象を受ける。

終わりに

3密などと言われているが、ギブミーのようなそこまで広くもないDIYなライブスペースが、
きっと努力はしているだろうけれど、ディスタンスをとりながら椅子などを配置し、ライブイベントを敢行するのは少し困難を極めるかもしれないし、
そもそも人間間のコミュニケーションそのものが密接でなくて、どうして楽しめたり実行できると言うのだろう。
音楽パフォーマンスに興味が無い方々からすれば、満員電車の光景とライブスペースをイコールでくくる人もいるらしいが、
それは悪意のある印象操作でしかないし、ただたまに音楽を表現したい、享受したい人たちが息をしていられる場所だって必要ですよと言っているだけ。
そしてそのようなローカルルールはちゃんと守れる運営サイドとお客さん達だと僕は信じています。

また現在まではそれほど開催されていないようだったが、そもそも映画上映スペースとしての運営形態もとっているので、
あまりマイナーな映像の娯楽は全くと言って皆無な松本市ではやはりギブミーのようなイベントスペースは多義的に今後も機能していくべきなのだ。

ライブイベントの開始時にマイクやスピーカーを通さず新美さんが「これからライブがはじまりますー!」と、
わざわざ会場内に向かって告げる光景が再開されることを願いながら。

Give Me Little More
http://givemelittlemore.blogspot.com/

Marking Records
https://markingrecords.com/

画像3

恥ずかしながらGive Me Little MoreとMarking Recordsの店内写真を全然撮っていなかったので

Marking Recordsの看板猫サラちゃんの写真を最後に載せておきます。

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